第5話 節黒仙翁

布団から出るのが億劫になってきた季節。今日も相澤さんに向かって挨拶をしたが、弁当を作る気力が出ない。購買で昼飯を買うことを決め、家を出た。朝は、電車に乗って学校に向かうが、もちろん相澤さんと同じ時間帯に乗るのが日課だ。だが、彼女は女性専用車両に乗る為、彼女の顔を見るのは学校の最寄り駅、改札を出てからだ。しかし、今日は彼女が改札から出てこない。一緒に登校をするようになって約一年経つが、彼女がこの時間にいないのは初めての事で、遅刻ギリギリまで駅で待っていたが来なかった。もしかしたら、いつもの電車よりも早い時間に乗っていたのではと思い、足早で学校へ向かった。相澤さんの教室を覗いてみたが、彼女の姿はない。風邪で休んでいるのか、それかたまたま教室にいなかったのか。いや、相澤さんはホームルームが始まる前、必ず教室にいる。ではどこにいるのか。彼女が居そうな場所を端から探して行ったが、見つからない。誰かに聞こうかと思ったが、聞ける相手がいない。大人しく放課後に彼女の家に行く事を決めた時、かすみが廊下を歩いていた。

「ねえ、今日相澤さんどうしたの?」

急に声をかけたのでかすみはびっくりしながら答えた。

「すみれ? なんか今日急に朝休むって連絡が来たんだよね。時々、急に休む時あるから、そういう日かなって思ってたよ」

相澤さん急に休むことなんてあるのか。今まで休んでいる姿を見た事がなかったので言葉が出ない。俺の知らない相澤さんがいるのか。

「てか、そんなんきにしてどうしたの。別にクラス一緒でもないのに」

「いや、昨日遊んだから、お礼を言おうと思って」

嘘ではない。今日会えて、もし話すタイミングがあったら、お礼も伝えようと考えていた。

するとかすみから思いもしない誘いを受けた。

「そしたら、一緒にお見舞いに行く?」

能天気な彼女は俺が陰キャだという事を忘れている。俺が行ったところで相澤さんが喜ぶはずがない。大人しく断る事にした。

「いや、相澤さんにも失礼だから行かないよ。また会えた時に直接言うよ」

どうせ彼女の家は知っている。放課後にひっそり彼女の家に一人で行けばいいだけだ。そう思い、放課後の予定を立てた。


 予定通り、彼女の家に訪れた。夕方でももう肌寒い時間帯だ。薊はまだ、夏服のままで後悔をしていた。今は、かすみが家にいるのかなと考えていると、突然二階にあるすみれの部屋の窓が開いた。薊は気づかれないように隠れながら、眺めている。何か振り下ろしている動きが見えた。部屋は夕方なのに電気をつけず、何をしているのか見にくい。十分経ったかくらい、部屋の電気がついた。彼女の姿が見えた。手には何か肌色のような物を持っている。遠くから眺めているから、それが何かわからない。すると、窓を閉め、また少し時間が経ったら玄関からかすみが出てきて、すみれが見送っていた。それを確認して、薊は自分の家に帰った。家に帰り、彼女が手にしていたものが気になっていた。見当もつかないが、見て見ぬ振りができない雰囲気がする。考えていたら、いつの間にか寝ていた。時計を見ると十一時を超えていた。明日も学校がある。手っ取り早くカップ麺を食べる事にして、お母さん用に卵焼きと味噌汁、残っていたご飯に梅干しを使い、おにぎりを作って冷蔵庫にしまった。このまま、寝たかったが、少し前まで寝ていたから、すぐ眠れるはずもない。薊はすみれの録音した声を聞いて寝る事にしたが、すぐ眠る事ができなかった。今日見たものが脳裏から離れない。考えても答えは出ない問題だが、気になってしまった。朝日が登ってきた時間に薊は眠っていた。 

次の日、改札から彼女が出てくるのを見て安堵した。と同時に寝て忘れていた昨日すみれが手に持っていたものを思い出した。

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