第46話
「なんだ、あんたたちクラスの出し物の客引きしてたんだろ。俺も入れてくれって言ってんだよ」
由佳と香織の二人はアリスブルーのワンピースに白いエプロンをし、『どうぞお立ち寄りください』というプレートを持っている。
「あの……、今、教室は満席で……」
「みなさん、並んでいただいているんです……」
「客引きしてんのに部屋に
こわごわと由佳が応じると、男の人は声を荒げた。酔っ払いの所為で、辺りが騒然としてしまっている。こんな行為で三年生最後の文化祭の思い出を汚させたくない。鳴海はそう思ってその騒動の中に割って入った。
「すみません。此処は高校です。学生が沢山居る中にお酒を持ち込んでもらっては困ります」
本当は、こんな風に女子に対して威圧的な男の人に立ち向かうのは怖かった。でも、何より由佳と香織が絡まれているのが、我慢ならなかったのだ。
こういう時、二次創作なら此処にさっと主人公が登場して、わき役を助けてくれるものなんだけど……、そう思いながら赤い顔をした男の人と対峙した。
「なんだあ? お前……。……あ~、なるほど生徒会ってやつかあ。じゃあ、お嬢ちゃん、俺をその権限で、つまみ出しとくれよ。おてて繋いで、さあ!?」
ぐい……っと手を引かれた。流石にぎょっとして身を固くしたけど大人の男の人の力は強かった。
引っ張られる!
そう思った時に、シュっと何かが擦れる音がしたかと思うと、引かれた手首を引き抜き、肩を庇ってくれた人が居た。
ハッとして体温の主を見ると、梶原だった。
「飲酒行為は校内で禁止されてます。生徒会会長の役目として、校外へ出て行ってもらいます」
鳴海が目を丸くして見上げた梶原は凛々しかった。まるで一年の頃に鳴海に見せていた……、そして今でも鳴海以外にはそう見せているであろう、リーダーシップ溢れるスポーツ万能な生徒会長の梶原の顔だった。
「なんだあ!? お前は!!」
「生徒会長として、校内の安全を確保するため、あなたには校外へ出てもらいます。ご一緒いただけますよね?」
にっこりと、怖い笑みを浮かべながら酔っ払いに対して梶原が言う。赤い顔をした男が腕を掴んだ梶原に対して暴れ出したのをいなして取り押さえた様子を、騒ぎを覗きに来たワークショップに参加していた子供が見て、はしゃいだ。
「すげー! おにーちゃん、かっこいー!」
すると梶原は、子供に向かってにこっと笑顔を向けると、親指を立ててこう言った。
「Do my ideal!」
にこっと子供に笑いかける梶原は、正義の味方かな? まあ、由佳が居るからカッコつけるわよね、と鳴海が理解すると、子供が嬉しそうに叫んだ。
「あっ、クロッピだ! どぅーまいあいでぃーる!! ぼく、じゅくでならったよ!!」
ええええっ!! 梶原っ!! こんな公衆の面前で性癖公開してどうすんの!!
鳴海が焦って目を見開いたのに、梶原は満足そうに微笑んでいる。
「そうか、少年。お前もクロッピを見習って、立派な大人になれよ!」
「うん!!」
少年と梶原の間に何やら友情が芽生えているが、鳴海はそれどころじゃない。今までひた隠しにして来たゆめかわオタクを自らばらすって、どういうこと!? しかも今は由佳だって居るのに!! あわあわと鳴海が泡を吹きそうになっているのに、梶原がすっきりした顔をしているのが気に食わない。
「……っ」
なによ……。なに、急に悟ったような顔、しちゃってんのよ……。こっちは今まで、一生懸命……。
なんだか悔しくて負けたような気持ちになる。騒ぎを聞きつけて周囲に集まって来ていた生徒たちのうち、ピーロを知っている人たちには、子供の「あっ、クロッピだ!」の言葉で、梶原がクロッピについていくらか知っていることはバレてしまったであろうに、そんな清々しい笑顔を振りまいて……。
……なによ……。私が腐女子を隠してることが馬鹿みたいじゃない……。私だって、本当は晴れ晴れとみんなで『TAL』のこと、話したいのに……。
それでも。どんな契約上の彼氏であっても、卒業式まではちゃんと鳴海の彼氏を演じてもらわないと困る。だって、鳴海は今でも契約上の約束を守っているのだから。
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