第12話


翌日曜日。ホテルに立ち入るんだからと一応気を遣った格好をしてロビーに着いたら、待ち合わせ時間の十分前だというのに、既に梶原が居た。梶原も何故か満面の笑みで張り切った格好をしてそこに居た。やっぱり場所がホテルだからだろうかと思って、梶原のエスコートで最上階のラウンジフロアに着くと、その満面の笑みの理由が分かった。


「……梶原。今日はあんたが楽しむ目的じゃなくて、私を騙していたことの罰としてあんたにおごらせるつもりだったんだけど?」


鳴海が睨みつけるのなんて全然堪えてないという感じで、梶原は鳴海に満面の笑みを向けた。


「だって市原は『ホテルのデザートブッフェ』って言っただけだし、俺がおごるなら何処のどんなブッフェでもいいんだろ!」


さあ入ろう、さあ行こう、とばかりに梶原が鳴海の手を取ってレストランに入っていく。入り口にはピンクとラベンダー色と水色でデコレーションされた五段のケーキがどん! とそびえていた。最上段には王冠を被ったキッティとシナロールのマジパンが飾られていて、二人を取り囲むように白いチョコレート細工のアーチが作られている。アーチの周りはケーキの土台と同じ色のクリームで絞り出された薔薇の花々。まるでキッティとシナロールが王宮の庭園に居るかのようなデコレーションだ。側面は、一体どれだけ時間がかかったのだろうと思わせる、全ての段にフリル状の生クリームが絞られていて、各段には苺、ブルーベリー、ラズベリー、果ては花の砂糖漬けなど、色味良いフルーツと花がちりばめられていた。


他にも、確かピーロランドのお土産売り場で見たような、女子向けのコスメ用品を模したチョコレート細工とか、ポヨポヨプリンやマイレディがプリントされたマカロン、クリームデコで作られたクロピーが載ったカップケーキなどなど……。鳴海がその壮観な様子に唖然としている横で、梶原は既にスマホを取り出してバシャバシャと写真を撮っていた。


そして梶原は、店員に席に案内されるや否やテーブルを離れて皿にクロピーを山盛り盛って帰ってくると、今度はテーブルでクロピーのスイーツの写真をバシャバシャと撮っていた。


「かわいいぜ、クロッピ。お前のその立った三本の毛、つぶらな瞳、ツンと尖ったくちばし、丸いお腹に艶やかな羽根。どれをとっても、お前は最高のペンギンだ。お前が一番だぜ……」


学校での態度からは想像もつかないような、クロピーに対する賛辞の数々。そんなクロピーに対する誉め言葉を独りごとのようにぶつぶつ言いながら写真を撮っている梶原を、鳴海は呆れながらも何処かデジャヴを感じながら見ていた。……そう、対象は違えど、同じオタク。鳴海も推しキャラの登場するコラボカフェで、推しのデコレーションがされたランチの写真をバシャバシャと撮ったことは記憶に新しい。きっと今の梶原は、今まで果たせなかった女子の園であるスイーツブッフェに堂々と立ち入り、大好きなクロピーを堪能しているのだ。そう思うと、梶原のことを怒ったり責めたりは出来なくなる。同じ穴のむじなではないか。そこで同感せずしてオタクとは言えない。


テーブルに持って来た様々なクロピーのスイーツの配置を変えながらあれこれと工夫をして写真を撮っている梶原に、鳴海はひと言呟いた。


「クロピーが一番……。つまり、クロピーが最強攻め、ってこと? でも、そのキャラスイーツの並びでいくとシナロール×クロピー……? でも隣のお皿はクロピー×キッティよね? 梶原はクロピー、受け攻めどっち派なの?」


そうなのだ。梶原のクロピーの配置に一貫性がなく、鳴海は梶原の性癖を掴み損ねていたのだ。大切なことだから、ここは押さえておかねばと思って質問したのに、梶原は鳴海の言葉に激怒した。


「最強攻めとか受け攻めどっち派とか、俺のクロッピで変な事考えんな!! それと何度言ったら覚えるんだ! 『クロッピ』だろ!? お前も同じオタクなら、相手の推しの名前を間違えんな!!」

「息をするようにカップリングを考えてしまうのよ。性ね……」


ふう、と憂いの吐息を零す鳴海に、梶原は怒ったままだ。


「次に俺のクロッピで腐妄想したら、お前の頭カチ割るからな」


怒り心頭の梶原に、これ以上は藪蛇と見て鳴海も黙る。しかし、受け攻めがはっきりしないことに、どうしてもお腹の底がムズムズして、気持ちが悪かった。


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