第4話

目の前に起きていることを理解したくないと拒否しているためか、呆然と立ち尽くしてしまう。先ほどまで楽観的に考えていてことが目の前で起きている現象で全て否定されてしまった。

魔法は決められた呪文を詠唱をすることでそれに適した事象を引き起こすが、目の前にいる銀髪の少女エルルゥはそれらを一切無視して指を鳴らしただけで目の前に地獄の一部を切り取ってきたような何かを作り出した。

もしかして本当に彼女は悪魔なのか、もしそうならば自分が軽い気持ちでしたことが一生どころか終わることのない苦しみを味わうのではないかと。いや、どこか見えないところで国に仕えるような魔術師が隠れて魔法を使っているに違いない。

きっとあの噂を信じた間抜けな誰かを貴族が手の込んだ冗談で悪戯しているのだろうと、勇気を奮い絞り震える声で問いかける。


「エ、エルルゥ。十分驚いたよ。本当に驚いから、もう冗談だったと言ってくれないか」


「何を言っているの?ああ。この火柱は見た目ほど熱くないから安心して。ほら、早く行くわよ。」


確かに噴き上げる炎にしては熱気は感じないが、彼女が本当に悪魔であればあの扉を潜れば地獄へと連れていかれここには2度と帰って来れなくなるだろう。どうやって切り抜ければ良いか必死に頭を動かし考えていると、外の様子がおかしいことに気づいた神父たちが礼拝堂の中から飛び出し叫んだ。


「私たちが時間を稼ぐから、こちらに早く来るんだ。」


複数の神父が同時に奇跡を行使し、何重にも光の壁が現れエルルゥを閉じ込めるとその中で何かを叫んでいるが恐怖のあまり聞き取れず、無視してリリアの手を握り一緒に礼拝堂に逃げ込んだ。

中にはスエイプ神父がおりフィンを見つけると声を荒げ詰問してきた為、町はずれでの出来事を話したところその場にいる全員が頭を抱え口々に愚痴を吐き出していく。


「このような事を言いたくはないが、神様が起こす奇跡のようなことがいくつも重なり偶然起こったのだろう。まだ礼拝堂の結界が機能しているうちはあれほどの悪魔でも入ってこれまいが、…何か打開策を見つけねばならいぞ。」


その発言により礼拝堂に集まる人達で悪魔を退治する方法を話し合うが防御を固め時間を稼ぐことは出来るかもしれないが、退治することは非常に難しいだろうという話となり根本的な解決策が出ないまま時間だけが過ぎていく。


「神父様このままでは、ここに居る全員が犠牲になります。エルルゥと契約した僕が出て行けば彼女は満足して帰るかもしれません。だから僕を外に出してください。」


有効な解決策が思いつかず静かになっていた礼拝堂にフィンの震えた声が響き渡ると

その言葉を聞いたスエイプ神父が静かにフィンの前にまでやって来る。その顔は普段より眉間に皺が寄っており声を出す前から不機嫌なのが分かるほどだ。


「フィン、お前は不真面目だが教会の大事な一員だ。生贄になるようなことは吾輩が許さん。」


覚悟を決め相談したが話にならないと却下され元の位置に戻ると、目から涙が溢れそうになっているリリアに説教をされ周りにいる大人たちがそれを見て冷やかし、他の人が続いて取り留めのない会話を始め不自然なほど雰囲気が変え、先ほどのフィンの言葉がなかったように振る舞う。

だが、そのいつものような時間は長くは続かず、結界の維持のせいで力を使い果たし倒れる者が出始める。フィンは倒れた人たちを看病し奇跡を祈っていたが、遂に礼拝堂の結界が破られ不機嫌なようで焦ったようなエルルゥが扉を開け中に入ってきた。


「もう、早くしないと台無しになるでしょう。早く行くわよ。」


扉を開けた彼女が自分を地獄に連れて行こうと迫ってくるが、スエイプ神父が準備をしていた道具を使い重ねて神への聖句を唱えたことでステンドグラスに光を翳した時のような色とりどりの光が強固な結界としてエルルゥを閉じ込めた。


「この場は吾輩が何とかする。リリア、フィンを連れて早く逃げろ。」


「もう、また変な壁出して。あっ待ちなさい。」


動けずにいた自分をリリアが手を握って外に駆け出して行くと、背中から「絶対地獄に連れて行くんだから」と物騒な声が聞こえてくるがそれよりも、自分が逃げたせいであの場にいた人たちの事を考えると頭の中が真っ白になっていった。

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