第15話 怒りをかう

「ププラ様奴隷の数がもうじき目標の数へ届きます」


フエモラに存在するとある平原。


この場所は魔法によって何もない所に見えるが、巨大犯罪組織ビバレント(奴隷部門)のアジトとなっている。


この場所を統括するのはビバレント幹部 奴隷部門幹部(スレイブスタビライザー)のププラ・ラチコネだ。


「おぅ、そうかぇ。んじゃ明日仕入れてくる分は余分になるかぁ?」


人間とオークのハーフであるププラは4mはある巨漢を折り曲げ、部下の顔を覗き込む。


と同時に床がミシミシと軋む。この男はかなりの肥満体でその体重は500キロ近い。


そしてその顔のおぞましい造形には部下も思わず息をのんでしまう。


「は、はい恐らく」


「おっおっおっおっ!!!」


それを聞いたププラは独特な笑い声をあげる。


手足をばたつかせて喜ぶ様はまるで子供だ。


「それじゃあ!それじゃあ! 駆け掛けをするぇ」


豚のような鼻をフガフガと鳴らしながら提案する。


「ププラ様その遊びはこの前もなさったではないですか!? また奴隷の数が大分と減っていしまいますぞ」


側近の男はこの前の遊びで多くの奴隷を失ったことを思い出し頭を抱える。


「大丈夫だぇ、今回は数を少なくやるから、V様にも怒られないんだぇ」





 その日の夜――――――



アジトの広場に子供を含めた5人の男の奴隷と家族や親しき人と共に人さらいに捕まった5人の女の奴隷、計10人が集まった。


駆け掛けとは女の奴隷は5人の男の奴隷の中から一人選び、選ばれた奴隷が100m走り切ることができたら、女の奴隷の家族や親しき人を殺されずに済む。


ただし弓矢が男の奴隷を襲うので走り切るのはほぼ不可能である。


もし選んだ男が射抜かれれば、その時点でその女の家族や親しき人は殺される。――これが駆け掛けである。


「おねがぁぁぁぁぁぁい!!走り切ってぇぇぇぇ!!」


女たちは必死の思いで選んだ男がゴールすることを願う。


しかしその願い虚しく男たちはどんどんと射抜かれていってしまう。


残ったのはとある少年、ただ一人だ。


「お願い走り切ってあと少しよ!! 」


少年を選んだ女は両手を合わせて願う。




 「お姉ちゃんのために僕は……」


田舎の少年、ルイは矢に当たらぬようジグザグに走り回る。


他の屈強な男どもに比べて足は遅いが、小柄なため的としては小さく当てずらいらしい。


暗がりで一人でいる所をたまたま人さらいに捕まってしまったルイであったが、奴隷生活の中で唯一優しくしてくれたのが、彼を選んだマリーだ。


妹と共に捕まったマリーはルイのことを弟の様に可愛がり、世話をした。


そんなマリーのためにルイは駆ける。残り10mだ。


その時だった。ルイの右足に一本の矢が突き刺さる。


「ルイ!!!!!!!!!!!」


マリーは思わず立ち上がる。


右足を完全に動かせなくなったルイはそのままうつぶせに倒れる。


見ていたビバレントの連中は大盛り上がりだ。


「…………絶対に死なすもんか!」


ルイは這いつくばりながらゴールに向かって進む。


彼の這った後には赤黒い血の跡が描かれるされる。


「……はぁ、あと少し……あと少し……」


ルイは気力だけでゴールラインに向かう。


「……ルイ、ルイありがとう!! がんばれ! もう少しよ!」


マリーは泣きながら、声を枯らしルイに声援を送る。


そしてついにルイはゴールラインに手をかける。


「……やった。やったよ、マリーさん」


ルイは失血により朦朧とした意識の中、マリーのことを思い浮かべる。


「……やっと、恩返しでき――」


その時、ルイの目に絶望的な光景が映る。


「……96mライン」


ルイがゴールだと思ったそのラインはなんと96m地点を表すラインだった。


50m付近にもこんなものはなく、誰が見ても明らかに、ルイの様にケガを負ったものの心を弄ぶためのもの。


会場から悪党どもの笑い声が聞こえる。


彼らは明らかにこの状況を予見し楽しんでいた。


「……クソ!! バカにするな!」


ルイはもう一度這って本当のゴールへと前進するが――


今までルイの付近をかすめていただけの矢が、次々に彼の体に命中する。


まるで今までわざと外してきたかの様に……………………


ルイの小さな体に次々と穴が開く。


次々と襲い来る激痛にルイは叫び声をあげる。


しかしそれでも彼は必死にゴールに向かって前進する。


「あと少し…………あと……少し……あ、と」


―もう何も見えない。


ルイはゴールラインの数センチ手前で力尽きてしまった。



 「おっおっおっおっ!!! やっぱりこの遊びはさいこうだぇ!!!」


ププラは小躍りしながら駆け掛けを楽しんでいた。


「今回はおいちゃん自ら奴隷たちを処刑してやるんだぇ」


女に選ばれた男たちは全員死んだ。


つまり女たちの家族や親しい人たちは全員処刑されることが決定されたのである。


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! お母さん!! 助けてぇぇぇ!!」


「お願いします!! 私が代わりになりますから、娘を殺さないでぇぇ!」


マリーの隣にいた女の奴隷はププラに懇願する。


「そうかぇ、そうしてやってもいいぞ。おいちゃんは死ぬ顔が見たいだけだぇ」


意外にもププラはその願いを素直に聞き入れ、杖をその娘から母親に向ける。


「……ありがとうございます」


女はそういうと、娘の元へ駆けていき強く抱きしめる。


「お母さん……」


娘は母の行く末を悟ったのか力いっぱい抱きしめ返す。


「終わったかぇ」


ププラはいやらしい笑みを浮かべその光景を見守っていた。


「はい」


女は覚悟を決め、ププラの構える杖の前に立つ。


「ライトニング」


ププラの杖から雷撃が放たれる。


しかしそれは母親の方ではなく、娘の方へ向けられる。


「あぁぁぁぁ!! 痛い! イタイイタイイタイよ!!!!」


激痛に悶えたのち、その子は動かなくなった。


ただ微かにヒューヒューという呼吸音だけを鳴らしている。


母親は言葉を失い呆然と立ち尽くす。


「おっおっ! 何回味わってもこの瞬間はいいいいい!!」


ププラは満面の笑みでブンブンと杖を振る。


「あぁぁぁぁぁぁ!!」


母親は焼け焦げた娘を抱え叫び続けた。



 「さて、次はお前だぇ」


遂にマリーの番だ。


彼女の前に妹のシャルが連行されてくる。


「お姉ちゃん!!」


「大丈夫よ!!お姉ちゃんが必ず何とかするから!!!!」


恐怖で震えるシャルの手をマリーは強く握りしめる。


―助ける手段など思いついていない。


いつもの口癖でそう言ってしまった。


ププラの杖の先がシャルに向けられる。


(いざとなったら私が飛び込んで代わりに……でもその後きっとあいつはシャルを殺す。どうしよう、どうしよう、………………これは夢なのかしら。きっとそうよ最近はあまり眠れていなかったし、きっときっとそうよ! あぁきっともうすぐ目が覚めるわ。そしたらルイもシャルも目の前にいて……)


「ライトニング」


電撃がシャルに放たれる。


「痛い!!!いたいよお姉ちゃん!!!!」


その叫び声にマリーは現実に戻される。


気づけば自分を抑え込む部下たちを払いのけ、シャルを抱きしめその雷撃を自身も受けていた。


(神様どうか、この地獄からお救いください!!!)


「おっおっおっ!いいぇ、いいぇ飽きない演出だぇ」


そう言ってププラが魔法の威力を強めようとした時――


ドォォォォンという地響きと共に、アジトのあちこちから火柱が上がる。




 「何事かぇ!?」


ププラは動揺しあたりを見回す。


「ププラ様!!アジトの武器庫並びに通信室が今の火柱で焼かれてしまいました」


部下の1人がププラに報告する。


「外部からの魔法干渉を受けない結界を張っていたはずだぇ!?」


すると突然空にアジトを覆いつくすほどの巨大な魔方陣が現れる。


「あれは、なんだぇ」


アジトにいる捕らわれた奴隷、ビバレント、全員がその魔方陣に目を奪われる。


「あ、あー聞こえてますでしょうか?」


魔方陣から気の抜けた男の声が聞こえる。


「えぇと、単刀直入に言います。こちらは今からそちらのアジトを制圧するとともに奴隷の皆さんを開放するつもりなので、終活とかまぁ、いろいろ準備をしといてください」


「なんだぁ、お前誰だぇ⁉ ビバレントに手を出すことがどういうことかわかるってるのかえぇ!!!」


ププラは頭の血管を浮かび上がらせる。


「親衛隊を呼ぶぇ!今すぐ本部に集めるんだぇ!!」


ププラは部下にそういうとその場を立ち去った。


再び魔方陣から声が聞こえる。


「えぇと、本当はもっとスマートに制圧と開放をするつもりだったんですけど、ちょっとね……なんかこう……連中にすっげー腹立ったので、ビバレントの皆さんには一度地獄を見せようと全会一致で決定しました。今から化け物が来るのでせいぜい逃げまどってください」


その言葉を最後に魔方陣は消え去った。



 「ププラ様!!空が!」


本部に戻る途中で部下の1人が空を指さす。


ププラが目をやると、空にはヒビが入っていた。そのヒビはどんどんと大きくなり、広がっていく。


「結界が……破られるぇ」


「そんな! あれはV様直々にいただいた結界ですよそれがそんな簡単に」


バリンッ!


ガラスが割れるような音共に、結界が完全に破壊される。


そして何かが空から降ってきた。


「アレは一体なんだぇ!?」


それは先ほどププラがいた広場に落ちる。



 




  「もう大丈夫、助けに来たんだや」


予定通りアンが広場に現れる。


黄金のオーラを纏った彼女から今まで見たことないほどの怒りを感じる。


「こんなにキレてるとこ、初めて見たわ」


俺はアンから放たれる魔力を感じ、思わず鳥肌が立つ。





《あとがき》

この作品が気になった方はぜひ、評価、フォロー、コメントしてくださるとすっごく嬉しいです!



次回は11月 27日 日曜日の12時13分に投稿します。

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