第5話比叡山焼き討ち

そして次の日






比叡山の前に、ノブ一行は集合していた。超高難易度で知られるこのステージの最後には、延暦寺があり、そこを住処に、怪鳥、時鳥ホトトギスが住んでいるのだ。






並みのプレイヤーでは、延暦寺に到達するだけでも困難を極める。しかし、ノブ一行はノブは勿論、あけっち、お乳、蘭子全員が、優秀なプレイヤーだ。難なくステージを上がっていき、遂に延暦寺の前にたどり着いた。






「いよいよだな」


「ええ、そうね」


「緊張するでござるな」


歴戦のゲーマーである彼らでも、今から対峙しようとする敵は未知の領域だった。何せクリア実績のあるプレイヤーがほとんどおらず、まともな情報すらないのだから。






周囲の鳥や虫の鳴き声が止み、辺りに静寂が訪れた。これはまさに嵐の前の静けさと形容されるにふさわしい状況だ。


「くるぞ……」


そうノブが言うと、延暦寺より一話の巨鳥が飛び出してきた。






神々しいまでに光る翼と、鈍く光る目、羽ばたく度に風圧で周囲の、葉が強く舞う。その瞬間パーティはその怪鳥の強さを直感した。






「これが時鳥か……」


「こいつを倒せば時鳥の涙が手に入るのね」




 時鳥は、パーティーをちらっと見ると興味がないかのようにそっぽを向く。攻撃してこないのかと、一瞬気が緩むあけっちとお乳。しかし、蘭子だけはその持ち前の洞察力で攻撃の予感を察知していた。


「(来る……)」


サポートアイテムの三味線を構える蘭子だが……時鳥の姿が消えたと思った瞬間、何かが蘭子の横を通りすぎた。そして、後ろを振り返るとあけっちが、時鳥に体当たりをされて吹きとばされているのを、そこでやっと認識できた。






「(馬鹿な速すぎる…)」蘭子は時鳥の、攻撃の瞬間を察知していた。しかし、その攻撃のスピードは人が認識できる速度を超えており、サポートの呪文を詠唱すらさせて貰えないレベルだった。






「くそっ」お乳が時鳥の攻撃を防ごうと、盾を構えるが時鳥はパーティの周りを飛び回り、四方八方から攻撃を仕掛けてくる。その為、的確に時鳥の攻撃を防ぐ事はできなかった。しかも時鳥が通り過ぎた、跡は発火していて、その跡を通ると火遁属性のダメージをくらってしまう。






蘭子は防御の呪文を唱え続けていた。


「駄目……攻撃が速すぎる。サポート呪文が全く間に合わない!」本来サポートの呪文は相手の攻撃に合わせて、詠唱するものだが、時鳥の神速の前では、常に詠唱をし続けるしかなかった。




「このままじゃ、呪力が尽きてしまう……」






反撃する手立てはなく、防御一辺倒に追い込まれているパーティ。段々と、マップは火で埋め尽くされ避ける為の、スペースも限られて来ている。このままではじり貧なのは明確だった。


この状況を打開しようと、あけっちは反撃を試みる。






「かくなる上は……パリィしかないでござる」


「パリィ」それは、相手の攻撃に合わせて、タイミングよくボタンを押すことでカウンターでダメージを与える事が、できる上級テクニックだ。それは格上相手に通じるかはわからないが、それしか反撃の方法はなかった。






「ここでござる!」


タイミングに合わせてカウンターを試みるあけっち。


「がはっ!」


しかしタイミングが合わず逆に、大ダメージをくらってしまった。


「あけっち大丈夫?!」


「なんとかまだ大丈夫でござる」


「なるほどな、戦ってみて初めてわかったぜ。こいつを誰も倒せない訳がな。攻撃を当てる事も防ぐ事もできねえ。こうやって皆完封されちまったんだろう」






八方ふさがりの状況だったが、パーティはまだ、勝ちを諦めてはいなかった。なぜなら、パーティにはこの男がいるからだ。


「天上天下唯我独尊」


「天下布武」


「尾張の廃課金者」


様々な異名を持つ、天下統一を欲しいままにする最強の男。




そのノブは、いまだ様子を窺うように沈黙をしていた。


神速の怪鳥も、警戒しているのかノブにはまだ攻撃を仕掛けていなかった。しかし、次の瞬間、時鳥の姿が消えた。




時鳥の矛先にはノブがいた。


「ザシュ!」


斬撃音が響き渡る。


「ピギイ!」と断末魔を上げる時鳥。


ノブはコンマ1秒にもみたない「パリィ」のタイミングを見切ったのだ。






「パリィ」は本来あけっちの得意技だった。しかし時鳥の速さの前には、あけっちさえも全くタイミングを、合わせることが出来なかった。それをノブは軽々とやって見せたのだった。




(あの、速さにパリィを合わせるとは……。ノブ殿の武才は私のはるか先、


をいっておられる)」






 しかし、これには種があったのだ、ノブは昨日の内に大金をはたいて、時鳥の攻略法を仕入れていたのだ。その対策の一つがこれだ。付属「パリィ+3」時鳥の攻撃は、実は人間の反射神経では、ほぼ「パリィ」が出来ないとノブは知った、ノブはその対策として考えたのが、これだった。






 これさえつけていれば、「パリィ」の有効範囲が広がり、ギリギリ人間の反射神経で間に合うレベルになる。それを加味してもノブのプレイスキルは見事というしかないが……






斬りつけられた時鳥は怒り、激昂状態に変化した。こうなると攻撃パターンが変わって、攻撃力も跳ね上がり更に危険な、敵へ変貌するのだ。






 時鳥は空中で留まり、翼で風を起こす。その風によって時鳥が通った跡に出来た火を舞い上がらせた。舞い上がった日は、竜巻のようになり、ノブを四方八方から襲う。






「ノブ様!」


爆炎に完璧に包まれたノブ。


これでは流石のノブでも生還は難しい。


「そんな……」


膝をつく、蘭子。パーティが絶望に包まれる。






炎は今だ、激しくうねり、時鳥の住処であった、延暦寺をも巻き込んでいた。その炎の中に一つの人影が浮かび上がる。






「このような、ちっぽけな火など、我が覇道の前にはいささかの、


障害にもならぬ」


ざっざと炎の中を、何事もなく歩いて出てきた、ノブはそう言い放った。その姿はまさしく覇王にふさわしい風格だった。


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