第45話
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東林高校の文化祭は十一月に行われ、生徒会執行部のその期の最後の仕事となる。文化祭が終われば、生徒会選挙が行われ、つまり、その年の文化祭の出来が、そのままその期の生徒会の成績となるのだ。梶原と鳴海は今までよりもいっそう真面目に取り組んだ。外部にも公開される東林高校の文化祭は、この地区では一番賑やかな文化祭だった。
造花で飾られた看板の掲げられた校門を入ってすぐの所に、校内パンフレット置き場。昇降口にはバルーンアート。各クラス、各部活ごとに出し物があって、鳴海たちのクラスは女子受けを狙ってアリスカフェを催していた。他にもお化け屋敷だの、ダーツ広場だの、寸劇会場だの、環境保護啓蒙活動だのと、催しだけでも多種多様で、生徒も外部来訪者も何処を見ようかと選ぶのに苦労する。その上、午後からは招待バンドやミスコンミスタコンまで開かれる。鳴海たち三年生は高校生活最後の思い出作りに必死だ。
「女王さま、そろそろ退店のお時間です~」
来客を赤の女王に見立てて接客するスタイルのアリスカフェは、その内装からSNS映えを狙った女子たちに大うけだった。教室内を水色の布と風船で飾って、テーブルクロスなどのファブリックを白にし、その端っこに手芸店で売っているトランブ柄のワッペンを張り付けた。勿論、ファブリックだけにとどまらず、壁にはトランプの衛兵が追いかけっこをしているさまの影絵を模して、切り抜いた黒い紙人形にフラッグガーランドの上を歩かせた。フラッグガーランドは勿論水色と白のトランプ柄である。
教室の一角をフォトスポットとして別で仕立てて、ドレープたっぷりの水色のカーテンと、ガラスビーズのシャンデリアライトの空間の中で模型の林檎をもって写真を撮れるようにしてある。
結果、カフェもフォトスポットも待ち行列が出来て、鳴海たちは大忙しだった。
「カフェでお待ちの、9番10番さま~。お入りください~」
「フォトスポット、次、4番の方、お待たせいたしました~」
フォトスポットには次々と人が吸い込まれていき、カフェスペースからは目と胃袋を満たしたお客が出ていく。列に並んでいる生徒や来訪客はみんな楽しそうで、頑張って準備してきた甲斐があるというものだった。
「なるちゃん、時間、時間!」
鳴海が白兎姿で列整理をしていたところだった。由佳がエプロンを付けたアリスワンピース姿で鳴海を呼びに来た。
「あっ、もうそんな時間?」
鳴海はこれから生徒会執行部として校内の見回りがある。教室内に設けたバックヤードに戻って白兎の被り物を脱ぎ、ブレザーを着こむと、『生徒会執行部』という紺色の腕章を着けた。生徒会室で、既にカフェから引いていた梶原たちと巡回範囲の確認をする。
「俺は校外を、清水は一階、栗里は二階、市原は三階で良いな」
「間違いないわ」
「腕章、これで大丈夫ですか?」
「『生徒会執行部』の文字がちゃんと見えてればいいんじゃない?」
お互いに身なりを確認して、三十分程度で担当区域を見回ってくることを確認する。その際に問題があれば、教師を呼ぶ手順になっている。
「よっおーし! いざ出陣! 皆のもの、無事帰還せよ!」
なんで急に時代劇なの。でもそういう意気込み方が、梶原らしかった。
校内は賑わっていた。
食品を出すクラスから香る良い匂い、お化け屋敷のクラスから聞こえる笑いと混じった悲鳴、子供たちを集めて簡単な楽器を作るワークショップをするクラスから聞こえる子供たちの賑やかな声。どこもかしこも楽しそうで、その基盤を生徒会の活動で支えられたという思いが、鳴海の心を満たしていた。
しかし、気は抜けない。時々文化祭を楽しむのではなく、生徒や来訪者にいたずらをするために訪れる輩が居るからだ。此処まで見回った限りではそう言う輩は見つからなかったけど、巡回範囲を一巡してしまうまでは気を抜けなかった。去年は三年のクラスの前で幼児の迷子が発見されており、親子で見に来ている人たちにも安全な文化祭を届けたかった。
賑わっている廊下を生徒や来訪者を避けて歩く。その時。
前方から、キャーという女子の叫び声が聞こえた。歓声というよりは悲鳴。何かあった、と察知して鳴海は廊下を走った。人だかりをかき分けていくと、廊下の真ん中で由佳と香織が顔の赤い男の人に絡まれていた。……手に、缶ビールの缶を持っている。酔っ払っているのだ。
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