第2話 悲哀

小さい橙色の花を付けた木が甘い香りを纏い、季節の変わり目を伝える。薊は空いている窓の隙間から入ってくる、甘い匂いに鼻をくすぐられながら、目覚めた。朝は相澤すみれの写真に挨拶を交わし、母が残した書き置きを確認して弁当を作り始める。今日もすみれに会える喜びに浮かれている所に悲報が耳に入ってきた。すみれに彼氏ができた。聞く所によると、その彼氏は、サッカー部で実力も人気も持っている学園の王子。悪い噂はなく、素晴らしい人格者であると皆が口を揃えて言う。噂を聞きつけた同じクラスの女子達がすみれに囲み取材をしていた。

「すみれ本当に朔空と付き合ってるの?」

「うんそうだよ、昨日の放課後朔空に呼ばれて告白されたんだ」

「じゃあ、朔空のこと気になってたの?」

誰もが気になっていた事を躊躇なく聞ける能天気さにクラス全員が耳を傾けた。

「そうね、気になっていたし、私に好意を向けてくれた事にお礼をしたいの。彼は私に向かって純粋に好きと言ってくれたから」

すみれが言っていることは、好きではないが付き合っていると言っている様なものだ。しかし、これでも許されるのが相澤すみれだ。会話を聞いていた薊は、魂が抜け、窓際一番後ろの席から動けないでいた。

なぜすみれは朔空と付き合っている。彼女を愛しているのは俺のはずだ。容姿や人柄では勝てないかもしれない。しかし、成績では断然俺の方が上だと言うのに。なぜ彼と付き合うのだ。薊は自分の持っている脳では到底想像ができない考えに達していた。その反面、薊の中では素直に完敗を認めている自分もいた。それは、俺ではすみれを幸せにすることが出来るのかと自問自答をしていたからだ。俺の様な卑屈な人間よりも朔空の様な人間の方が彼女を幸せに出来るのではないかと。そう考え始めてからは、薊は素直にすみれと朔空を応援すると心に決めていた。彼女の幸せは俺の幸せであると。朝の清々しい太陽の様に俺は彼女に向かって、お幸せにと言った。それからのすみれは毎日を楽しく、笑顔が絶えない日々を過ごしていた。薊は、すみれの屈託のない笑顔を見られることで自分自身も心なしか笑顔になっていた。それは、彼女を愛しているからなのかは薊自身もわかっていない。

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