第14話ブルックナーと九

起伏の多い、壮大なシンフォニー

浮世離れした、瓦礫の山で、微かにたなびく麝香の香り。

手を取る。握手。その手には花束と、スコアの波が押し寄せる。

ブルックナー

第9番目のシンフォニー。

偉大なる交響曲は、9で終わる。

人の人生も、そのようのもの。

終止符、始まり、繰り返していく、寄せては返す波の、涙のように、浮かび上がるイマージュの球体。楽園。地球。

僕らは、イマージュの世界を旅した冒険旅行家

孤独な、夢の中を、踊るように、走り続けた。

アダージョ、静かに、きわめて、慎重に、かつ、夢見るように。

続いていく。

楽園のアダージョ。キミの隣のアンダンテ。ファルセットで鳴るヴァイオリン。

記憶に通い合う、愛の交流。美しい歌姫。君の声が、楽園に響くとき、鳥は踊り狐は泣き、空も揺れ、僕は抱きしめる。

歌姫。海の底で、緩やかに揺れる、交響曲のリズムに乗って。

共に泳ごう。

静かに、静かに、時に、激しく。さらに、美しく。

言葉は無くなる。潤んだ瞳のその輝きだけが、僕に伝える。キミだけに伝わる。隠されたシンフォニーのそのスコア。

ブルックナー

第9番目のシンフォニー。

僕と君は、空をいく、鎖のとれた、挽歌に乗って。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る