第21話
「ごっ、ごっめん! 栗里くん!!」
鳴海は咄嗟に席から飛び出し、生徒会室に机で囲った四角の床にヘッドスライディングするかのように滑り込んだ。そして栗原の手が梶原のスマホを拾い上げる前に、自分の手の中に収めて安堵する。
「どっ、どうしたの、市原さん……」
突然の鳴海の奇行に、栗里がびっくりしている。しかし、何が何でもこの画像たちを隠し通さなければならない。梶原とは、お互いの秘密を守ると言う契約を交わしているのだから。
「いやあ、ごめん!! 私の見られたくない写真があるから!」
「そんなアクロバティックな技を繰り出してまでも、見られたくない写真って、なに?」
「言えないから、見られたくない写真なのよ!」
ぎゅっとスマホの液晶側をお腹に押し付けて立ち上がり、液晶を伏せて梶原に渡す。鳴海は梶原と目と目で会話した。
(うおー! あぶねー! ナイスフォローだぜ! 市原!! やっぱ、推しを持つオタク同士は助け合えるんだな!!)
(迂闊なことしないでよ!! 私の腐バレもかかってんのよ!!)
栗里は荷物を纏めて立ち上がると、机を回り込んで梶原の許へ行く。勿論梶原はスマホを鞄に隠した。
「ちょっとくらい、見せてくれたって良いでしょ。市原さんがあそこまでして見せたくない写真って、逆に興味湧いちゃうじゃない。ねえ?」
「……ねえ、じゃねえ……。これは市原が協力してくれて(ブッフェに付き合ってくれたおかげで)撮れた、俺のサイコーの宝物なんだよ」
栗原を威嚇して凄む梶原は、確かにばらしたくない宝物を守る姿勢だった。その表情を見て、ますます栗里が面白そうな顔をする。
「へえ……、そんなに意外な顔するの? 是非とも僕の前でも見せて欲しいな」
栗里は微笑みを浮かべたまま、梶原を通り越して荷物を整理している鳴海の許に来て、腰を折るとずいっと顔を寄せてきた。その距離、鼻先五センチ? ……こうやって間近で見てみると、香織たちが騒ぐのも分かる気がする。
(へえ……、確かに造作は整っているわね……。ウイリアムの王子然たる気品には及ばないけど、最初の紳士っていう印象は変わらないな……。まあ、性格がひねくれてたらどうしようもないけど)
まじまじと近距離での栗里の顔を観察する。暫くそうしていて、栗里は肩をすくめると姿勢を戻した。
「まるで反応してもらえないとなると、傷付くなあ……。僕ってそんなに魅力ない? なんだかますます市原さんに興味がわいちゃうよ」
「わかなくてもいいわよ。基本的に大事な
「そこがだんだん反応するようになるのが、恋の面白い所だよ」
猫が穴から鼠が出てくるのを待ち構えるような顔で栗里が鳴海を見るが、残念ながらそこに鼠は居ないのだ。そこへ割って入ってくるのが清水なのは、もう恒例と化した。
「先輩!! そんな先輩を振り向かない女のこと、忘れてくださいっ!!」
(恋も愛もウイリアムとテリースの間にだけあればいいし、私は常にそれを見守る立場だから、恋という名のものは私の中には存在しないんだよねっ!!)
鳴海はまとめた荷物を持って席を立つと、自分より背の高い栗里を睨みつけて、人差し指で栗里の左胸を指した。
「あー、ばかばかしい。そもそも栗里くん自身が恋してないのに、なんで私が栗里くんに恋しなきゃいけないの。そもそも論、そこから間違ってるから」
じゃあ、私、帰るから~。
ひらひらと生徒会室を出て行きながら振り返りもしないでメンバーに手を振る。鳴海の推しとは比べ物にならないくらいに、やはり現実の男子はばかばかしい。そういう意味では梶原の推しに対する愛情は理解できるから、やっぱり自分にとってリアルな恋なんてものほどどうでも良いことはないのだな。
「あっ、市原!」
生徒会室の扉を閉め際に中から梶原から名前を呼ばれて、一応彼女として立ち止まる。梶原は鞄に仕舞ったと思っていたスマホを握りしめて、生徒会室から出た鳴海に駆け寄って来てスマホの画面を鳴海に見せた。
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