第4話4話 森蘭丸
パーティが解散した後、信長はひっそりと安土城の自室でげえむを続けていた。
「まずい……時鳥ホトトギスを倒すって言っちゃたけど、今の装備と情報じゃ勝てねえ。」
パーティの長である信長は、余裕がある事を見せようと、仲間の手前かっこつけてしまったが、かなり無謀な事をしてしまったと若干後悔していた。
時鳥の弱点や戦い方の情報収集と、新しい装備の素材集め全てやろうと思えば、
膨大な時間がかかる。
「これは今日は徹夜かな…」
現実での内政の業務とそれが終わった後の、げえむで疲労困憊の信長であったが、明日の仕事とげえむは徹夜で臨む覚悟を決めた。
情報収集と素材集めに3時間経ち、深夜を超えた頃だった、信長の自室の障子から声が聞こえた。
「信長様」
突然の声に、信長は飛び跳ね急いで右上に、垂れてある紐を引っ張た。すると上からパソコンを隠すように幕が下りてきて完璧にパソコンを覆い隠した。家臣にげえむをやっていた事がバレないように、信長が考えた装置である。
すかさず仕事をしていた用に見せるため、横に置いてある机に向かい書類の処理を始める信長。
「なんだ?」
「この様な遅い刻にどうかと思いましたが、明かりがついておりましたので、無礼を承知ですが、少しお話したい事がありまする」
「良いだろう、入れ」
「はっ、失礼します」
そう言うと扉が開き正座をした、美丈夫が現れた。その者の名は「森蘭丸もりらんまる」、信長が最も信頼している側近の一人である。本来であればこの時刻に、部屋を訪れるうつけ者であれば、即刻打ち首であったが、蘭丸はそれも咎められぬほど信長の寵愛を受けていた。
「なにようじゃ?このような時刻に」
平静を装いつつ話す信長だが、内心はパソコンが見つからないか心配でヒヤヒヤだ。
「申し訳ありませぬ。しかし、どうしても進言させて頂きたいことがありまする」
「いいだろう申してみよ」
「身の上を超えた発言は承知であれど、信長様はいささか働くに誠実すぎます。今日も朝から内政に追われ、それが終わった後も、現在に至るまで書類の処理をしておられる」
半分はげえむだけどな、と内心信長。
「どうかお体を……」
と蘭丸が言いかけた時だった、部屋がカタカタと軋み、やがてガタガタと部屋全体が揺れ始めた。
かなり大きな地震だった、城中の家臣達が跳ね起き、避難する者やパニックに陥る者の声で閑静だった安土城は阿鼻叫喚に包まれた。
しかし信長の自室は違った、信長は平然と書類を書き続け、森蘭丸はその信長を微動だにせず見つめている。まるでこの部屋だけいつもの静寂な夜を続けているかのようだった。
しばらく経ち、段々と揺れが収まっていき城が平穏を取り戻した後、蘭丸はゆっくりと口を開いた。
「このような事が起きても全く動じられないとは、流石の胆力でございまする」
淡々と感嘆を述べる蘭丸、だが等の信長は…
「(やっべえ……パソコン倒れてないよな?大丈夫だよな?)」
動じまくっていた。
「なれど信長様何故お隠れに、なられなかったのですか?」
「だってパソコン気になるしな」と心の中で信長。
「信長様はいずれ天下を取られる身、つまらぬことで怪我をされて天下布武の志を果たせぬ事があってはならぬ事です」
「……」
「地震だけではありません。先ほどの続きですが、信長はもう少し自分を労るべきです。もし信長様が倒れられたら私共はどうすればよいのです?」
目元に涙を浮かべながら蘭丸は信長に訴える。
「信長様に見いだされてから幾月、私は本当に信長様を敬愛しております。重ねてになりますが、どうかお願い致しまする」
蘭丸の頬に涙がつたう。
「(なんかどっかで見たことあるぞこの光景…)」
溢れるデジャブを感じる信長。
「取り乱して申し訳ありません。此度の私の無礼について如何ほどの処罰も、受けまする」平常を取り戻し自分の処罰を申し出る蘭丸。
「よい、お前の気持ちはよく分かった。下がるがよい」
「はっ、失礼致します」
そういってお辞儀をして部屋から去ろうとする蘭丸。
「蘭丸」
「はい?」
「すまぬな」
尊敬すべき君主からの突然の謝罪に、表情が一瞬崩れそうになったが、蘭丸はこらえて会釈をして部障子をゆっくりと閉めた。
「すまぬな蘭丸よ。しかし今日は仲間の為にも儂は休む訳にはいかないのだ」
再びげえむを始める信長。
森蘭丸は幼いころより、信長に可愛がられ信長の為なら死ぬ覚悟で、仕えている実直な家臣だった今回も自分の事などはどうでもよく、毎夜遅くまで働いている信長の事を考えての、進言だったのだろう。
だがしかし……
「【時鳥ホトトギスの涙】は欲しいでーす」
「くくく、ちょれえな!ゲームオタク共はよぉ!」
「男って単純」
皮肉にも信長の心労の大半はこいつ(蘭子)のせいなのであった。
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