第13話 妹ちゃん助ける決意

 ――ガチャ。


シリルたちが会議をしている際中、部屋の扉が開き佐伯(アレン)のクラスメイト達が入ってくる。


彼らは集合時間より一時間近く遅刻しているのにも関わらず一切悪びれない。


「あ、あの、勇者の皆さま、会議の時間は把握してらっしゃたのでしょうか?」


そう言ったシリルは引きつった愛想笑いを浮かべていた。


「――あ? 知らないわよそんなの」


瀬川はシリルに一瞬だけ目をやりそう返答すると、すぐ友達とのおしゃべりに戻る。


「もう、会議は始まっていてですね。そろそろ時間通りに来ていただかないと――」


「は? あのね、あたし達は心(賀口)が言うから仕方なく来てやってんの。来てやったんだからありがとうございますでしょ?」


瀬川の魔眼が光る。


瀬川の取り巻きの女子たちもシリルを睨みつける。


シリルの顎の筋肉が固く膨らむ。


彼女はギリッという歯ぎしりが部屋中に聞こえそうなほど奥歯を噛みしめていた。



 アレンやアンがレギの元で修業している間、世間ではクラスメイトたちの活躍が話題になっていた。


チートな能力を持った彼らは次々と強敵たちを倒し、ついには魔王軍の幹部の1人をも討伐してしまった。


しかしその功績に比例するように彼らの素行は悪くなっていき、まるで自分たちが世界の中心であるかの様に自分勝手なふるまいをし始めた。


女、ギャンブル、……やりたい放題であった。


ギャンブルに負けた腹いせに何の関係もない家を燃やすというとんでもない事件も起きたのだが、国は彼らに対して何もできなかった。


クラスメイト達の中心人物である賀口の持つ精霊魔法はそれ一つで国の軍隊に並ぶ力がある。


他のクラスメイト達も賀口には及ばないがそれぞれとんでもない力を持つものばかりだ。


そんな彼らを怒らせたら、この国がどうなるか。


だから国も容易に彼らの行動に口を出せずにいた。



 「まぁ、落ち着けよ英子」


後ろから賀口が現れ、瀬川の肩に手を置く。


「みんな、席に座ってこの無能共の話を聞いてやるだけ聞いてやろうじゃないか」


そんな賀口の号令にクラスメイト達はけだるそうではあったが素直に従う。


「――おお!いい女がいるじゃねーか」


山理はさっそくララに目を付け、隣に座る。


「この会議が終わったらよ、俺の部屋にこいよ」


山理は鼻息を荒げながらララの腕をつかむ。


「――いやぁ、それはちょっと……」


ララはかなり引く。


「――相変わらず女の誘い方を知らないな。童貞君」


山理はその聞き覚えのある声にギョッとしてララの奥にいるリディアの存在に気づく。


リディアは口角の片側を上げ余裕そうな笑みを浮かべて山理を見ていた。


「バカにするな! 俺はあれから100は超える数、女を抱いてきた来たんだ!」


「ならその豊富な経験から目の前の女を抱くべきか考えるんだな」


リディアの凄みにまたしても口ごもる山理であった。


一方ララは普段ツンケンしているリディアが自分を守ってくれたことに感動して、その腕に抱きついていた。


「えーでは、勇者の皆さまが今来られたので、頭から報告をやり直したいと思います」


怒り心頭であったシリルも何とか抑え、気を取り直して会議を再開する。




【その頃、アレンたちの様子】


 俺とアンは近くの宿にレネを連れていき、治療をした。


治療と言っても俺が回復魔法を使って即行で治したんだが。


しかし心に負ったダメージは大きく、レネはベットから体を起き上がらせるのがやっとだった。


「ゆっくりでいい。何が起きたか説明してくれないか?」


レネはアンが持ってきた暖かい飲みものが入ったコップを両手で握り、俯く。


――そしてぽつりぽつりと話始めた。


「アタシ、この町に用事があってしばらく宿に泊まってたの……でも急に嫌な予感がして、家に帰ったら数時間前に妹が連れ去られたって……お父さんとお母さんが……」


コップに入った液体が小刻みに震える。


「それでアタシ、すぐに馬で追いかけたの……運よく追いつくことはできたんだけど……アタシ……何もできなかった……」


アンは涙を流すレネを優しく抱きしめる。


「妹はアタシの全て……あの子がいたからどんなに否定されても勇者になることを諦めないでいられる……でもあの子がいないならもう……」


レネがどんなにバカにされても勇者を諦めなかったのは妹が心の支えだったからなのか。


彼女は多分また助けに行くのだろう。


だが、恐らく同じ目に会うだろう。


アンと目が合い俺たちの意見は合致していると互いに悟る。


「妹ちゃんを連れてった奴らの特徴は何かあるか?」


その言葉にレネは俺の目をじっと見つめる。かわいいなおい。


「助けてくれるの?」


「助けてってレネが言ったんだや!」


アンは微笑む。


「そうは言ったけど……だってこんな会ったばっかりのアタシのお願い……危ない目に合うのは分かってるし……」


助けてほしい。でも、あったばかりの人達をこんな危険なことに巻き込めない……といった感情の間で揺れ動いているみたいだ。


「協力するから、その代わり俺たちが妹ちゃんを助けれたら、仲間になってくれ」


「妹が助かるなら、アタシ…………なんでもするわ!」


レネは俺の手を握る。惚れた。


「ん? 今何でもって……」


その俺の発言に間髪入れず、アンの拳が飛んでくる。


壁に埋まった俺を気にもかけず、アンはレネの手を握る。


「別に条件なくても助けるんだや。このバカ(アレン)はきっとレネがそうしないと納得できないだろうから条件を出しただけだや。だから嫌なら全然仲間にならなくても大丈夫だやよ。どっちにしろ助けるから」


レネは再び涙を流す。


「何で……そこまでしてくれるの?」


「君が俺の手を握ってくれた時、手にたくさんのマメと皮が固くなっているのが分かった。それは剣を握った時にできるものだ。俺も頭のおかしい師匠に魔法使なのに死ぬほど剣を振らされたからわかる。それに君の魔力は洗練されている。どれも血のにじむような努力をしていないとならないものだ……君はどんなにバカにされても、あきらめず、努力してきた。そんな人の夢がこんな理不尽で終わっていいものか」


君の夢が叶うところを俺は見たい。


……と壁に頭を埋めたまま男は思った。



 「ところで、ちょっと不思議だったんだけど、どうしてもう助けられることは確定で話を進めているの?」


レネは文字通り不思議そうに尋ねる。


「あぁー、なんでだろうな? ハハハ……」


いかんいかん、修行を終えてからというもの俺もアンも不可能を感じなくなってるわ。


まぁたぶんできるけど。







《あとがき》

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次回は11月 20日 日曜日の20時46分に投稿します。

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