第29話 重力エンジンとACバッテリーの技術を巡る動き

 戦闘機雷光の試験飛行は大きく報道された。まずは、数分で1000mの高度まで垂直上昇という戦闘機としてはあり得ない機動を極めて安定して実施している。

 これはテレビで繰り返し映像が露出したが、そこでその静粛性がとりわけクローズアップされた。


 似たような機動をする航空機は、ハリヤ―やオスプレイのような推進機の方向を変えるジェット機やプロペラ機、さらに元々垂直飛行が得意なヘリコプターがある。しかし、それらの出発時には下方に凄まじい騒音と、暴風、熱が押し寄せて人は近寄ることができない。


 その点で、下から撮った映像では飛行は極めて安定し、機体が空気を押しのける風は巻き起こっているが、服が多少バタつく程度である。音については、離陸前にはエンジン音が聞こえるが、上空に昇ると聞こえるのは実質風切り音のみである。だから、敢えてテレビカメラも20mほどの距離に近づけて撮影させている。


 日本においては、航空機を運用する飛行場付近では、その発する轟音が飛行場をして迷惑施設として位置づけられている。とりわけ、米軍、自衛隊共にジェット機の訓練時のアフターバーナーを焚く大きな騒音は苦情のもとになっている。


 だから、自衛隊で現地対策に携わっている者達は、雷光の早期導入を声高に叫んでいる。さらには、低高度では軽々とマッハ1.5を達成し、高度100kmという亜宇宙に簡単に上昇して、マッハ12の超高速飛行を実現して世界の軍事関係者を驚かせている。


 また、公式発表ではなかったが、軍事専門家からイニシャル・ランニングのコスト面での推定された比較が示され、それぞれ2〜3倍、6〜10倍の差が提示された。

 ランニングコストについては、すでに部分的に販売が開始されているハヤブサの運用実績とRGエンジニアリングの技術資料を参考にしたものだ。そして、俺達がはじいている数値に極めて近い。流石は専門課であるが、その専門家は最終的に全ての飛行機は重力エンジン機になると断言している。


 ちなみに横田基地での会議であるが、俺は実情をほぼ正直ベースでぶちまけた格好になった。つまり、俺のみが探査の魔法を使えるので、視界外のランチャーにマジックバッグからミサイルをセットすることができるということを告げた。


 だか、“宙”型を改造して、機体中にミサイルのランチャーを設置するか、操作員にランチャーが見えるようにすれば、誰でも俺がやったのと同じことができる可能性もあるということだ。


 しかし、俺が提言したのは俺達みたいに1機で100機近い攻撃機と闘うようなことはせずに、数を揃えればいいということとだ。俺達がやったのは、元々自衛隊は数においてC国軍に大きく負けており、劣勢を跳ね返すための苦肉の策であったわけだ。


 一方で、米軍は文字通り圧倒的に世界一の軍隊であり、ほぼあらゆる保有している装備の数も世界一である。具体的には例えば雷光(サンダーライト)を相手の半分の数でも揃えれば、充分被害なしに相手を駆逐できるだろうし、同数揃えるのは米軍にとって容易なことだろう。


 俺の論点は彼らも納得して、さらなる“宙”型の増強を目指すということだ。さらに、彼らの口ぶりでは1000機と言っている雷光型のさらなる増強も視野に入っているらしい。


 また、視察に訪れ試乗した各国の空軍士官も口々に調達数の増強を本国で申し入れるとしているので、会社にとっては有難いことではある。

 更には、世界中に広がった雷光のニュースに刺激されて、今回参加した10か国以外の国々から、雷光の視察と調達の打診が20か国以上から外交ルートを通じてきている。これもまた会社にとっては明るいニュースである。


 一方で、公然ではないが売却を拒まれているC国、ロシア、K国に加え、人権抑圧で名高い数ケ国は焦りを深めている。なにしろ、雷光は“宙”型に近い性能なので、すでにまもる1号と2号が証明したように、相手の戦闘機を亜宇宙から一方的に攻撃できるのだ。


 その調達ができないことは、軍事に重きを置くこれらの国々にとっては耐えられな ことだ。そして、これらの国のなりふりかまわぬ諜報活動には定評がある。

 だから、日本の防衛省のみならずアメリカからも、㈱RGエンジニアリングの警備強化と通信のセキュリティ強化が協力に申し入れられ、それなりには実行はしていた体制が大幅に強化された。


 ちなみに、会社は強化型飛翔車であるハヤブサ型については自社制作をしているが、通常型の飛翔車及び戦闘系の航空機についてはエンジンの供給に絞っている。

“宙”型と雷光型はともにエンジンを2基積んでいて、型式が異なるが、それぞれ1基が1億5千万円、1億円であり、ジェットエンジンに比べれば安いものである。


 ACバッテリーについては、また別の大きな話になっている。当社と、U電池やT電機と各電力会社、アメリカのA電機や電力会社などが出資して、㈱ACバッテリーというまったく捻りのない名前の会社が設立された。


 この電池事業については初期投資が大きいので、資本金は日本円で3000億円に加えてアメリカドルで50億ドルとなった。現状では、バッテリーの生産量の限界によって、ハヤブサ型飛翔機、“宙”宙航機さらに雷光型戦闘機の運用が規定されている状況であり、RGエンジニアリングの隣接地で細々と作っている。


 しかし、日本のG県、アメリカのニュージャージー州に巨大な製造工場が建設されていて、半年後には操業に入る予定になっている。さらに、これは電池の製造工場というだけのものであり、それに加えて電池の充電(原子的励起)ステーションが必要になる。


 この工場はAEE(Atomic Electrical Excitation) Plant という名で呼ばれており、日本全国で50ヶ所、全米で100ヶ所が建設されている。

 つまり、㈱ACバッテリーの目論見では近い将来すべての車両は、ACバッテリー駆動になるとみており、その場合には現在のガソリンスタンドが電池の交換所として機能するようになる。だから、そのスタンドに電池を供給するためにそれなりの密度でAEEプラントが必要なのである。


 これらの工場は、バトラから与えられた1つの能力の仕様しかないが、概ね時間当たり50万㎾時の励起が可能である。つまり1時間に100㎾時の容量の電池を5000本充電できることになる。

 これはすなわち50万㎾の発電所に相当するのだが、稼働に5万㎾の電力が必要であるので、差し引き45万㎾になる。


 バトラからもたらされた、この励起システムの原理はまだよく解っていないが、与えられた仕様書の通りに部品を作り、組み立てるのは難しくなく、問題なく安定して機能する。

 また、稼働時に高温も危険な放射線も発生せず極めて安全なように見える。しかし、一方で原理が判っていないので改造は出来ず、より規模を大きくも小さくもできない。


 そして、この工場は部品等を作るのに初期費用を要しているので、初期にはそれなりの費用を要しているが、日本の場合で50ヶ所建設すれば1ヵ所45億円と算定されている。これは50万㎾ガス火力発電所の建設費約600億円にくらべると段違いであり、 電力会社が㈱ACバッテリーに出資した所以である。


 ただ、励起はあくまで放電によって電子を失った電池本体である胴の合金のシリンダーを、バトラから伝授された“励起流発生器”により発生する電磁流の場の中で再度活性化するものである。


 つまり、『電池』をいわば充電するものである。だから、電気を得るためには“充電”された電池に電線を繋いで取り出す必要がある。この励起時には、電池のケーシングからその本体である円筒形のシリンダーを取り出して、先述の場に2分以上晒すことで活性電子量がフル充填状態になる。


 だから、一旦は電池の励起という操作が必要であり、直接は電力を取り出せない。電力業界は原子力には風当たりが強く、CO2削減を迫られ、自然エネルギーといって太陽光・風力などの変動が激しくいわば“汚い”電力を押し付けられて困っている。その幹部連から頼みこまれて俺も頑張ったよ。


 とは言え、バトラに聞き倒しただけだけどね。バトラも、残念ながら励起工場から電力を連続で取り出す方法は知らなかったが、軽10cm高さ1mで約5万㎾時の電池本体である超大容量電池の作り方は教えてくれた。だから、バッチ方式を取ればよいということになったのだ。


 これは各端子が5万㎾の出力の電極を10基用意してそこには大容量電池をセットして、各々の電池は1時間で切れる前に機械的に交換するのだ。このような出力システムは約20億円の追加経費を要したが、それでも、先述のように既存の発電所に比べ遥かに安い。


 また、運転には5万㎾の電力供給が必要であるがこれは自分で賄える。さらに大容量電池の交換経費が掛かってくる他に励起流発生器の寿命が10年になっている。

 電池の交換経費とは、励起ごとに電池本体の合金が劣化していき、概ね500回の励起で5%、750回で10%、1000回で50%の容量低下を招くことがバトラから知らされている。


 だから、容量は元々10%減で設計し、750回の励起で本体のシリンダーは交換することになっているのだ。この劣化した電池本体の銅合金は再度溶解されて調質して再生される。


 これらを含め、必要な管理要員昼間5人、夜間2交代2人の人件費を加えても、基本的にガス発電所の1/5程度の運転費になる。さらには、励起時に500℃程度の高温にはなるが、周囲に全く有害な放射線などを出さず、排気ガスの排出もないという無公害施設なのだ。


 だから、日米電力各社は第1号励起工場の運転結果を検証した結果、全力でAEE方式の発電所を建設することを決断した。そのために、別途㈱日本AEE発電、US-AEE-Generation Co.Ltd,.を設立して、日米各所に発電所の計画を始めている。

 そして、この動きに他国も黙っている訳はなく、日米の両社には世界中の電力会社から技術供与と建設への協力要請のオファーが殺到している。


 ちなみに、ACバッテリー関係の特許はM大学技術研究所が申請中である。電池(バッテリ―)とその周辺特許、及びAEEシステム・連続発電システムの特許については、すでにアメリカでは成立しており、日本では公告中で間もなく正式に成立の予定である。


 これらは類似例のないものであるために、異議申し立てもなく成立までの期間が短いが、例によって日本では前ほどではないものの時間がかかる。

 これらの所有権は、半分は俺、半分は大学ということになっている。この特許に関して話をした時に、俺の大学時代の同級生でM大学の名誉教授である浅井、物理学教室の鹿島主任教授、さらに島田学長は驚いたよ。


「そういうことで、この関係の特許の申請はお宅の大学の技術研究所に任せたい。なにしろ、専門家でないと特許関係は面倒で扱えない。それで、所有権だけど、大学で半分は持ってもらって結構です。

 大学だったら、無駄には使わないだろうからね。半分は当面は俺が持っているけど、その内会社を作ってそっちに移すよ」


「おい、いいのか三嶋。これはとんでもない技術だぞ。おそらく、今後バッテリーは全てこれになるし、殆どのエンジンはモーターになるから、その用途はどんどん広がる。多分、飛行機、船、全ての自動車はすべてこのバッテリーで動くようになるよ。だから、その権利がどの位になるかは見当がつきにくいが、ひょっとすると年間数千億円の桁になるんじゃないかな」


 俺の言葉に浅井が応じるが、鹿島教授が続ける。

「いえ、いえ、それだけではありませんよ。私が特に注目しているのはこの励起工場です。これは50万㎾の発電所に成り代われます。どの位の建設費かまだ分かりませんが、いずれにせよ、通常500億円以上と言われるガス発電所などより1/3〜1/5でしょう。しかも無公害、燃料要らずです。


 今後の発電は間違いなく20年以内には全てこれになりますよ。世界の発電量は大体年間30兆㎾時ですから、仮に0.1円/㎾時でもライセンス料を取れば3兆円ですね。 

 大体今のコストは10円〜20円/㎾時ですから、この励起システムを導入すれば多分1/3位になりますが、0.1円というのは全く無理な数字ではないと思いますよ。でも、これは発電に限った話で、ACバッテリーはまた別ということです」


「うーん。なにか桁が違う話だな。でも、まあ大学が受けた場合はいくらでも使いようはあると思いますが、三嶋さんは本当にそれでいいのですか?無論当大学は特許申請の手間はかかりますが、どう考えてもそれは1千万円までで、中身についてはまったく権利主張はできません。

 単に浅井名誉教授とのつながりだけでそれだけの金の卵の権利を頂けるというのはいささか………」

 島田学長が躊躇いがちに言うが俺は結論づける。


「いや、この権利は本来私にもないのです。私も棚からぼた餅でもらったもので、他のノウハウのみでお釣りが来ています。しかし、権利主張はしておかないと、またC国やらK国に食い荒らされますから。私の部分もどうするかよく考えてみます。

 それに、余り国に渡すというのも気が進みませんからね。結局役人にいいようにされそうでね。まあM大学の良識を信じるということで、受け取って下さい」


 バッテリーの励起の権利関係はそのようにして決まったのだが、重力エンジンの権利については全て㈱RGエンジニアリングが所有している。これは、俺がこの会社の株の3割をもっていることで自分の権利を担保している。


 なお、今後増資する場合であるが、俺の技術ノウハウの額を増すことで出資に替えるという契約になっているので、追加の出資はなくても3割の株を持つという割合は変わらない。


 なお、完成品を入手して分解してそれを真似ることでは定評のあるC国、K国は、ハヤブサ型飛翔機についてはまだ本体を入手していない。これは、まだ全部で100機足らずしか販売出来ていないからである。ちなみに、同じことを日本でも過去ではやっていたことは事実であるので、あまり声を大にして言えないことではある。


 しかし、直接には売らないとしても、重力エンジンを積んだ飛翔機を両国が入手するのは避けられない。それに、世界で汎用的に使われるようになった段階では、いつまでも両国への販売を拒むこともできない。また、AEE発電所はいずれはC国、K国やロシアなどにも売るということが日米の間で決まっている。


 ただ、重力エンジンの軍事用の活用はロシアを含めて拒みたいので、重力エンジンの製造技術は渡したくはない。また、AEE工場の胆は“励起流発生器”であるが、これも製造技術は渡したくない。


 しかし、両者にはものは作れても、稼働ができない仕掛けがあった。そして、どちらも全体としての原理及び働きの理論が解明されていないために、各機器の働きが判っていない。だから、これを別のもので代替はできない。


こ のパーツは、いずれの場合も必須の働きをする機器であり、最終的に密閉構造になっているので、切断するしか分解の方法がない。しかし、ケーシングを含めた機器なので切断すれば当然機能は失われる。ただ、真似て同じものを作るのは不可能ではない。


しかし、それを稼働状態にするには外から意力を用いた操作が必要であり、その操作は簡単であるものの地球人類では今のところ俺しかできない。

 俺は肉体を“改良”されているのでその能力を持っているが、意力増幅器を使えば可能になるものが520人の社員の中にも3人いて、人物を慎重に見極めた上で、2人は訓練中で、残り一人はまだ調査中である。


 今後、大増産をしていくとなると、その能力者が数十人は必要であると考えており、いろんなところに出入りして探しているところだ。現状のところまずはできるだけ大学に出入りして、学生の中から探している。


 俺では感じ取れないが、バトラには近くに行けばその能力がある者は判るのだ。結果として、すでに社外で12人を見つけているので、リクルートをするつもりでいる。

 このように、双方の機器の必須のパーツが実物を調べても作ることが極めて難しい。そして仮に完全な複製を作れても、特殊な意力増幅器と訓練を受けた能力者が必要である。完全ではないが、概ね実用的には十分な複製防止の仕組みであると思っている。

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