第16話 奴隷部門襲撃①
「第15、12部隊壊滅! 現在もその被害急速に拡大中であります!」
本部にいるププラの元に魔導通信が入る。
「なんだぇどうなっているんだぇ‼ 」
ププラは額に脂汗をかく。
「一体何がどうなっているんだぇ!」
「それが……敵はたった一人であります」
「は?たった一人に訓練を積んだ我が戦闘部隊が壊滅させられてるんだぇ!?」
ビバレントの幹部に仕える戦闘要員は、皆本格的な訓練を受けたプロである。
「お、応援を、応援を要請するんだぇ!」
その言葉にその場にいた親衛隊たちも即座に動く。
「この付近で応援できそうな部隊は、アーデナ様の部隊であります」
親衛隊の1人が地図を広げる。
「あ、アーデナぁ!! よりによってヤツに借りを作ることになるなんて最悪だぇ。 …………でも背に腹は変えられないぇ、応援を要請するぇ!!」
その号令に親衛隊たちは皆一斉に動き出す。しかし――
「ププラ様、先ほどの火柱で……その、外部との通信をするための魔道具を置いていた部屋が燃えてしまいまして」
魔導通信をしてきた部下から報告が上がる。
ププラは座っていた椅子のひじ掛けを握りしめる。
「なんだと!」
ププラは両手で髪を掻きむしる。
「…………奴隷、奴隷どもを今すぐ出荷するぇ! すでに出荷したのを合わせれば市場に十分な数を提供できるはずだぇ!」
「……それなのですが」
親衛隊の1人が重そうに口を開く。
「現在、捕えていた奴隷たちが忽然と姿を消し、出荷したものも突然の土砂崩れで道が塞がれ、立ち往生しているという報告が……」
「ふざけるなぁ!!」
ププラは真っ黒な魔力のオーラを放ちながら机をたたきそれを破壊する。
「こんなに一瞬で策を封じられてるぇ………… おいちゃんたちは一体何に襲撃されたんだぇ」
ププラは力なく椅子に座り、天を仰ぐ
「クソ!!逃げるなお前ら!!!!」
目の前の圧倒的強者の前にププラの部隊はなすすべもなく壊滅させられていく。
「敵はたった一人、たった一人の女なんだぞ!」
ゆっくりと歩いてくる。その両手には力なく気を失っている12、13部隊の部隊長を持っていた。
「ひ、ひぇ!! 部隊長まであんなに一瞬で――」
今まで訓練してきた自身の力がその化け物の前では一切通じない。
戦いとかそんな次元ではない。ただの蹂躙であった。
「――おいおい、情けねぇ部隊長どもだな!!」
その声にビバレントの兵士たちは機敏に反応する。
「あなたは親衛隊隊長の――ザック様!!」
幹部を守護することを任せられた親衛隊の中でも特に実力が秀でていたものだけがなれる親衛隊隊長。
ザック・オリバはこの奴隷部門でププラに次ぐNo.2にあたる人物だ。
「こんなに面白そうなイベントが起きているのによぅ、本部で会議なんてやってられねぇよな!」
そういうと、ザックは飛び上がりアンの前に着地する。
「見ろ!お前ら、ザック様が来てくれたぞ! もう大丈夫だ!!」
兵士たちはザックの登場に歓喜する。
「よう、嬢ちゃん。随分と楽しそうじゃねぇか」
「…………」
アンは無表情で輝きを失った瞳をザックに向ける。
「よぉ、おめーは何の目的でこんなことしてんだよ」
「人助けだや」
質問にアンは平たんな口調で返答する。
「……人助けだぁ、……ぷっ、くははははっはははははははは!!」
ザックは涙を流すほど大笑いする。
「お前そんなんでこのビバレントに喧嘩売ろうってのかよ!!」
「…………」
アンは無言だった。
「――そうかよ」
ザックは背中に背負っていた大剣を抜く。
「おめぇの戦闘見てたがよ、体術オンリーでここまで圧倒するなんてなぁ。恐らくSランクの身体強化魔法でも使ってるんだろ」
アンは終始無言で彼の話を聞いている。
「けどなぁ、そんなSランクでも勝てねぇ上の力ってのがあるんだよ――イデアルクロスってのがよぉ」
ザックは一瞬でアンとの距離を詰め剣を振る。
「俺のイデアルは”威力増大”。 この剣に少しでも触れたら致命傷を負うぜぇ!」
アンはその剣撃をギリギリのところで躱す。
空を切ったその剣圧で近くの建物が吹き飛んでしまう。
――数分後
「おらおら、躱してばっかじゃ俺には勝てないぜぇ!」
ザックの一方的な攻撃をアンは間一髪で躱し続けていた。
「す、すごい流石ザック様だ。あの化け物を圧倒している」
傷を負った兵士たちは皆希望のまなざしで戦闘を見つめている。
「……お前何で、こんな犯罪組織にいるんだや?」
その質問にザックは攻撃の手を止める。
「どういうことだ?」
「剣の腕がこのくらいあるなら普通に王国の兵士としても、冒険者としてもそれなりの地位につけると思うんだや」
ザックはニヤッと片側の口角を上げる。
「単純な話だ。面白くねぇからだよ」
ザックは大剣を地面に突き刺す。
「俺はなぁ。ガキの時から遊ぶことが好きだった。その中でもよぉ格別に楽しいのは命を使った遊びだ。だからよぉ虫でも動物でもその命を使った遊びを考えていた。……けどよぉアイツらは本能のままにしか行動しねぇ、動きが単純なんだよ。だから俺は飽きちまった。そんでよ、んじゃ”人間”だったらちげーんじゃねぇかって考えたんだ。それが大当たり! 人間は頭が良いから死ぬ恐怖を言葉にできる、今まで隠してきた本性を死の間際に見せたりする、これほど”遊び”に適した生き物はいねぇ! だからこの奴隷部門に入ったってわけだ。わかりやすいだろ?」
「……お前か」
話を聞き終えたアンはボソッとつぶやく。
「あ? なんだって?」
「あの駆け掛けとかいうのを考えたのはお前だったんだや」
それを聞いたザックは満面の笑みを浮かべる。
「あぁそうだよ! あの遊びは何回やっても飽きねぇ! 今のところ俺の考えた遊びの中で最高傑作だ!!」
アンは無言で立ち尽くす。
「…………さて、そろそろ戦闘再開といこうか!!!!!!」
ザックは剣を抜き、アンに切りかかる。
そしてそれはついに命中する。
「ははははははははははは!! 喰らったな!! さぁ吹き飛べ!」
――しかし、そこには片手で剣を受け止めるアンの姿があった。
「は?」
ザックは何が起きたのか分かっていない。
「……奴隷とひとくくりにしているお前らは、その人たちに家族がいることを知らない」
ザックは剣を動かそうとするが全く動かせない。
「……その人たちがどれだけ生きたかったか、なんてことにお前らは思いを馳せない」
「てめぇ! 何しやがった! 剣を放しやがれ」
アンは目を見開く。
「そして無知なお前は、こんなものがイデアルクロスだと勘違いしているんだや」
アンから放たれるオーラが急激にその勢いを増す。
爆発。そんな表現が当てはまるようなそれだった。
「本物のイデアルクロスをその身に教えてやるんだや」
《あとがき》
この作品が気になった方はぜひ、評価、フォロー、コメントしてくださるとすっごく嬉しいです!
次回は11月 30日 水曜日の20時46分に投稿します。
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