第10話 名案

 地上に降りた私たちを待っていたのは、賞賛の声ではなく叱責の言葉だった。心配から来る、しかし強い言葉を、出来るだけ聞かせないように彼らの耳をふさぐ私を、ジョルジュたちは不思議そうな顔で見ていた。

 彼らはまだ、自分たちの魔法について気づいていない。世界があるということすら、まだ知らないだろう。

「アガット、心配したんだぞ!」

 しかし、その言葉に返せる言葉はない。私はジョルジュたちにミルクを上げながら、熱いシルバーを背負って、頭を下げた。

 あちこちで魔法使いの赤ちゃんたちが泣いている。イーモンがいとおし気に見たはずの邸宅に、彼らの泣き声が響いている。このまま、私一人では、彼らは育てきれないかもしれない。

 私は昼間に誓ったばかりの約束に、泣きそうになった。



 困り果てた私は、人生の先輩に相談することにした。

「切羽詰まって呼ぶから何かと思ったら。そんなことね」

 信じられないことに、私の今生の母はそう、断言した。

 アレフ伯はこうして数ヶ月に一度、家族との面会を許してくれていた。私本人が帰省することは忙しすぎて叶わなければ、両親の送迎までしてくれる。

 どうしてそんな好待遇をしてくれるのか。以前、問いかけるとアレフ伯は目を剥いた。

「私たちが恩人を冷遇する愚か者だと思うのかね」

 そういう彼を、優しい顔で見ていたカーネリアが言う。

「あなたが思うより、魔法使いのベビーシッターというのは、私たちにとっては貴重なのよ。そう言えばあなたにも理解できるかしら、ひねくれ屋さん」

 あのとき、私は理解できなかったが、曖昧に頷いた。

 仕事なら何でもできる私は、なぜ、仕事でもないのに自分の大事なものを大事にしてくれる彼らのことが理解できなかった。

 そんな私のことを今生で最もわかっている人間は、私に問いかける。

「あなたは赤ちゃんの世話がおろそかになっていると悩んでいる訳ね。周囲の皆の仕事は?」

「子守を含む、家事全般」

「そう、子守だけが仕事なのはあなた」

「つまり、やっぱり私一人でやらなければならないわけね」

 それもそうか、そう納得しかけた私を母は制止する。

「あなたも私のむすめなのだから自分を大事にしないと悲しむわよ」

「誰が?」

 本気で聞いた私に、母はため息を吐いた。

「私も、父も、弟も、妹も、もう全員よ!」

 その考え方は、私には衝撃的だった。だって前世から、身を削るのが私の努力であり、愛情だった。

「どうしてあなた一人でしているの」

「だって、皆忙しい」

 あなたはあなたを守るために必死になりなさいと、母は言った。

「あなたが身を削れなくなったとき、次はシルバーよ」

 それが出来るなら、ジョルジュとエクトルの双子の解決策を教えてあげるわ。そう彼女は言った。

「本当!?」

「その代わり、あなた一人で働かなくて済むようになる方法を今考えて教えなさい」

 私は考え込む。母は紅茶を飲みながら、静かに待っていた。

 答えが出るまでに、ポット三杯分の紅茶が必要だった。

 答えを話せば、母はにっこりと笑う。どうやら及第点はもらえたようだった。

「早く、それをしなさいね」

「わかった、やるから。早く、ジョルジュたちのお世話の方法のアイデアを教えて!」

 にっこり笑ったまま、母は器用にもため息を吐いた。

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