第3話 月下美人
放課後、すみれは薊のクラスにやってきた。友達であるかすみの教室で雑談するのが二人の日常になっている。名前とかをしか知らないかすみに感謝しながら、俺も残って一緒に下校するタイミングを見計らっていたのに、一大事件が起きる。
放課後、太陽が傾き始めている教室ですみれは悩んでいた。朔空の誕生日が近くなっているため、プレゼント相談をしていた。
「朔空君、何か欲しいものあるかな」
「彼に聞いてみたらいいじゃん」
すみれの友達、かすみが興味なさげに答えた。
「それは違うじゃん。せっかくの誕生日なんだし、サプライズで渡したいじゃん」
「そしたらちょうどそこに男子がいるから男子目線の意見聞いてみたら?」
教室に残り、読書していた薊にキラーパスが飛んできた。すみれの声を聞いてうっとりしている所に雑音が混じってきた。
「ねえ加藤、男子って何もらったら嬉しいの?」
かすみが残っていた薊に聞いてきた。俺なんかに聞いてどうするんだと思いながらも答えた。
「相澤さんから貰ったものはなんでも嬉しいと思いますよ」
実際にすみれから貰えるものは嬉々として喜ぶと本心から答えた。しかし、かすみはつまんなそうに否定をしてきた。
「それは答えになってないぞ。すみれは何がって具体的な案を求めてるんだよ」
「かすみやめてよ、加藤君も困ってるよ。ごめんね、せっかくの読書時間を邪魔して」
すみれは薊に微笑みながら、軽く謝った。薊は何も言えずに無言で本を読み始めた。すみれとかすみはまたプレゼントについて話し始めていた。
「そしたら今から買いに行こうよ。実際に眺めながら探してたら良いもの見つかるかもよ」
「それいいね、加藤君もよかったら一緒に行かない?」
突然の誘いに薊は二つ返事で了承をしてしまった。
「ちょっとすみれ、なんで誘ったの?」
「だってかすみが言ってたじゃん。男の子の意見を参考にしようって」
「そうだけど、買い物に誘う必要はないじゃん」
二人が小声で喋っているのを眺めながら、薊は後悔していた。なぜ一緒に行くことに了承をしてしまったのだ。絶対につまらない人だと思われてしまう。また、相澤さんにはバレないかもしれないが、高橋さんには相澤さんの事が好きだとバレてしまう。まだ、断ることは間に合うだろうか。と考えていたら、すみれはスクールバッグを持ち、薊を連れて行こうと制服のブレザーを引っ張った。
薊は放課後にすみれとかすみと共に駅の近くにある百貨店に訪れていた。金曜日ということもあり、たくさんの人で賑わっていた。お惣菜コーナーでは仕事帰りの人達がスーツで夕食のおかずを選んでいた。婦人コーナーでは冬服のコートやマフラー、寒い冬を乗り越える為の見るからに暖かい服が並んでいた。薊は肩身を狭そうに店員が選んだであろうマネキンが着ている服を眺めていた。
まさか本当に相澤さんと遊ぶ事になるなんて、しかも、放課後に。俺は今日死んでしまうのか、お母さんに遺書を書いておくべきだった。いや、まずは部屋の相澤さんグッズを片付けないと死ねないのだ。そう思いを逡巡しているとすみれが声をかけてきた。
「ねえ、加藤君、これだったらどっちが似合うと思う?」
黒と緑のセーターを自分の前に合わせて俺に尋ねてきた。
「俺的には緑の方が似合ってると思いますよ」
正解であってくれと心から願っていると、相澤さんは笑顔になりながら
「やっぱりそうだよね、黒だとちょっと重く見えちゃうようね。かすみ言ったでしょ、緑の方がいいって」
なぜ彼氏のプレゼントを買いに来たはずなのに、自分達の服を選んでいるのか薊は不思議そうに眺めていた。
すると、すみれはハッとし、
「てか、朔空君のプレゼント買わないと」
忘れていたかの様に思い出して言った。
「上の階に行けば、男物たくさん売ってるから行ってみよ」
かすみはすみれに呼びかけ、三人で移動を始めた。男物の洋服や、小物などを眺めているすみれの横顔に惚れ惚れとしている薊は無意識に携帯をすみれに向けていた。慌てて携帯をしまった薊だが、集中しているすみれには気づかれなかった。隣にいるかすみに相談をしながら、マフラーにするか手袋にするかを悩んでいた。薊だけ蚊帳の外にいる気がしたので、一人で店の外にあるソファーに座って待つ事にした。今日、放課後の相澤さんを沢山撮れたとにやけながらスマホを見ていたら、かすみが戻ってきており、携帯を覗いてきた。
「何スマホ見ながらにやけてるの」
不意に戻ってきたかすみに驚きながらスマホを隠した。彼女の写真を見られてた終わるだと言い訳を考えていると、かすみは話を続けてきた。
「なんかのアイドルの写真見てたの? 一人で見るのやめときな、にやけてたから気持ち悪かったよ」
「別ににやけてないだろ」
勝手にアイドルと解釈をしてくれたおかげでその場はなんとか切り抜ける事ができた。
「相澤さんはどうしたの」
「いい物が見つかったから先に加藤と合流しといてって」
「そうなんだ。相澤さんは何買ってたの?」
「それは別に加藤は知る必要ないだろ。すみれの彼氏用のプレゼントなんだから」
確かにその通りだ。俺はこれ以上詮索するのは止そうと考えていた時に彼女はプレゼントを大事そうに抱えながら戻ってきた。
「お待たせ、色んなものがあって何がいいか悩んじゃった」
彼女は笑顔を見せながら、可愛く梱包されたプレゼントを見せつけてきた。中身が何か気になるが、薊には聞く勇気がなく、苦笑いをしながらプレゼントを眺めていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます