第17話 パンツをめぐる論証 希少性のパンツ 3/8
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「それで、とりあえず私に報告してきたの? そんな格好いいセリフを吐いたのに? 普通、そういう時って霧ヶ峰の所に直行するもんじゃないの? 友情ってそんな感じじゃないの?」
電話口で、姉川さんは呆れた声で言った。
教室で軽い演説をかました後、ぼくが向かった先は公衆電話のある廊下だった。
「霧ヶ峰さんの所に行くのも考えたんですけど」
「何?」
「異性の家を訪ねることの気恥ずかしさってわかります?」
「理解できないこともないような気がしないこともないような……」
「あ、もういいです」
「なんだよ! 私がそんな寂しい人間だとでも!?」
「違うんですか?」
「ノーコメント」
「それに、今回霧ヶ峰を助けるためには、ぼくだけの力じゃ足らなそうなんです。担任教師が霧ヶ峰を呼び出したことを考えても、教師陣は霧ヶ峰の無実を証明するための調査に協力してくれないでしょうし」
「それで、編入をごり押しした超能力研究所に連絡して、こちらから圧力をかけるようにしてもらおうと思ったのかい? なんだ、思ったより冷静じゃないか」
正直、そこまでは考えていなかった。教師が頼れない以上、こちらにも別の大人を味方につけておく必要があると考えたから連絡しただけだ。姉川さんを『大人』の枠でとらえていいものかどうかは迷うところだったが、他に選択肢がなかった。
というか、編入のごり押しって何だろう。この学校、超能力研究所と何かつながりがあるのだろうか。いや、それについては後回しにしよう。今は霧ヶ峰を助けることに専念しないと。
「それで、そちらで何とかできないんですか?」
「無理だね。というか、やる気がない。私たちは超能力に興味はあるけど、それによって引き起こされた偏見や冤罪には興味がないからね。どうせなら、君たちが高校生らしく解決すればいいじゃないか」
「高校生らしくって何ですか?」
「とりあえず、同級生に無理やり握手をさせて『疑って悪かったね』って言わせるとか」
「それ、禍根が残り続けるやつですよね!」
誰の目から見ても解決していないことは明白なのに、形式的に解決したことにしてしまう力業。
「それが嫌なら、君が高校生探偵として事件を解決するしかないね。君が事件を調べて、真犯人を見つける。勿論、黒ずくめの連中に変な薬を飲まされて小学生の身体にされるまでがセットだよ」
「どこかで聞いたような名探偵ですね」
「いや、どちらかというと君は『やらなくていいことはやらない』とか言っちゃう省エネ系探偵だったね。身体が子供の名探偵は、割と自分からあらゆる事件に首を突っ込みたがるタイプだし」
「その分類、必要ですか?」
「そんなわけないじゃん」
姉川さんはあっけらかんと言った。
「さて、真面目な話をしておこうか。折角電話をかけて来てくれたのだから、少しくらいは有意義な話をしておこう。君は、この事件の落としどころをどこだと思っているのかな?」
「落としどころ、ですか?」
「そうだよ。落としどころ。どうすれば、霧ヶ峰を助けることが出来ると思う?」
「それは、犯人を見つけるに越したことはないんじゃないですか?」
「そうだね。それがベストだ。でも、それが出来ないとしたら、どうすればいいと思う? 仮に犯人が分からなかったら? 犯人が誰か分かっても、それを証明することが不可能だったら?」
確かに、その可能性はある。
というより、その可能性の方が高い。
ぼくは姉川さんが言うような名探偵ではないし、警察でもない。
指紋などの証拠を用意することは出来ないのだ。
「少しだけ考えるヒントを上げよう。今回君がすべきこと――というよりは、君がしたいと思っていることは、事件を解決することではなく、霧ヶ峰を救うことだ。その手段は一つじゃない」
「具体的にはどうすればいいんですか?」
「さぁ。それは、君が考えてくれ。それと、霧ヶ峰の家を今日中に訪ねておいてほしい。配しなくても、彼女は一人暮らしをしている。家族とは長い間、会っていないはずだ」
「一緒に住んでいないんですか?」
それは気付かなかった。
確かに、霧ヶ峰家の人と会ったことはなかったが、高校生で一人暮らしとは。
「詳しい事情は霧ヶ峰本人から聞いてくれたまえ。そのあたりのこともあって、霧ヶ峰は相当精神的に脆くなっている。何をするのが正解なのかは分からないが、このまま一人にしておくのが不正解だということだけは分かっている」
「そんな印象はなかったですけど」
「そう見られないように頑張っているんだよ。実際のあの子は、豆腐メンタルだよ。しかも絹ごし。少しつつくだけで、すぐにくずれちゃう」
妙に細かい表現だった。
だが、言わんとしていることは分かる。
「だから、超能力に理解のある君に頼むしかないんだ。私と約束してくれ。君が霧ヶ峰カスミを救うんだ」
「分かりました。約束します」
なんだかんだで、この人は超能力者のことをよく見ている。
普通の人と同じとして扱うのではなく。
超能力者としての人格を認める。
「白雪君、ありがとう――というわけで、早速行ってこい!」
「今ですか?」
「こういうのはスピードが命だ。いいじゃないか! 傷心の友人を慰めに行く高校生! 友情だね!」
成程、友情か。
それならば、行くしかないだろう。
そういうことに、今はしておこう。
「あるいは、一人暮らしの女子高生をアポなしで訪ねる男子高校生! 劣情だね!」
「台無しだよ!」
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