第5話


「市原。ゴールデンウイーク、なにか予定ある?」


契約カップルという事もあり、鳴海は授業後に図書室で少し梶原と勉強会をして、それから一緒に帰っている。使う電車の路線は途中まで同じで、学校から駅まで、そして鳴海が降りる駅までは一緒だ。


そんな帰り道に、梶原がゴールデンウイークの予定の有無を聞いてきた。ゴールデンウイークには鳴海の推しキャラが登場する乙女ゲームのバージョンアップがある。メインイベントはキャラクターたちの新しい衣装とボイスだ。それを逃す手はない。鳴海の家は一般家庭だからお小遣いの額はそう多くない。故に、ガチャに無限に課金は出来ない(まあ、それが良い抑止力になっている。お金があったら無限にお金と時間を費やしそうで、成績を落としそうだから)。


……というわけで、ゲームをプレイする時間さえ取れれば、あとは自由だ。宿題は早めにやるタイプだし、もしや梶原は宿題を手伝わせようというのだろうか?


「夜にならなきゃ何もないわ。なに? 宿題手伝うなら、お互いの駅の真ん中の図書館が良いわ」

「いや、そうじゃなくってよ。デートしね?」

「はあ!? デート!?」


繰り返すが、鳴海と梶原の関係は、契約カップルだ。故に、学校での彼女の素振りは兎も角、学校外で親交を深めるためのデートなど必要ないのではないだろうか? 鳴海が疑問に思っていると、梶原は一般人らしくごもっともなことを言った。


「だってよ、一応彼氏彼女になってるんだから、それっぽい写真とかあったほうがいいじゃん。本当に付き合ってる、っていう証明になるだろ? 証拠だよ、証拠。学校内だけじゃなくて、私服でどっかに行った写真があれば、もう学校内の誰も、俺らのこと疑わないしな」


成程、そう言うもんか。こちとら腐女子歴が長くて、一般人の考えることは分からなかった。そこは素直に反省しよう。


「分かったわ。だからゴールデンウイークに、どっか行こうっていうわけね?」

「そう。お前、どうせそう言う方面全く疎いだろ。俺がきちんとプラン立ててやるから、まあ大船に乗ったつもりで居てくれたら良いぜ」


なかなかどうして、意外と頼りになるではないか。あくどいことを考えなければ、この男、良いやつだな?


「分かった。じゃあ、メッセ交換しとこう」

「おう、それがいいと、俺も思ってたんだよ」


鳴海と梶原はお互いのスマホを取り出して、連絡先を交換した。連絡はその日の夜に来て、東京のテーマパークに行こうという話だった。JRで乗り継げば割と簡単に行けるらしい。


――『女子は普通、こういうの好きだから。市原には分かんないだろうけど』


そうやってひと言余分に付け加えるのは、梶原の癖なのかもしれない。姉ふたりの末っ子で、家族と男友達としか交わしたことのない梶原からのメッセージに付いてくるスタンプは、実に一般的ふつうなものばかりだった。これが一般人の作法なのか。鳴海が持っているスタンプと言ったら、『推し、神!』とか『尊い(きらきら)』とかいった派手なアクションのスタンプばかりで、咄嗟に梶原用のスタンプを買ってしまった。鳴海は了承の返事をスタンプと共に送ると、すぐさま『デート 初めて 服装 持ち物』を検索した。現実リアルのイベントに縁がなかった為、いざ行動するとなるとリサーチが必要だ。ヒットした検索結果を熟読して、鳴海は脳内シミュレーションを何度も繰り返した。

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