第2話

「そいつは災難だったが、服が濡れたぐらいですっぽかしたお前が悪いだろ。」


奉仕先の冒険者ギルドに着き、一日の食事抜きはたまらないと思いギルドの職員に話をしたが先ほどと同じようなことを言われ続けた為、諦めて教会の担当の席に着いた。

今回の奉仕活動は見習いが担当する為、軽いケガをした人の回復や応急処置をすることなっているが、フィンは見習であるため初期の回復を使うことぐらいは出来るが、何度も多様は出来ないため基本的には応急処置で対応することにしている。

さすがに朝早くまだ怪我をした人は誰も来ていないが、今日一日はご飯抜きだと考えるとまだ始まってもいないというのに気が滅入りそうになってきた。


「フィン聞いたぞ。お前見習いのくせに朝のお祈りをサボって今日飯抜きらしいな。」


ボサボサの茶色い髪をしただらしそうな職員が笑いながら声を掛けてきた。彼はロイと言いギルドの職員でありながら魔法を使い戦うことができ、時折冒険者のサポートもするなど事務職であるにも関わらず何でも屋のような扱いを受け信頼されている。


「うるさい。サボろうとしてサボったんじゃない。水の入替で思っていた以上に時間が掛かって時間が過ぎてただけだ。」


いつもより力なく返事をしたが、ロイに指摘され何も食べていないことをまた思い出したせいで、腹の音がなった。何も食べていないことに対して体が不満上げているが目の前に食べるものが無い以上我慢するしかないのだ。


その姿を見てロイがカバンを漁りだしたので、思わずカバンの中から何か食べるものが出てこないか期待し自分が思っていた以上に凝視していたためロイから苦笑気味に声を掛けられた。


「おいおい。そんなに見られても大したものは出てこないぞ。ただそんな調子で教会の仕事をされて、迷惑かけたら他のみんなに悪いからな。俺の昼のスープぐらいやるよ。誰か来る前に早く飲め。」


カバンから出てきた水筒を手渡された。この友人に今日一番になるであろう感謝のお祈りをしたのちに手早くスープを飲み干した。


「ありがと。生き返ったよ。これなら今日一日ぐらいなら持ちそうだ。」


「おう。次から時間にも気を付けろよ。」


この後せめて水筒を洗ってから返そうとしたが、それだと不自然だからとすぐに取返されてしまい彼は担当の部署に行ってしまう…、今日に限って言えば神への祈りよりもロイへの感謝の祈りを捧げることになりそうだ。


多少お腹が膨れ気を取り直して席に座って待っていたが誰も怪我人が来ないため思わず欠伸が漏れてしまう、誰も来ないことは良いことだかこのまま何もしなければ、度々様子を見に来る睡魔に負けてしまいそうだ。

さすがに奉仕活動中に次の奉仕活動の予定を立てるようなことが不味いことはよく分かっている。せめてもの抵抗として、前の担当が付けた日誌を見ながら時間を潰していたところ、まだ神様に対してお祈りをしていないことに思い出して手を合わせると

タイミング悪く声を掛けられ為、中断し大きな声のする方へ視線を向けた。


「ガハハ。魔物に不意に背中から襲われて痛いのをもらってな。すまんが見てくれ。」


髭面の男がフィンに向かって赤く染まった背中を向けると、服はズタズタに破れ大怪我にしか見えない。このような怪我の治療の経験など無く、緊張で手が震え自分の心臓の音が他の人に聞こえそうだが、一先ず血を洗い流し傷の度合いを確認しようと水を掛けることにした。


「水を掛けて血を洗い流し傷を確認します。」


「おう、早くやってくれ。」


いつものように返事をされ、何か変だと思ったが万が一有ってはならないと慌てて背中に水を掛け血を洗い流すと、爪で引っかかられたような5本線のひっかき傷はあるが、想像していたような大怪我では無かった。


「フィンどうだ驚いたか。多少退屈しのぎになっただろう。」


「ヴァン、質の悪い冗談は止めてくれ。見習いが治せないような怪我をこっちに持ってきたから自分しかがいないのかと思ったよ。」


「悪い悪い。上から来たのをバッサリやったせいで、背中から血を浴びたんじゃ。宿とギルドを何度も往復するのが面倒でな。そのまま来てみれば、フィンが退屈そうにしているとロイに聞いて、いたずらしてやろうと思ったんじゃ。」


「おかげでこれ以上にないくら目が覚めたよ。お礼にヴァンが大怪我してるように見えても、悪戯だから放っておいて良いよって教会のみんなに伝えておくよ。」


「悪かったと言っているだろ。だが、謝罪が足りんと言うなら一つ面白いことを教えてやろう。」


また、神様にお祈りするのが遅れそうだ。


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