第12話 仲間になろうよ

「仲間にするって!? あの子を?」


「そうだや」


アンはキラキラした瞳でこちらを見つめてくる。


「はぁ、こういうのはな、もっと慎重にならなきゃいけないもんなんだけど――」


俺はアンにGoodのポーズをする。


「大賛成だ。俺もあの子の夢を叶えてやりたい」


「そうだや! 」


少女はとんでもなく厄介な2人に目をつけられてしまったのである。



数日後



「俺たちと一緒に冒険者になろう!!!」


俺はギルドで少女を見つけるや否や彼女の手を握りブンブンと振りながらそう告げる。


彼女はその勢いに呆気に取られてしまっていた。


「……ありがとう。でもごめん」


しかし彼女は俺の手を振り払うと、軽く頭を下げる。


「アタシは1人で大丈夫だから。……ていうか、あんなこと言っときながら何だけど、アタシが勇者になるには相当時間が……それこそ一生分位の時間がかかると思う……」


少女は微笑みながら俯く。


それを見た俺は今度はやさしく少女の手を握る。


自信がない。


彼女は決して口にはださないが、雰囲気がそう言っていた。


「君は勇者ってなんだと思うんだ?」


俺は今までにない真剣な表情で少女に問いかける。


「……? 魔法も剣技も極めて魔王を討ち滅ぼす者」


少女は何を当たり前のことをと言う顔でそう返答する。


「そうだな、それもそうかもしれない。けれど勇者ってのは世界一の魔法使いでも世界一の剣士でもなれる訳じゃない。」


俺は少女の両肩を掴みその目をじっと見つめる。


「勇者っていうのは世界一勇気がある者のことを言うんだ。君はあのギルドでどんなにバカにされようが自分の意志を貫き通した。少なくともあの中で君は1番の勇者だったよ」


アンはニコニコでウンウンと頷いている。


少女は目に涙を貯めながら可愛らしい笑顔を見せてくれた。


「……そんなふうに言ってくれる人初めて」


少女は服の袖で、目を擦る。


「……3日後俺たちはまたこのギルドに来る。その時仲間になってくれるなら。また会おう」


俺達は少女と約束する。


彼女もそれを受け入れてくれた。


「君の名前は?」


「アタシはレネ。レネ・アースウィン」


俺たちとレネはそこで別れた。


「来てくれるかや?」


アンは少し不安そうだった。


まぁ、なんともお節介な2人組だからな。





3日後


 

  レネは現れなかった。


「……アレン。 あんだけ格好良く勇者とは……とか言っといて、レネ来てないんだや」


やめて、やめてアンさん。


「今、すっごい恥ずかしくなってるから!」


アンは笑いを堪えながら俺の肩を軽く叩く。


コノヤロウ、絶対レギに言いつけやがるな。


「しょ、しょうがない。こういうこともある。レネの選んだ道だ」


そういって自分を慰めつつ俺たちはギルドを後にする。


うわぁ、これしばらくアンにいじられるぞ。


そう思った瞬間――


微かにレネの魔力を感じた。


とても弱々しい、魔力だ。


アンも俺が何か感じとったことを感じとったようで、2人で直ぐにその場所へ向かう。


それはギルドの近くにある細い路地裏から発せられていた。


そこには体中に怪我を負ったレネが倒れていた。


「大丈夫か!」


アンがレネを抱き上げると、彼女は弱々しく話し始める。


「アタシの妹が……人さらいに…………助けて」




【どこかの会議室にて】


「おい、リディア! リディア聞いているのか!」


眼鏡をかけた銀髪の美女、Sランク冒険者のシリルがリディアを叱る。


「あぁ、はいはい聞いてるよ、最近勢いをつけてきた貴族がいるって話だろ」


リディアはあのキングオーガを倒した者を探しているのだが、一向に見つけられないでいた。


それからというもの、クエストのない間はずっとその愛しき人を探し続けていた。


「最近ボーっとしていることが多いぞ大丈夫なのか?」


隣に座っていたララが心配そうに問いかける。


「あぁ、まぁ大丈夫だ」


リディアはダーリンについて考えると、発情してしまいそうになるため、自身を抑えるのに必死だ。


「そこ! また無駄口を叩いていたな!! ララ! さっき言った報告の内容を言ってみろ」


シリルはララをご使命だ。


ララは頭を掻いて愛想笑いを浮かべながら口ごもる。


「はぁ、もう一度言うぞ」


シリルは眼鏡をクイッとあげる。


ララはすいませんというように頭を下げ、その様子を愉快そうに見つめていたリディアを肘で小突く。


「最近ポーガス家が急速に力をつけてきている。元はそこまで力のない貴族家であったが、ポーガス家と力が拮抗していた貴族家達が次々に失墜しはじめそれに伴い力を強めているようなのだ」


「貴族様同士の醜い蹴落とし合いなんてよくある話じゃないか」


リディアが問いかける。


その無礼な質問の仕方に少しムッとした顔をするシリルであったが、軽く咳払いをして自身を落ち着かせる。


「それがな、どうやらこのポーガス家はビバレントと関りがあるみたいなんだ」


その言葉に今度はララが反応する。


「ビバレント! あの裏社会の犯罪集団ですか?」


ビバレントは裏社会ではその名を知らぬものはいないほどの巨大犯罪組織で、数々の闇家業に手を染めている。


その幹部はSランク冒険者にも引けを取らないと言われるほどの実力者ばかりで、冒険者ギルドもその影を追ってはいるのだが、未だに捕まえられずにいた。


そしてそれを束ねるボス、Vと呼ばれる存在については一切の謎である。


「なるほど、それは放ってはおけないですね」


ララは顎に手を当て、考え込む。


「ここ最近は人さらいの被害報告も少なくない。おそらく奴らがこの王都に手を広げている。なんとしてもここで奴らのしっぽを掴むぞ!」


シリルの号令にそこに集まった高ランク冒険者たちは力強く返事をする。





【そのまた数日後】


 俺たちはある山の頂上にきていた。


この麓に見えるのはビバレントのアジトだ。


「アン、準備はいいか?」


アンは何も言わず無言でうなずく。


少し懐かしい。レギとの修行の中でアンとも幾度となく戦ったが、アンが本気モードになった時の気迫は今でも少しビビってしまう。


「よし、んじゃ行くか!」


俺たちはレネの妹ちゃん奪還作戦&あわよくばビバレントの奴隷商分野の壊滅を実行する。



《あとがき》

この作品が気になった方はぜひ、評価、フォロー、コメントしてくださるとすっごく嬉しいです!

次回は少し時系列を戻して、アレンとアンのビバレント探索からです。



次回は11月 16日 水曜日の20時46分に投稿します。

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