第14話 始動
「……あとは顔は暗くてよく見えなかったけど、馬車にはVのマークがついていたわ」
レネはだいぶと落ち着きを取り戻したようで、連れ去れた時の様子を教えてくれた。
「ありがとう、少し待っててくれ」
俺は顎を手で支え、目を閉じ俯く。
「あれは何してるの?」
レネはアンの肩を軽く叩き、尋ねる。
「あれは……うーん、ちょっと理解できない領域の話だや」
アンに尋ねたことで、さらに謎が深まってしまったようだった。
そんな二人の会話に耳を傾けつつも俺は自身のメモ機能を使い、人さらい達の情報を整理する。
レギとの修行のおかげでこの力もだいぶと強化された。
まず念書スキルを得たおかげで、メモするとき指を動かす必要がなくなり、かなり楽になった。
自分が念じるだけでメモに書くことができるようになったのだ。
そして次に速読スキル。文字通り速読できるようになった。
今はこの二つのおかげでよりスピーディーに情報を取集できる。
「なるほど、何かしらの大きな犯罪組織が関わっているみたいだな…………」
新聞、本、レネの情報、ギルドで話していた受付嬢や冒険者達の噂話……使えそうな情報は片っ端からメモしていたおかげで、ある程度の予想はつけられた。
「ただ昔から王都に存在しているって感じじゃない。ここ最近だ、となると奴らがどうしてバレずに王都まで手を広げてきたのか……」
「王都内に協力者がいるんじゃないかや?」
アンと俺は壁に張った王都の地図を見ながら、意見を出し合う。
「そうだな、その可能性が一番高い。……となると誰が協力したのかってことだよな」
「うーん、おっきい犯罪組織と手を組むってことは……お金とか裏社会の力が欲しい人なんだや?」
「確かにそれもあるだろうが……、相手側の視点で考えてみよう。大きな犯罪組織が手を貸すほどの相手って結構限られてくるんじゃないか」
「あー、ってことはある程度王都内でも権力がある人が協力者になるってことかや」
「力が欲しいかつ、ある程度の力を持ったやつ……」
「「最近、力をつけてきた貴族!」」
俺とアンは目を合わせ同時に言った。
っと同時に俺はメモ機能を使い最近力をつけてきた貴族に関する情報を整理する。
「……ポーガス家で多分間違いないだろうな」
俺はそう結論づける。
「ポーガス家ってことは、ラムラの領主の?」
「そうだ」
アンはペンを手に取り、地図のラムラと書いてある箇所に丸をつける。
「ってことはここら辺にその悪い人たちのアジトがあるんだや!」
「……と言いたいところだけれど、多分違う」
「え?」
「ほら、ラムラは山に囲まれているしそんなに広い土地ではないだろ? 人さらいってことはさらってきた人を奴隷として売りさばくわけだ。ということは人を売るまで生かして置ける十分な環境が求められる……となると、ここ」
俺はアンからペンを受け取りフエモラと書いてあるところに丸を書く。
「ここにあるんじゃないかって思うんだ」
「確かにここは十分なスペースあるけど、ポーガス家の領土からかなり離れるだやよ」
「ここはポーガス家が力をつけ始めて間もないころに失墜したタリス家が収める領土なんだ。ただこのタリス家は失墜した貴族の中で結構異色で、ポーガス家の脅威となりうるほどの力がある貴族とは言い難い存在なんだよ。そこを早々に蹴落としたということは何か他の理由があったのだろう」
「……環境の整備かや」
「そうだ」
俺はフエモラにバツマークを書く。 目標とした場所の印だ。
「アンタ達……一体何者なのよ」
振り向くと、レネがぽかんと口を開けて呆気に取られていた。
「アタシさらった奴らの特徴を言っただけよ……それでアジトの位置まで突き止めるなんて……」
「そうかや? すごいかや?」
アンは嬉しそうに頭を掻く。
「調子乗んなアン。これはまだ予測の話なんだから、これが間違っていた可能性もだな……」
「あぁ、面倒くさいやつだや! 普段はテキトーのくせにこういう時は慎重すぎるだや。ここまで絞れたら後は強襲でいいんだや」
「お前それ、レギが聞いたら高縄の刑だぞ」
「……それだけは嫌だや」
「……っプ、プハハハハハハハハハハ」
俺たちのやり取りを見ていたレネは突然吹き出す。
「なんだ、どこがツボなんだ」
「アレンのズボンのチャックが開いてるからだや」
はぁ? 俺はそんな社会に失礼なことは うわっほんとだ。
「アンタ達って本当に変わっているわよね。アタシが勇者になりたいって言った時も一切バカにしないし、すごい人なのかと思ったら何かくだらないことで喧嘩するし、ほんと……変わってる」
うわぁぁぁぁぁぁぁその笑顔100万ゴールド。かわいいいいいい!
尊死しそうだったが何とか耐える。
よかった、俺たちの実力を垣間見て、少し安心してくれたようだ。
「よし、んじゃ行きますか」
俺はそういうと自身の小刀を取り出し指を切る。
「ええ!? いきなり何してんの!」
「ん? あぁ今から転移するんだよフエモラに」
「この距離を転移するって、そんなことできるわけ」
ベットから降りようとするレネをアンは抑える。
「大丈夫だや。このアレンの魔法なら」
そう言ってアンは俺の後ろに立つ。
「アン、任せたぞ!」
「おう、こいなんだや!!!」
「次元解錠の位置! 【転移】」
動作規定は正確な座標が記された地図に自身の血液を塗り、後ろに倒れながら杖を振ること。杖の握り、振り方は規定なし……
アンが倒れる俺を受け止めた瞬間二人は転移した。
これは低級の転移魔法なんだが、ジレント式にかかればどんなところにだって行ける。
俺たちはフエモラにある一番標高が高い山の山頂に転移する。
「さて、まず敵のアジト探しとそのあと、敵の数、位置、武器、属性、建物の構造……ま、いつも通りやるか」
俺の言葉にアンは少し不安そうな顔をしていた。
「どうした?」
「いや、レネの妹ちゃん……早く助けないと、奴隷って何されるかわからないし。その、レネの妹ちゃんってことは……」
「……あぁそうだな。きっとピト族でありリリメリアの可能性も高いだろうな。そうなると不良品とされて処分される可能性もある。もし本当に猶予がない時は……」
アンに背中を向ける。
「俺のイデアルクロスを――」
「それはダメだや!! その時は私が使うんだや!」
アンの目にはうっすら涙が浮かんでいるようにも見えた。
《あとがき》
この作品が気になった方はぜひ、評価、フォロー、コメントしてくださるとすっごく嬉しいです!
次回は11月 23日 水曜日の20時46分に投稿します。
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