第47話 やる気を出した聖女2
ハナコ様の部屋へ入ると既に朝食を終えていた。
何故か伸びをしたり腕を回したりして体をほぐしているハナコ様を不思議な感じで見ているとダンテ様とジェラルド様がやって来た。
リゼットが私を少し離れたところへ呼ぶとコソっと話してくれた。
「ハナコ様が力を使えるようになったかも知れないの」
「そうなの?」
私が二日寝込んでいる間に一体何があったのだろう?
リゼットによれば私が朦朧とした状態で屋敷に運び込まれグウェイン様の部屋に連れて行かれた後、ずっと側に付いていてくれたらしい。リゼットが私を着替えさせ体を拭いてくれたらしがそれも手伝ってくれたそうだ。
とっても恥ずかしい。
怪我の跡こそ無かったが服のズタボロさで私がどれだけ重症だったか窺え二人共ゾッとしたらしい。
そこから私の手を握って心配そうにしていたがその時突然私の体がほんのり光に包まれたらしい。
「一瞬の事で見たのは私とハナコ様だけだったの。でもグウェイン様に報告すると直ぐに魔石を用意してハナコ様の手に握らせて反対の手でエレオノーラの手を握らせたの」
さっきはどういう気持ちで私の手を握っていたのかと尋ねられそれを再現したら……
「やはり……恐らくこれが聖なる力でしょう」
ダンテ様が興奮しながら声をあげた。ハナコ様の手には拳大の魔石が握られそれは全く色がなく完璧に透き通っていた。
「やっぱり色がついてませんけどこれでいいのですか?」
ハナコ様が心配そうにまじまじと魔石を自分の目の高さに持ち上げ見つめている。
「えぇ、さっきまで薄い赤色でしたがそれが消えたのですから何かの力が魔石に入ったということです」
「へぇ〜、これが聖なる力かぁ」
まるで他人事のような感想をおっしゃりジェラルド様がクスッと笑った。
「これまでの訓練をしたときと何が違うかご自分でおわかりになりますか?」
今までだってけして手を抜いていた訳では無いだろうけどうまく行かなかった。
「そうですね……あまり良くわかりませんがただ、どうにかしてエレオノーラさんを助けたくて。
最初は急いで森から帰る馬車の中で神様でも誰でもいいからエレオノーラさんを助けてって祈ったんです。でも全然駄目で、エレオノーラさんの熱がどんどん高くなってきて、それで私の中の聖なる力に怒ったんです。今使えなくていつ使うつもりなの!このままエレオノーラさんが苦しむ姿を見ているだけなの?って」
駄目だ……泣けてきた……
「ハナコ様、私のためにそこまで、うぅ、グスッ」
慌てて涙を拭いて鼻をすすった。
「何を言ってるんですか、最初に私を助けてくれたのはエレオノーラさんの方ですよ」
ニッコリ微笑む神々しい顔は正真正銘、聖女のものだった。
部屋の中が感動で溢れていたところへ何やら廊下が騒がしくなった。バタバタと走る音が聞こえ隣の部屋のドアが開けられ乱暴に閉じられた。その時点でダンテ様とジェラルド様がハナコ様を庇うように身構えると直ぐにこの部屋のドアが開いた。
「姉さん!!無事か!?」
「エドガール!?一体どうしたの!」
駆け込んできたのは最愛の弟エドガールで私を見るなり両手を広げ抱きしめてくれた。
「姉さん……無事だったんだね……行方不明になって瀕死の重症を負ったと聞いて……ここに来るまで生きた心地がしなかったよ」
エドガールは私達より三日遅れて後を追ってここへ向かっていたらしい。途中コンクエスト子爵邸で私の事を聞き駆けつけてくれた。
「心配かけたわね、もう大丈夫よ」
「まだ全快じゃないだろ?もう少し大人しく休んでなくちゃ駄目だ。魔物に襲われた後は発熱するって……平気なのか?」
エドガールが私を眺めて不思議そうな顔をした。私は自慢気にハナコ様に視線を向けた。
「聖女様に助けて頂いたのよ」
ハナコ様が恥ずかしそうにエドガールを見て頬を染めている。
恥じらう乙女……キュンとしちゃう。
エドガールが驚いた顔をしながらハナコ様に近づき深々と頭を下げた。
「ハナコ様、姉を助けて頂きありがとうございます」
「いえそんな、私が助けてもらった事の方が沢山あるんです。元はと言えば私が無理に森へ付いてきてもらったことがいけなかったんです」
申し訳無さそうに俯くハナコ様の手をエドガールがそっと握る。
「どうせついて行くと決めたのは姉ですよね。だったら気にしなくてもいいのですよ、姉は言い出したら聞きませんから。感謝します」
よくわかってるね、弟よ。
エドガールは握った手を恭しく持ち上げると手の甲にくちびるを落とした。
「ぅひゃ!」
ハナコ様が驚いて小さく悲鳴をあげる。
惜しい!そこは可愛く「キャッ」って言って欲しかった。
ハナコ様が魔石に聖なる力を込められるようになったと確信し訓練を続けた。エドガールも来たばかりで疲れているようだったがその様子を何故か誇らしげに見ている。きっと心の中で「俺の聖女が……」とか思ってるんじゃないの?やだやだ青春してるねぇ〜。
「なんだよ」
私の生暖かい視線に気づいたエドガールが少し頬を染めた。
「いえいえ、気にしないで。姉さんは弟の成長を喜んでいるだけよ」
そう言うと隣でリゼットが意外そうな顔をした。
「けっこう理解あるのね。弟の恋愛関係を妨害とかしないんだ」
「えぇ!?しないわよ、私はエドガールが幸せになることを望んでいるのにどうしてそんな事しなきゃいけないの?」
「その話うちの兄に聞かせてくれない?」
リゼットのお兄さんはリゼットが誰かお近づきになりそうになると邪魔してくるらしい。
「女性と男性は違うんじゃないですか?お兄さんは心配なんですよ」
エドガールが口を挟む。
「もしかしてエドガールってエレオノーラの恋愛関係に口を出すとか?」
リゼットの鋭い質問にエドガールが口ごもった。
「そ、それは……相手によりますよ。父からも警戒するよう言いつかってますし」
警戒!?誰に?
「あら……それはそれは」
リゼットが意地悪そうな顔してエドガールをニヤリとして見た。
「なっ!なんです?」
「私は何も」
意味深な発言にエドガールが動揺し私の腕を掴んだ。
「姉さん、誰かいるの?」
「誰かって、なんのこと?」
思わずキョトンとしてしまう。
なんなの?
「いや、わからないなら良いんだ。ちょっと……驚いただけ」
ホッとし、またハナコ様の訓練を見始めた。
「凄いわね、ある種似た者
何故かリゼットが感心したように私を見た。
訓練の後昼食を取り午後からは少し自由な時間を過ごしていた。ハナコ様は訓練を頑張り過ぎたのかダルさを訴えお昼寝している。
魔力を使い過ぎたとき同様、聖なる力も使い過ぎると疲れてダルくなるようだ。
グウェイン様は仕事が長引き遅めの昼食を取るところだ。
テーブルをはさんでオーガスト様と二人で食べているお世話をしていたが、やはり病み上がりで少し疲れてきた。
「ここはいいよ、休んで」
リゼットが小声でそう言ってくれる。だけど私が寝込んでいる間も負担をかけてしまったからこれ以上は申し訳ない。
「あと少しだから。お食事が終わったら休憩出来るし」
ハナコ様は眠っているしグウェイン様もこの後また書類仕事をするはずだ。
「はぁ、リゼット、片付けはここのメイドにやらせろ。エレオノーラ、ここに来い」
グウェイン様に話が聞こえてしまったのか指示を出してくれた。私達の負担を考え伯爵家のメイドを受け入れてくれるようだ。
チャンドラー伯爵家についてからは屋敷のメイドは一度もグウェイン様の部屋へ入って来ない。恐らくオーガスト様が先回りして来ないよう要請していたのだろう。やれやれひと安心だよ。
私は呼ばれるままに傍へ行くと手を取られソファへ連れて行かれ並んで座らされた。
「何をする気ですか?」
訳がわからず首をひねるとグウェイン様がニンマリ笑って横になり私の膝へ頭を載せた。
「少し眠るから動くな」
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