第6話

そしていざデート当日。JRのターミナル駅で待ち合わせた梶原は、やけに張り切ったいで立ちに見えた。ベージュのロゴ入りTシャツに白の半そでシャツ、黒スキニーはとてもすっきりした高校生らしいコーディネートなのに、スエードコードのリングネックレスとシルバーの半円ブレスレットはいきすぎじゃない? まるではしゃぎ過ぎた男子中学生みたいになってるけど!?


しかし鳴海は事前にデートで男子がどんな格好をしてくる可能性があるか、という事を調べたからそう思うのであって、これが梶原の通常のコーディネートならモノ申すべきところではない。そう言う訳で突っ込みたい気持ちをぐっとこらえて、鳴海は梶原について歩いて行った。


電車を地元から乗り継いで東京へ。二時間近くの移動時間の間、梶原は一般人のデートについて、講釈を垂れた。


「女は褒められないと不満に思うから最初に服装を褒めようと思ったけど、市原のその服は褒める気にならないな。でも白のレースのカーディガンは良いチョイスだ。男心をくすぐるなら、しおらしい服が良い。まあ俺はお前の服装に何の感慨もないけどな」


梶原が扉の横の握り棒を掴んだ格好で、扉の横に収まった鳴海の服装を評する。このデートが決まって直ぐに調べたデートコーデの中で、手持ちで一番それらしいものを着てきたら、褒めるところカーディガンだけか! まあ、鳴海の手持ちの服だから色気はないと思う。ウニクロの黒の無地のTシャツに、色気のないデニムスカート(ひざ丈)。インナーが黒だから、白の上着が良いと思って中学生の時に誕生日に親から押し付けられた、このカーディガンを羽織って来たのだ。まあ、鳴海も梶原に褒めてもらって嬉しいわけではないから、その辺は良い。梶原は更にデートについてのいろはを並べ立てる。


「女子はかわいいものが好きだ。そして甘いもの、特にパンケーキが好きだ。それを勘案して、俺がお前の為に最高の一般人プランを立てたから、まあ安心してろ」


上から目線なのが気に食わないが、この前授業後にこいつが突如カラオケに行くと言ってみんなを引き連れて行った時も、鳴海の知っているアニソンオンリーのカラオケではなかったから、やはり鳴海には一般常識が欠如しているのだろう。そう思って殊勝に頷いておいた。……内心は、「一般人じゃなくて悪かったわね。私はかわいいものよりBLのほうが大好きだけど? 何ならパンケーキもそんなに好きじゃないけど?」と思っていたけど。 


「女子は写真を撮るのも好きだ。直ぐにSNSに上げる。お前、アカウント持ってるよな? 今日写真撮ったら、まずアップしろ。タグも付けろ。パークの名前は必須だ。パークの名前で検索してくるやつもいる。それでイイネが付いたら喜べ。女子は兎に角自分がアップした自分の写真とかわいいものがバズるのが好きだ。『#彼氏と一緒』も付けろ。デートしてる以上、常識だ」


SNSのアカウントは持っているが、それは腐女子アカウントなので、それでも良いかと尋ねたら、馬鹿かお前は、と頭ごなしに否定された。


「一般人に擬態しろ。俺も一緒に載るかもしれない写真を腐女子アカウントに載せるな。サイテーだな、お前」


言われて全く言い返せないので、ぐっと黙る。押し黙った鳴海に、改心したと思ったのか、気を良くした梶原は更に言う。


「今日のデートでは、お前にプレゼントをやる。付き合ってるならお揃いの持ち物が必要だからな。デート先の記念のものなんて、過去を大事にする女子は大好きだ」


いちいち全部心当たりのないことで、ひたすら頷いているしかない。こうして約二時間の間、一般人のデートとは何かという事を頭に叩き込まれた鳴海は、いざ目的地のテーマパークを仰ぐ入り口に立った。その入り口の虹色のアーチには、大きな白い看板に『Sanrino Piroland』とピンク色で描かれた文字がでかでかと主張していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る