第11話 勇者を名乗る少女
「どう思う?」
俺は王都にある冒険者ギルドの扉の前でアンに問いかける。
するとアンは数秒間目を瞑った後――
「受付のところに男の人2人、クエストボードのところに女の人1人と男の人1人、ご飯食べるところに男の人13の女の人8だや」
「そうか、俺はクエストボードのところには女2人だと思うな」
「勝負するかや?」
俺はニヤッと笑ってドアを開ける。
そこにはアンが言った通り場所に言った通りの人がいた。ただ――
「ほら、やっぱりクエストボードのとこは女2人だったろ?」
得意げにアンの方を見ると、彼女はほっぺたを膨らましてムスッとした表情でこちらを見ていた。
「重い足音がしたから男の人だと思ったんだや、まさか重装備の女の人だったなんて」
レギがまず俺たちにつけた修業は索敵能力を高める修行だった。
敵の位置、数、武器、能力、性格あらゆる情報を迅速に入手する。
これが戦闘の基本だと。
五感が鋭いアンはそれらを駆使して索敵を、魔力感度が高い俺は魔力感知をを使って索敵する術を教わった。
……というか、足音とかでここまで正確な索敵できるアンさん……化け物すぎんだろ。
「……よし! んじゃまぁ登録と行きますか」
俺とアンは今日から冒険者になる。
「Dランクね……OK、OK」
出発するときにレギにかけてもらったステータスを偽造する魔法がうまく働いたようだ。
恐らく俺もアンも本来のステータスでいうとBかAクラスくらいはある。
しかしいきなりそんな高ランクのステータスを出すと目立つし、何せ高ランクになると、よりギルドと密接になり自由度がなくなるらしい。
そうなったら本来の目的である、”アンの父親を見つける”ができなくなる可能性があるのだ。
「……これからどうするんだや、アレン?」
「ん? そうだな、まずはアンのお父さんが最後に送ってきた本の書かれた場所、エルフの住むイブラ地方に行こうか」
「うん、でもレギはもう一人くらい仲間を入れた方が良いって言ってたんだや」
「まぁでも、そこはそう簡単に解決できないよな」
その時、バンッという大きな音を立ててギルドの扉が開く。
入口にはフードをかぶった子供が立っており、その子はヅカヅカと受付の所へ歩き出す。
「冒険者登録したいんだけど」
声からして女の子のようだ。
身長が低いため、顔の高さが受付カウンターまで届いておらず、受付嬢は身を乗り出し覗き込むような形で対応する。
「すみません。年齢を確認したいのでステータス開示をお願いできますか?」
「その前に顔を見せろよお嬢ちゃん」
横から女の子に声かけてきたのはなんとも意地の悪そうな顔をした男の冒険者達だった。
女の子はフードを深くかぶる。
「おいおい、顔も見せずに冒険者登録できると思ってんのか!」
男は無理やり彼女のフードを剥ぎとる。
女の子の姿を見た男たちは意地の悪い笑みを浮かべる。
「やっぱりそうだ。ピト族とレリア族のハーフの女がこの町にいるって噂は本当だったみたいだな……しかもその真っ赤な髪に真っ赤な瞳……お前、
彼女は真紅の瞳に真っ赤な髪をしていた。
身長は120センチくらい。 ここからじゃはっきりとは見えないが釣り目がちな顔立ちから気の強そうな印象を受ける。
身長に比べて大人っぽい雰囲気を醸し出している。
ってかめっちゃ髪がきれいだ。
ウェーブのかかった胸元まであるロングヘアに赤と言ってもその中にグラデーションがある。
艶があり、光に当たると宝石のように輝く。
……とお決まりの女性観察は置いといて。
俺はメモ機能を使ってピト族とレリア族について調べる。
ピト族:外見的特徴→身長が低く大人でも人間の子供と変わらないくらいの身長である。
《種族概要》
平和を愛し争いを好まない一族。保有魔力が少ないため狩りには向かず、農業を行って自給自足の生活をしている。ピト族が住む地域は……
レリア族:外見的特徴→青い髪青い瞳を持つ【
《種族概要》
非常に自尊心が強く、一族に誇りを持っている者が多い。また保有魔力も多く、高い戦闘能力を持つ。ただしリリメリアと呼ばれる保有魔力が少なく戦闘には向かない者が稀に産まれる。メリアは自尊心の高さゆえか差別意識が強く、リリメリアをひどく嫌い、その者たちのほとんどが一族を追放される。歴史上の有名な事件として……
「マジかよ、リリメリアでありながらピト族とか神から見放されすぎだろ」
男の仲間の1人がそう言って彼女をバカにする。
「……ステータスオープン」
彼女そんな男達の言葉を無視して手続きを進める。
「おい、無視するとはいい度胸じゃねぇか」
男は顔近づけ凄むがそれでも彼女は無視し続ける。
「……レネ・アースウィンさんですね。こちらは任意なのですが目標ランクはありますか?」
受付嬢が彼女に問いかける。
冒険者登録する時、目標ランクを伝えておくと重要度の高いランクを伸ばせそうなクエストが来た時、少しだけ優先して斡旋して貰えたりするらしい。
俺たちは別にランク上げることが目的では無いので答えなかった。
しかし、レネとかいう彼女は堂々とした口調で――
「勇者」
と短くそう言った。
「……はい?」
受付嬢は聞き間違いと思ったらしくもう一度言うように促す。
「勇者よ。アタシ、勇者になるの」
彼女はもう一度ハッキリとそう言った。
「……プッ、ギャハハハハハハハ!」
1度静まり返ったギルド内が笑いで溢れる。
ギルド内にいた俺ら以外みんな笑っている。
「おいおい、何を言い出すかと思ったら勇者になるだ? その負け組みたいな境遇でよくそんなこと言えるな」
男達は口々にレネのことをバカにする。
しかしレネは全く相手にしない。
「てめぇ、調子乗ってんじゃねぇぞ!!」
男達のリーダーっぽいやつがレネの胸倉を掴み持ち上げる。
「ピト族とリリメリアとかいう生まれながらの劣等種が勇者なんてなれると思ってんのか?」
「そうよ、なれる」
レネはあっけらかんと言い放つ。
「んなわけねぇだろ! 」
そう言うと男はレネを掴んでいない方の手で、受付嬢が書いている途中のレネの冒険者情報表を奪い取る。
「……ほら見ろ。おい聞けよみんな! こいつ魔法F、剣技Dだぜ終わってんだろ」
男は紙を高く掲げレネのステータスを晒しあげる。
「俺はなCランク冒険者なんだ。ここまで上り詰めた俺に言わせると、スタートからこのゴミステータスならせいぜいDランクが良いとこなんだよ」
男はレネの顔面に着くんじゃないかと言うほど冒険者情報表を彼女に近づける。
「……それでもアタシは勇者になる。なってみせる!」
「このガキ!」
男は我慢の限界なのかレネを思い切り投げつける。
しかも俺たちの方向に。
俺はレネ受け止めるが勢いで座っていた椅子は壊れてしまった。
「大丈夫か?」
俺は彼女の肩を掴みそう尋ねる。
……彼女は震えていた。
一瞬だがその顔には迷いも浮かんでいるようにも見えた。
しかし彼女は自身を奮い立たせるように拳を握ると、立ちあがる。
「アタシは誰に何を言われようと、ここから……今のアタシから、絶対勇者になってやるんだから!見ときなさい!!」
ギルド内がまた笑い声で溢れる。
「よっ、やってやれお嬢ちゃん」
「期待してるぜ、口だけ勇者ぁー」
皆、面白い話のネタができたと言わんばかりの笑顔で、彼女を見る。
「……俺はな、そうやって自分は凄いと勘違いしてるバカの鼻をへし折るのが大好きなんだよ」
男は手の骨をバキパキと鳴らしながら近づいてくる。
うわぁ、絶対殴るやん。
……どうしよう。
「ぶん殴ったあとその髪引きちぎってやるよ」
そう言って男は振りあげた拳をレネの顔目掛けて一気に振り下ろ――そうとしたのだが、アンが片手でそれを止める。
「もういいんだや。ギルド内での争いはご法度なんだや、それにそのくらいにしないとギルドマスター来ちゃうんだやよ」
アンは微笑みそう語りかける。
「あん?なんだお前?」
「――それとも誰でもいいから殴りたい気分だや?なら相手になるんだやよ」
アンは男の目をじっと見つめる。
俺は止める準備をする。
まぁ、アンが男をボコボコにしすぎないようにするための準備なんだが。
「……くそ、もういい。 帰るぞお前ら」
男はビビったのか仲間達を連れてギルドを出ていった。
「……ごめんね。巻き込んじゃって」
レネは俺たちの方をクルっと振り向く。え、可愛い。
「全然問題ないんだや」
アンは嬉しそうな顔で答える。
「……ありがとう」
「え?」
突然の感謝に俺らは戸惑う。
「アタシが勇者になるって言った時、あなた達だけは笑わずにいてくれた。そんな人初めてだった」
レネはそう言って微笑む、本当に嬉しそうだ。え、まじ可愛い。
「冒険者としてお互いにどっかでまた出会えるといいわね」
レネはそれを別れの挨拶に、ギルドを去っていった。
……ふと、隣のアンの様子を伺う。
アンは目を輝かせ、ルンルンしていた。
あぁ、次この子が何を言うかわかった気がする。
「アレン」
アンはそのキラキラしたまん丸の目をこちらに向ける。
「私あの子を仲間にしたいんだや!」
あぁ、やっぱり。
《あとがき》
この作品が気になった方はぜひ、評価、フォロー、コメントしてくださるとすっごく嬉しいです!
次回は11月 13日 日曜日の20時46分に投稿します。
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