第8話 楓

「よくきたね、いらっしゃい」

 事前連絡なしで押しかけたにも関わらず、優しく招き入れてくれる俺のおばあちゃん。庭には趣味で育てている野菜がある。俺が小さい時から優しく甘やかしてくれる良いおばあちゃんだ。

「今日は何しにきたの、連絡もなしに来たからお菓子何もないけど」

「お菓子目当てで来てないよ。」

「あら、そうなの、てっきり小学生の時から仲が良い朔空君と遊んでるのかと思ってたわ」

「いや、もう最近は遊んでないよ。あいつはあいつで忙しそうだからね。それよりも、ちょっとお金が欲しくてお願いしに来たんだ」

 高校生の俺からお金が欲しいと言われて少し困惑をしている。そりゃそうだ。今まで、おばあちゃんに物をねだった事がない。良くお菓子を貰いには行っていたが、おもちゃやお金を欲したことはない。

「お金が欲しいの?何に使うの、何か欲しいものがあるの」

 おばあちゃんは優しい口調で聞いてくる。少し罪悪感を覚えながらも要求をする。

「そう、ちょっと欲しいものがあって。お母さんには言えなくて、頼れるのがおばあちゃんだけでさ」

「そうか、いいよ。いくらくらい欲しいの?」

 薊は笑みが溢れそうになった。

「そんな多くなくてよくて、五万とかあれば足りるかな」

「ちょっと待ってね、今財布の中身を確認してみるわ」

 おばあちゃんは優しいから少しねだれば多少高額でもくれる。それは、おじいちゃんが残した遺産があるからだ。おじいちゃんは生前、地主でお金に困らない生活をしていた。そのおかげで今、僕とお母さんも二人で一軒家に過ごせている。おばあちゃんからお金を貰い、次の目的が果たせる。少し世間話をして、おばあちゃんの家を後にした。これから向かうのは整形外科だ。


 薊は整形できたが、誤算があった。金が少なく、目元しか手術できなかった。これでは、相澤さんは惚れてくれない。相澤さんには完璧な状態で付き合いたい。これでは、顔すら合わせる事が出来ない。朔空の顔にならないとだめだ。


 学校では朔空が行方不明として話が広がっていた。警察は細路地の血痕を見つけ、殺人未遂として捜査している。事件内容までは明かされていないが、朔空と近しい人、全員に事情聴取が行われている。もちろん彼女であった相澤すみれも。

「君は被害者である松本朔空と付き合っていたのは間違いないね」

「そうです」

 すみれは正気を失い、目の焦点が合っていない。それもそのはずだ。人生で初めて大切な人を失うかもしれない不安は並大抵のものではないだろう。その事を気に留めず、事情聴取は続いた。

「松本朔空君は何か不思議な行動とか、気になる行動をしていたか覚えているかな」

 言葉遣いは優しいが、眼光は鋭かった。彼女も一人の容疑者である。そんな空気も感じ取れないほどに彼女は放心状態になっている。

「いえ、特になかったです。連絡もしていたし、次遊ぶ約束もしていました。学校でも話していましたし。なんで、こんな事になったのか予想がつかないです」

 彼女は嗚咽を漏らしながら、手を顔に覆った。これ以上は彼女の精神状態に影響を与えると判断をしたのか、事情聴取を止めた。

 事情聴取を受けた生徒達から、朔空は死んだ、朔空は行方不明だなど、色々な憶測が飛び交っている。そんな中で薊がいない事に触れる者は誰一人としていなかった。これは薊にとっては好都合である。関わりがないからこそ、関係者として扱われない。そう思っていたが、日本の警察は優秀だ。少しでも関係がある人間には隈なく捜査をする。それが例え、小学生の時であろうと。

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