第45話:似たもの夫婦
買い物の帰りにマノンさん一緒にパンケーキを食べて、屋敷に帰ってくると、珍しくリクさんが出迎えてくれた。
「レーネ、国王から手紙が来ているぞ」
ぬおおおおおっ!! 私の平穏な日常はドコーーー!?
全力で取り乱してしまった私は、急いで国王さまの手紙を受け取り、手を震わせながら開封した。
その手紙には、謝罪の言葉と共に、事実が淡々と記載されている。
アーネスト家が治めていた領地には、すでに騎士団が派遣されていて、瘴気の対処に当たっているそうだ。爵位が剥奪されたこともあり、アーネスト家は事実上の解体となった。
肝心の捕縛された三人に関しては、とんでもないほどの罪が発覚していて、莫大な借金を抱えることになったらしい。
その期間、なんと百二十年。おそらく更生の余地はないと判断されたに違いない。今後は国の監視下に置かれ、過酷な労働を行なってもらうと記載されている。
なお、相変わらず本人たちは地下牢でも騒いでいるため、今後は最低限の食事以外は与えず、瘴気の毒も治療しない方針らしい。
体内に入った瘴気が僅かな量でも、長時間にわたって蝕まれ続けたら、痛みと共に肌がボロボロになり始めると思うけど……。
国王さまの決めたことなら仕方ない。きっと私が受けた苦しみと、瘴気に毒されたアーネスト領に住む民の気持ちを考えて、厳罰を与えてくださったんだろう。
因果応報とよく言うけど、上に立つ人がしっかりと判断してくれる国で本当によかったと思う。もう二度と会わなくて済むとわかり、私は心の底からホッとしていた。
でも、血の繋がった者に同情する気持ちが湧かないなんて、もしかしたら私も化け物思考になっているんじゃないかな……と心配したけど、どうやら問題なさそうだ。
一緒に手紙を見ていたリクさんも同じように安堵のため息がこぼれている。
「だいたい予想通りだな。レーネに負担がかからないように対処したみたいだ」
「多かれ少なかれ、借金の返済を求められるものと思っていましたが……」
「ベールヌイ家に籍を置いている影響もあるかもしれないが、貴重な人材として保護するように言っていた。これくらいのことはしないと、国として信用を得られないと判断したんだろう」
自分で言うのもなんだが、私って何者なんだろう、と疑問を抱かざるを得ない。
国王さまに気遣ってもらい、手紙まで送っていただけるなんて……。
ありがたい気持ちよりも先に恐れ多い気持ちが先行するよ。この手紙はおばあちゃんの栽培日誌と一緒に、大事に保管しておこう。
慎重に折り目をなぞって手紙をしまうと、リクさんが何やら言いたいことでもあるのか、恥ずかしそうに目を逸らした。
「ところで、レーネの好きな食べ物はなんだ」
「……急にどうしたんですか?」
「いろいろと落ち着いたことだし、少しくらいは祝いの席があってもいいと思ってな」
珍しく私の好みを聞き出そうとして、急速に顔が赤くなったリクさんを見ると、何を考えているのか大体のことは察する。
だ、だって……私たちは、ふ、ふ、夫婦だから!
似た者夫婦という言葉があるくらいだし、リクさんも私の好みに合わせる作戦を取ったのだろう。
「そうですか。では、等価交換といきましょう」
「ん? どういう意味だ?」
「先にリクさんの好みの服装を教えてください。そうしたら、私の好きな食べ物を教えます」
そう来たか……と言わんばかりに、リクさんは難しい顔になった。
でも、ここで引き下がるわけにはいかない。こっちは保留にしたドレスの購入が控えているんだ。
「聞き方を変える。肉か魚か、どちらが食べたいか教えてくれ」
「こちらも聞き方を変えましょう。ロングスカートかミニスカート、どちらがお好みですか?」
「おい、等価交換になっていないぞ。その質問は深く切り込みすぎだ」
「いいえ。メジャーな好みを知るという意味では、同等の質問だと思います」
自分のことを知られるのが恥ずかしいあまり、私たちは互いに折れなかった。
互いに興味を持っている、その事実を感じることができるだけで、幸せな気持ちが溢れてくる。
「仕方ない。肉料理と魚料理を両方用意するか」
「ちょっと待ってください! それはズルイですよ!」
「質問に答えないレーネが悪い」
「うぐぐっ。ここは意地を張らずに、質問を変更するしかなさそうですね。セクシー派かキュート派か、どちらでしょうか」
「あまり変わっていないぞ。その質問は却下だ」
「隠すようなことじゃありませんし、教えてくださいよ」
「その言葉、そっくりそのまま返そう」
夫婦というのは、なんて難しいんだろうか。でも、互いのことを知りたがる何気ない会話が、妙に嬉しかった。
私たちはまだ、男女の関係を成立させるために知らないことが多い。これから少しずつ距離を詰めていって、もっと夫婦らしく生きていこう。
キラキラと輝く薬草のように、私たちの未来も明るくあってほしいから。
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