第11話

「ニャンコ?」


ネコ様とお呼びなさい!


「ニャンコがアタシを慰めに来てくれたの? でも天から降ってきたから……もしかして天使様?」


こいつ、頭おかしいわ。いい年して天使様とか言ってんじゃないわよ。頭何歳よ!

アタクチは早々に目の前の芋っぽい女を頭おかしい認定し、颯爽と部屋に入る。

ふん、軟禁されてるだけあってしけた部屋ね。


アタクチの後ろからボスカラスも歩いてくる。こいつのこのふてぶてしい歩き方、いいわね。

ついでに、アタクチのふわふわな毛を堪能しようと伸びてきたけしからん不埒な芋女の手を叩く。


「いったぁ!」


アタクチに触ってもいいなんて許可は出してないでしょ。


「ひどぉい。もう! 学園に入ってから嫌なことばっかり……もうヤダ!」


芋女はメソメソ泣き始めた。うっとおしい。


「王子に付きまとわれてたのを拒否できなかっただけなのに」


「おい、あの浮気相手どぉすんだよォ」


「うっとおしいし、芋臭いから放置よ。構う価値ないわ」


メソメソ声をバックに部屋を漁る。クローゼットの中には、露出の多いピンクのドレスがかかっていた。

おえー、なにこの下品なドレス。なんでピンクのドレスにピンクダイヤ縫いつけてんのよ、意味わかんない。しかも露出多いのにリボンたくさんついてるし……。


「ねぇ、ボスカラス。あんた達、こういう宝石好きでしょ?」

「オレたちはキラキラしたものが好きだァ。こういう大きいのもいいなァ。ドレスに付いてると下品だしなァ」


アタクチは手を伸ばしてみるが、縫いつけてあるせいか簡単には取れない。

これデザインは下品だけど布はシルクっぽいわね。ひっかくともったいないわ。


「大丈夫だァ。対策は考えてある」


ボスカラスのその言葉とともに部屋になにかが転がり込んできた。

芋女はメソメソしているので気付いていない。


「イエーイ! 呼んだ?」


……さすがに高貴で賢いアタクチでも今の状況は意味が分からないわ。

なんでモモンガに乗ったハリネズミがここで登場するのかしら。アタクチ、眠すぎて夢でも見てるのかしら。モモンガに乗ったハリネズミよ? 外から飛んで来たのよ?


「オーヒのペットだァ。城にいるカラスカァら聞いてて仲良くなったんだァ。ちなみに、オーヒはモフモフした動物を飼うのが趣味ィ」


なるほどね、アタクチを檻に入れやがったのはオーヒのせいなわけね。


「こいつら、夜行性のはずよね」

「人間に飼われてて体内時計狂ってるんだろォ」


「イエーイ! そうそう。オイラ撫でられるの嫌いなのにあのオーヒ触りまくるから。ほら! ストレスでこんなに針が抜けてハゲちゃって!」


アタクチとボスカラスの会話にサラリと入ってきたハリネズミは、抜けた針を見せてくる。


「……大変ね」


それ以外言えない。飼い主に恵まれないとこうなるのね……。


「イエーイ! でも、これでピッキングとかできるし! この宝石も取れるからオイラに任しといて!」


ハリネズミは早速針を使って宝石を縫いつけてある糸を器用に浮かせて引っ張り、糸を歯で噛んで宝石を外し始めた。モモンガはドレスを押さえて固定し、いつの間にか現れたネズミ達も協力して宝石を外している。

モモンガは寡黙な性格なのか、眠いのか喋らない。それにしてもこのハリネズミ……ポジティブすぎて不安になるわ。


「うぅ……なんか動物増えてるしぃ。もう何なのここ! ヤダヤダ! 家に帰りたい!」


あ、芋女が気づいたみたい。アタクチが睨むと、芋女の目から涙がさらにこぼれる。


「アタシだって卒業パーティーくらいお洒落したくて学園のレンタルドレス手配してたのに……王子がそんな悪趣味なドレス持ってきて! 着ないと『家がどうなってもいいのか』って脅されるし! そんなドレス着たくもなかったのに!」


あぁ、なるほど。アタクチ、なんでこの女が嫌いなのか分かったわ。

アタクチの下僕を傷つけたから会う前から嫌いだったし、見た瞬間も嫌いだったし、独り言聞いても嫌いだったけど。


こいつ、必死で努力したことがないのね。

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