純愛

しゅーや

第1話 すみれの様に美しい

 俺の好きな人には彼氏がいる。その彼氏を俺は殺した。閑静な住宅街。誰も通らないような裏路地。誰にも気づかれない場所、バットが満月によってスポットライトのように照らされている。彼氏の頭の周りには赤色の水溜りができている。とりあえず隠蔽の為に彼氏を担いで家に持ち帰る事にした。


 俺は県内でも有数の公立校に通っている。地味で対して張り合いのない中学とはさらばして高校デビューを飾ろうとしていた。加藤薊(あざみ)は、中学時代に地味な学校生活を送り、陰キャラとしてクラスのカースト平均を作っていた。高校では、地味な学生生活をおさらばすると決意した矢先、薊はクラスの女子に恋をしている。

 彼女を初めて見たのは、桜が満開のめでたい日。入学式での生徒代表挨拶で壇上に立ち、凛々しい表情で堂々とした挨拶している時だった。この瞬間は生徒全員が背筋を伸ばしているのがわかった。そんな彼女の第一印象は、我があって強い女性。そんな彼女は必然的にクラスだけではなく、校内で人気を誇る生徒となっていた。彼女の名前は相澤すみれ。高校入学入試を主席で合格、容姿端麗、バスで妊婦が乗ってきたら席を譲る、非の打ち所がない生徒。そんな彼女に俺は恋をしている。クラスで馴染んでいない俺を積極的に色んな人と、「ねえ、そんな所いないでこっちで喋ろうよ」と会話ができるように率先して行動をする優しさ。最初は余計なお世話だと感じていたが、彼女はそんな俺を見捨てることなく、接してくれる人だった。それから徐々に相澤さんと話す機会が増えていき、時折見せる屈託の無い笑顔に一瞬で彼女の虜になっていた。彼女の笑顔は目が線になり、口がハートの形になる。とても可愛らしく、俺はより彼女を好きになっていた。だた、俺と彼女では住む世界が違う。それでも、話しかけてくれる相澤さんに俺は、どう好意を伝えようか考えていた。

 そう思いを馳せながら、一年の時が経ち、二度目の満開の桜を見ながら彼女と同じクラスになれるように祈っていた。一年の時は相澤さんと同じクラスだったが、二年でも同じクラスになれるように祈ったが、その想いは届かなかった。それでも、彼女の下校時間、下駄箱の位置、帰宅経路、家の屋根の色は目を瞑って答えることが出来る。相澤すみれに対しての思いは誰よりもあると自負していた。もし、今校内、いや全世界で相澤すみれクイズが行われたら優勝できるだろう。それほど俺は彼女のことが好きになっていた。そして、今日も彼女の下校時間に合わせて俺も帰宅する。相澤さんを好きになってからの日課である。彼女が家に帰るまで俺は一緒に帰宅している。だが、一度も彼女の隣を歩いて帰ったことがない。夕日によって伸びる影の隣を歩くので精一杯だ。毎日その影の隣を歩きながら、電柱の影に隠れながら家に着くのを見届けている。いつか相澤さんの隣を歩ける自分になれたらと願いながら無事帰宅したことを確認して、薊は自分の家に帰る。

 家に帰宅すると、机の上に書き置きと野口英世が三枚あった。薊は母と二人で暮らしている。母は父と俺が中学に入る前に離婚している。その為、お母さんは夜遅くまで働いている。小さい時から喧嘩をしている父と母で、子供ながらにして俺は、お母さんに離婚しないのかと促したことを今でも覚えている。その時のお母さんの顔も忘れられない。虐待とまではいかないが、父からは毎日のように罵声を浴びせられていた。今でも忘れられない言葉の刃物に挫けそうになる時がある。それでも、お母さんが愛情沢山に接しているおかげで、立ち直れている。そのお母さんに対して早く恩返しをするために勉強をしている。

「今日の夕飯は何が作れるかな」

 冷蔵庫の中を確認しながら、簡単に作れるものを考えていた。母用に夕飯を作り置きしていると、朝には美味しかったとメモ用紙が置かれている為、いつも夕飯を作るのが楽しみの時間になっている。せっかくなのでお母さんの好物である肉じゃがを作る事に決めた。冷蔵庫にない材料を買い出しにスーパーに出かける用意をし、キッチンから自分の部屋に向かった。部屋には、無数の相澤さんの写真が貼ってある。恋をしてから撮り溜めたコレクションだ。我ながら撮影技術が成長している事に日々嬉しくなっている。最近撮った相澤さんは俺に向かって微笑んでいる様に写っている。写真と目が合い、時間を忘れそうになるが早くスーパーに出かけないと、日課が崩れてしまうと急いで準備を始めスーパーへと駆け足で向かった。

 太陽が沈みきって少し肌寒く感じる時間帯、スーパーでは、主婦達が賑わっていた。薊は牛肉と白滝、安くなっていたケーキを買い、ある時間を待っていた。店内が賑わい、主婦達がセールの時間を待っている時、その時、彼女は来る。毎週火曜日は卵がセールの日で、彼女は妹とスーパーに来た。家では、よく家事の手伝いをする家族思いの彼女は妹とお目当ての卵を買い、駄菓子コーナーで一緒にお菓子を選んでいる。毎週同じやりとりをしているが、俺が相澤さんと結婚して家族で買い物に来ているのではと錯覚をいつもしてしまう。それ程、相澤さんには母性が溢れていた。無事相澤さんと妹さんが買い物を終わらせたのを見届け、薊も買い物を終わらせ、心を暖かくしながら自宅に帰り、肉じゃがを作り始めた。

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