第33話


その後鳴海は生徒会室に戻ると、既に清水は帰っており、栗里もまた、鳴海に約束を取り付けて、上機嫌で帰って行った。廊下に待たせてある由佳のことを思いながら、鳴海は梶原に話を持ち掛ける。


「あのさあ、梶原」

「なに」


それを言うのに、少し躊躇ったのは何故なのか。それでも梶原と由佳の為に口を開いた。


「……『契約』、止めた方がよくない?」


鳴海の言葉に、梶原が鳴海の顔をまじまじと見た。


「……考えてみたら、お互いに弱みを一つずつ握ってる段階で、お互いの弱みは言わないっていう保証になるし、……なにより、梶原、由佳の事、好きでしょ」


ズバリそう言い充てると、梶原の顔が真っ赤に熟れた。


うわー、本気だよ、この人。


「由佳のこと好きなら、私が彼女だと困るでしょ」


其処まで言うと、その先を制するように梶原が、待って! と小さく叫んだ。


「た……っ、確かに、市原と一緒にいる生田のこと、良いなと思い始めてた……。だって、人の為に行動できるとこなんて、まんまクロッピじゃんか。理想なんだよ……。……でも、それと……」


それと……?


「ピーロランドに行けなくなることを天秤に掛けたら、ピーロランドに行けないことの方が、俺にはダメージデカいんだよっっっ!!」


絞り出すような声で言う梶原に、ジャンルは違えどオタクの魂を見た気がした。鳴海だって、いくら推しカプのこと好きなままで良いと言われても、ピッシブ漁りが出来ない状態に追い込まれるのは嫌だ。


「……なるほど……。梶原の考えは、よく分かった……。じゃあ、取り敢えず」


「もう少し、このままで居させて欲しい……。……来月になったら今度は地元でピーロランドのコラボカフェもあるから、一緒に行こう……!!」


華やぐ笑顔と力強い声で言われて、脱力した。


なんだかなあ……。


でも梶原のおかげで、鳴海は今も二次創作を見ることを諦めないで済んでいるし、それはありがたいことなのだ。


だけど、なんか……、なんか、違わない……?


そんな気持ちになったのを、鳴海は自覚した。


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