第28話 使えない聖女2
可愛く鼻にシワを寄せたハナコ様が魔石を睨んでいると、不意に薄い黄色だった魔石がキラキラと輝き始めた。
「あぁっ!見て下さい出来ました!」
その魔石は見たこともない輝きを放ち、それを握りしめてハナコ様がハシャイでいる。とても微笑ましい光景だがなんだか変だ。
いつの間にか隣にいたグウェイン様の顔を見ると満足気なご様子。
「あの魔石に何か仕掛けがあるのですか?」
「そういうことだ」
ハシャイでいたハナコ様がその言葉にショックを受けて泣きそうになっている。
「仕掛けがあるならそう言って下さいよ、せっかく出来たと思ったのに……」
項垂れるハナコ様からジェラルド様がキラキラ光る魔石を受け取りダンテ様に渡す。
「今訓練を始めたばかりなのに出来るわけありませんよ。とにかく本番はそれなりに振る舞って頂かなくてはいけませんからお願いしますよ」
「それなりって?」
魔石を箱に片付けながらダンテ様が説明を始めた。
本番、つまりこの後大会議室で大臣たちなど大勢の前で聖なる力のお披露目があるが、その際にさっきと同じ様に魔石を使う。手に載せたらハナコ様には真剣な顔で魔力を操っている振りをしてもらう。
魔石が輝きを放ち始めたら聖なる力を魔石に込めることが出来たということでハナコ様は聖女であると証明した事になる、という筋書きのようだ。
「聖なる力の魔力ってキラキラしているんですね」
ハナコ様の言葉をジェラルド様がニッコリと笑って否定する。
「さぁ、知りません」
「えぇっ!それじゃ偽物だってバレるんじゃないんですか?」
「大丈夫です、聖なる力の魔力なんて誰も見たことが無いんですから」
しれっとグウェイン様言ってのけた。
これは国中をペテンにかける作戦に巻き込まれているんじゃないだろうか……
私が不安気に見えたのかグウェイン様がこっちを見下ろしてニヤリと笑った。
「心配いらない、この準備を進めたのはエルビンだ」
父さん詐欺の片棒も担げるんだ。もう凄いとしかいいようがない。
ハナコ様の部屋がノックされいよいよ大臣たちが大会議室に集まったことを知らされた。
「では私達の後ろに付いてきて下さい。それから必要な事以外話さないで下さい。黙っている方が神秘的ですから、何か話されるときは……そうですね、エレオノーラに耳打ちしてください」
ジェラルド様がそう言いダンテ様と共に前を歩きハナコ様が後に続く。ハナコ様のお世話をするために私が付き添うように付いて行く。
グウェイン様が少し間をあけて最後に大会議室に入ると、そこにはひと目聖なる力を見ようと部門に関わらず大勢の貴族達が詰めかけていた。
召喚の時より熱気が凄く皆の期待に満ちた目がギラギラとして怖さを感じる。こんな異様な感じでお披露目なんてハナコ様は大丈夫だろうか?
大きく開かれたドアをくぐると大会議室の中央奥に向かっていつの間にか赤い絨毯が敷かれその奥に三人の高貴な方々が立っていらっしゃるのがわかった。
目を伏せつつそのまま静かに進み高貴な方の手前で立ち止まるとハナコ様を挟むようにジェラルド様とダンテ様が両脇へはけた。グウェイン様がハナコ様の隣へ立ち私はハナコ様の少し後ろへつく。
「ファーガス王子殿下にご挨拶申し上げます」
グウェイン様の低く響く声にハナコ様がビクリとする。ゆっくりと
「グウェイン、突然来てしまいすまない。皆、顔をあげてくれ」
まだ声変わりしていない少年の澄んだ声がする。確か王子殿下はまだ十二歳。
「いいえ、殿下ならいらっしゃると予感しておりました」
公爵であるグウェイン様は勿論面識があるようで殿下の性格もご存知なのだろう。グウェイン様が顔を上げたことをまた横目で確認しながらハナコ様も恐る恐るという感じで顔をあげた。
「あっ……」
さっそくハナコ様が何か動揺されているご様子。私は直ぐにハナコ様の背後からこそっと近づいた。
「どうされました?」
隣にいるグウェイン様には聞こえているだろうが出来るだけ小さな声で問う。ハナコ様は少し体をこちらへ向けると手で口元を隠しながら答えた。
「私が見た王子様と違う」
「バルコニーで落ちそうになった時に見た方ですか?」
「そう、あの時の王子様は金髪だった」
「でしたら王子殿下ではありませんね」
目の前にいるファーガス王子殿下は少し赤みがかった茶色い髪で、国王陛下と同じ色だ。そして今この国に他に王子はいない。
「勝手に何を話しておる、王子殿下の御前だぞ」
私とハナコ様が話している事にファーガス王子の右隣に立つこの国の国防大臣ソロモン・チャンドラー伯爵が不機嫌な声をあげ、ハナコ様が肩をびくりとさせる。
「チャンドラー伯爵、貴殿が準備していた侍女がハナコ様に無礼を働いたというがどういう基準で選んだのか説明してもらおうか」
私とハナコ様が驚いているとすかさずグウェイン様が話をそらし助け舟を出してくれた。
「なっ……それは、え、選び抜かれた上位貴族の娘の中から……慎重に厳選し」
恐らく自分に有利に働く家門から選んだのだろう。チャンドラー伯爵がしどろもどろに答えようとしていたがグウェイン様は最後まで聞かず。
「厳選した割に使えぬ者が選ばれたのか、上位貴族でも名ばかりの者がいるようだ」
この大陸を救って頂くために呼び出した聖女であるハナコ様を軽んじる奴などどこか遠くへポイしてやりたい、という気持ちをグウェイン様が代弁してくれているようだ。素晴らしい上司です。
恥を欠かされたという顔のチャンドラー伯爵を無視して、ファーガス王子殿下の左隣にいる騎士団長アンガス・ゴーサンス公爵が面倒くさそうな顔で手をヒラヒラさせて仕切り直してくれる。
「侍女は追い払ってメイドを入れたのだからそれはもういいだろう。早く聖なる力とやらを見せてくれ、ファーガス王子殿下もお待ちだ」
ゴーサンス公爵は私をチラリと見てグウェイン様にニヤリとする。グウェイン様は鼻を鳴らすとハナコ様と私を連れ王子殿下から少し距離を取る。
「では、ダンテ、ジェラルド」
名前を呼ばれた二人はさっきの部屋で行ったように箱から魔石を取り出しハナコ様に握らせた。ハナコ様はそれを緊張した顔でぎゅっと握りしめる。
「私はすぐそこにおりますから」
心細いであろうハナコ様から離れる事は不本意だがこのままお披露目の場にメイドが図々しくいるわけにはいかない。ハナコ様に大丈夫ですよという感じでニッコリ微笑み下がっていった。
王子殿下の前でハナコ様が握りしめた魔石を鼻にシワを寄せて睨んでいる。私的にはとても可愛らしいが他の方々はちょっとえっ?って顔をしている。確かにあの可愛らしいお顔が急に臭いものを嗅いだように見えるのかも知れない。
大勢が見守る中ググッと鼻にシワを寄せ魔石を握る手にも力が入っている様子だが一向にあのキラキラが現れない。さっきは直ぐに光り出したのに何だか様子が変だ。ダンテ様の顔を見ると気の所為か焦っているようにも見受けられる。もしかして失敗している?
こちらからはグウェイン様の顔は見えないが微動だにしない背中に無言で訴える。
グウェイン様!何とかしてください!!
流石にハナコ様もちょっと焦りだしますます鼻にシワを寄せて顔色を悪くし、魔石を握る手が白くなるほど力を込めて震えているのがわかる。
お願いグウェイン様!ハナコ様を助けて!
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