第2話 弱者は追放 強者は快楽

 「ようこそお越しくださいました‼ 勇者御一行!!」


気が付くと俺たちは豪勢な宮殿に転移しており、目の前にはいかにも王っぽい人とその従者っぽい人たちが立っていた。


「事情はわかってるぜ、魔王ってのぶっ殺せばいいんだろ」


「なんと‼ 我が国の状況をすでにご存じか! 流石は選ばれた勇者様だ」


王が従者に視線を向けると従者は水晶を取り出した。


「申し訳ないのだが、さっそくあなた方のステータスを確認させてもらえないだろうか」


すると賀口はにんまりと笑い、俺を一瞥する。


「いいぜ、おいみんな並べ! 順番にな……」


 


 おぉ! という感嘆の声が王の間に響き渡る。


「なんとこれほどの加護やスキルをもっている者たちとは……はっはっはっ!! いやぁ恐れ入った」


次々に明かされるクラスメイト達のチート能力をみて異世界人たちは喜びの声を上げる。


「次は俺だな」


賀口は自信満々な様子でいうと水晶に手をかざす。


すると今までにない輝きを放ち水晶がステータスを映し出す。


それを見た瞬間、王の間にいた異世界人たち全員が口をあんぐりと上げて呆然としていいた。


「なんと、あなた様は英雄の血脈でしたか。 皆の者何をしておる早く頭を下げんか!!」


王は焦燥した様子でそう合図を送るとそこにいた俺たち以外の者が全員賀口に頭を下げる。


「ほぅ、この血脈ってのはそんなにすげーのか。でもよ、まだあと一人残ってるんだぜ・・・うちの仲間はよ」


そう言って賀口は俺の方を指さす。賀口がとんでもない能力を持っていたせいか明らかに全員の期待値が急上昇しているのがわかる。


とんでもないキラーパスだ。


「そうでした。 これほどの能力持ったお方のお仲間だきっと素晴らし能力に違いないのでしょう」


「あぁ、期待していいと思うぜ」


クラスメイト達はクスクスと笑い始める。


 


 「…………メモ機能?? これはどういった能力なのですか?」


王は目の前の現実が受け入れられないような半笑いを浮かべ尋ねてくる。


「あ、あの~これはメモ機能でその、なんといいますか旅の記録ができると言いますか…………」


俺は自身の雑魚スキルを解説させられるという公開処刑を受けていた。


「………………っぷ」


クラスの何人かはこらえきれなくなったのか、吹き出し始めている。


「つまりその、メモ機能というのはステータスに追加された機能の一部であって戦闘においては何の役にも立たないと」


俺は無言で頷く。王は左様かとぽつりとつぶやくと、豪勢なイスの背もたれに体を預ける。


「そうか、ではこの者以外のものを次の部屋に通せ」


従者たちはハキハキと返事をすると俺以外のクラスメイト達を連れて別室へと移動する。


その間クラスメイト達はみな嘲笑という言葉よく似合う笑みを浮かべて俺の方を見ていた。


 クラスメイト達が完全に王の間を出た後、王はゆっくりと口を開いた。


「さて、我が宮廷魔導士ミレイナよ。」


王がそう呼びかけると側近にいた深くローブ被った女性がその姿をあらわにする。


長身でとんでもなくスタイルが良く、髪、瞳、口紅がアメジストのような美しい紫で彩られているその女性は、なんかいかにも女王様系のSの色気をむんむんに醸し出していた。


なんか魔法使いといったらダボッとした服装を思い浮かべていたのだが、ミレイナさんすんごいぴちぴちで胸元のざっくり開いた、本当にそういうお店の女王様のような恰好であった。


「ありがとう」


俺は無意識にそんな言葉を発していた。


そんな俺を王とミレイナさんは少し訝しむ。


「……コホンッ、あー彼女が君たちを召喚する召喚魔法を使った宮廷魔導士のミレイナだ」


ミレイナさんはめちゃくちゃ優しい笑顔で俺に微笑みかけてくれた結婚したい。


「私たちの都合で一般人である君を巻き込んでしまって非常にすまない。君にはいくらかの金を渡したあとミレイナの力で平和な村へ転移してもらうことにする」


王はそう言うと、あとは任せたというようにミレイナの方をポンと叩き、王の間を後にした。


その場には俺とミレイナさんの二人っきりとなった。


とりあえず王様が良心的な人で良かったと胸をなでおろしていると――――


アッセンテ吹き飛べ!」


突然ミレイナさんが叫ぶと俺の体は10mくらい後方に吹き飛んだ。


なにが起こったのか分からず、床に強く打ちつけられた衝撃に悶えていると。


さっきとは打って変わって鬼の形相をしたミレイナさんが近づいてくる。


「貴様ぁ、貴様のようなゴミを召喚してしまったせいで、私への王の信頼が落ちてしまったではないか!」


俺は呼吸が上手くできず言葉が出ない。


「ご、ごめんな……さい」


「口を開くなこのゴミが」


ミレイナは思い切り俺の腹を蹴る。


何度も何度も・・・・


ヒールで蹴られるというのは一部の人にとっては有難いことかもしれないが、この場合はプレイではなく単なる暴力であるため強烈だ。


「王は貴様を安全な場所へ転移させろと仰ったが、そんなことするものか。 お前には地獄を見せてやる」


ミレイナは片側の口角を上げると恐らく転移魔法であろう呪文を唱える。


「貴様は魔物達が住み着く暗い森へと転移させる。もとよりこの世界に必要のない存在だ。王も気にとめないだろう」


俺の返事を聞く間もなくミレイナは魔法を発動する。


アッセンポータル転移せよ!」


瞬く間に魔方陣が俺の足元に現れて光に体を包まれる―――― 俺は意識を失った。


 




 「痛い痛い痛いたい!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


俺は転移させられた気味の悪い山のふもとに向かってひたすら走っていた。


しかし足がうまく動かせない。


さっき出会った化け物に足を噛まれたからだろうか、意識も少しずつ朦朧としてきておりだんだんと息をすることすら苦しく感じてきた。


「はぁ、はぁ、俺は何をしたんだ 」


頭の中は気づけば自分自身への怒りで溢れていた。


元の世界でも、この異世界でももっとうまく立ち回ることができたのではないか。


「いつも、いつも、いつも! 何で俺はこんな・・・・」


そんなことを考えていいる間に随分と走ってきたようで、暗い森に一筋の光が見えてきた。


あそこが山の麓だろう。


そう気を抜いた瞬間――――


俺は木の根っこに足を引っかけて、数十メートル転がり落ちる。


ゴッ  バキッ  グシャ


鋭利な岩や木々に体中をぶつける音が体内に響く。


体に痛みが走るたびに賀口たちに殴られた記憶がよみがえる。


「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」


これを言えば長いこと殴られずに済む。痛い思いせずに済む。


賀口達の暴力が終わる魔法の言葉だ。



バシャーン


森を抜けた先は川だったようだ。


泳げない俺は自分の血液で赤く染まる川の中で必死にもがくが、激流に逆らえるわけもなく力尽きた。


今頃、クラスの奴らは何をしているんだろう?




************



《そのころ王宮にて》


 「本当かよ!! この中から選んでもいいのか!! 」


大広間に通されたクラスメイト達を沢山のメイドや執事が出迎えた。それも全員が普通ではお目に関われない美男美女ばかりだ。


好きなメイド・執事を一人、自分の専属として使えさせることができるのだ。


「左様でございます。 この中から好みの者を一人お選びください。 その者は可能な限り皆様のご命令に従うことでしょう」


従者の言葉に男子たちはざわつく。その一人山理やまりが自身の選んだメイドの体を舐めまわすように見ながら口走る。


「ってことは、その、そういうことも…………?」


「ご主人様のご命令とあらば……」


メイドは顔を赤らめながらそう答える。


「ったく、異世界最高かよ!!!」


そんな声が湧き上がる。



《あとがき》

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