第3話
ヴァンから退屈しのぎで聞かされた話は小さな子供が好みそうな噂話であった。
何でも町の外れに魔法陣があり、そこに血を捧げ対価を払えば、願いを叶えてくれるというありきたりな話だが、当然こんな子供騙しの話で先ほどの悪戯のお詫びに釣り合うはずもなく、交渉の末にパンを分けてもらうこととなった。不満ではあるが、お腹を膨らませた状態で教会に帰れば気の毒に思った誰かに食べ物を貰ったことがバレてしまうのでで小さなパンで空腹を紛らわすことにした。
「パンをくれたことは感謝するけど、こんな悪戯は二度としないでくれよ。」
「しつこいの、本当に悪かったといっているじゃろう。」
刺激の強い悪戯であったがヴァンのお陰でお腹が多少膨れたこともあり、怪我人への対応を無難にこなし続けているといつもより早く終了のサインを貰うことが出来た。教会へ帰ろうとしたがヴァンの言っていた噂話のことを思い出したせいで好奇心が刺激され悩み始める。
本来なら寄り道などせずに協会に真っすぐ帰るが、夕食抜きで夜のお祈りまで時間があり、早めに終わったため時間の余裕が出来てしまい面倒よりも好奇心が勝ってしまい噂話を確かめに行くこととした。
ヴァンが言っていた場所へ訪れるとツタが生い茂り誰も住んでいないであろう家がぽつんと建っており中をを覗き込むと、確かに子供の落書きと評すような魔法陣が壁に書かれていた。
こんなものに血を与えて願いが叶うなら苦労しないだろうと思ながらも、どうせ来たのだからと聞いた通りにナイフで指先を少しだけ切り、血を垂らした後に両手を合わせ願い事と対価を口にする。
「豪華な料理をお腹一杯に食べれたら何でもするからお願いします。」
十数秒と時間が立つがスープの一つすら目の前に現れるどころか、冷たい風が吹いて来たせいで体が冷え思わずくしゃみをした。これ以上待っても無駄と判断したフィンが離れた後、少しだけ時間を置いて魔法陣が赤く光を放つと歪な陣が円や多角形、線が複雑に組み合わさった複雑な魔法陣へと変わり壁が崩れ落ちた。
町の外れから教会へと帰ったフィンは礼拝堂でお祈りをするまでの休憩時間でリリア話していた。話をしていくうちに、夕方の出来事についてのことが話題となり、話を聞いたリリアは少し呆れた表情を浮かべながら話した。
「フィンったら相変わらず子供っぽいわね。」
もしかしたらと少しだけ期待していたがことを見抜かれている。空腹で魔が差したとはいえ、小さな子供のようなことをしていたと自覚すると少し恥ずかしくなってきた。どうにか暇だったのだから時間潰しをしたという事にできないかと抵抗をしてみた。
「時間が余ってたからね。リリアも暇なときに、いつもと違うことをする時ぐらいあるだろう?」
「ふふ、そうね。でも、そんな危ないことはしないわ。もし魔法陣から何か出てきたら困るもの。」
「あの魔法陣から何か出てくるなら、町中はでてきた何かで埋め尽くされてるよ。」
そんな話をしているうち、お祈りの時間のが来たようだ。礼拝堂へ向かおうとリリアと一緒に通路を歩いていると、透き通るような声で呼び止められた。
「ようやく見つけた。教会が邪魔で気配が追えなかったせいで苦労したんだからさっさと行くわよ。」
視線を向けると銀色の髪に青い瞳の絵に描いたような少女がこちらに向かって不機嫌そうな顔をして立っていた。美人であり、お姫様が着るような黒いドレスを着てるせいもあって威圧感がある。
ただ自分にはこの少女のような知り合いなどおらず、考え込んでいたところ自分が見惚れていると勘違いをしたリリアがフィンの前に出て少し不機嫌そうに言い返した。
「人違いではありませんか?あなたみたいな人の知り合いなんてフィンにはいませんよ。」
「勉強不足ね。悪魔が自分の契約者を見間違えるわけないでしょ。」
今、この少女は何と言ったのだろう。自分の契約者?悪魔?教会で見習いをしている自分が悪魔と契約するような事など何も心当たりなんて無いと思っていたら顔に出ていたのだろう、自分のことが悪魔であると言った少女が不機嫌そうに話す。
「ついさっき町はずれで契約したじゃない。忘れたと言わせないわよ。」
「あんな子供の落書きで悪魔と契約なんてできるわけないだろ。」
「ええ確かにそうよ。偶然声を聞いた私が書き換えて契約できるものにしたのよ。」
よくわからない事を言い誇らしげに胸を張るせいで強調されており、何がとは言わないがこんな状況でなければ見惚れていただろう。
正直、どう考えても悪魔なんて呼び出せるような高度な魔法陣ではなかったので貴族の少女が退屈しのぎで考えた大掛かりな悪ふざけと思い、リリアに目で視線を送ると溜息で返された。
さすが付き合いが長いだけ意図を察してくれたようだ。男1人では万が一何を言われるか分からないが、女性と一緒でさらに教会に所属している人間を悪戯で罪に問うことなどしないだろうと思い彼女の行先を聞くこととした。
「分かった君の言うとおりにするよ。契約したのは僕だけど、一人は不味いから彼女も連れて行っていいかい。後、契約したんだから名前を教えてもらってもいいかな。僕はフィン。彼女は」
「リリアです。」
そのことを聞いた銀髪の少女が満面の笑みを浮かべた。
「そうね私の名前はエルルゥ。契約したのはフィンだけだけどあなたも特別に名前で呼んで良いわ。早く行きましょう。」
そう言った彼女が指を鳴らすと、夜であるのにさらに辺りが黒くなったと思いきや、突然地面から炎が噴き出しその周辺だけを照らす不思議な光景となった。その光景を作り出した彼女は先ほどから浮かべる満面の笑みで言う。
「たくさん準備したんだから、さっさと地獄に行くわよ。」
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