第28話 戦闘機雷光の試験飛行

 戦闘機“雷光”のプロトタイプが完成して、試験飛行が行われることになった。場所は便利さから日米の部隊が運用している横田基地である。日米は無論、イギリス、フランス、ドイツ、オーストラリア、カナダ、イタリア、インド、マレーシア、台湾、フィリピンの10か国の空軍武官が参加しており、マスコミは日米のみ各3社に限定して招待している。


 10か国の外国の武官を受け入れているのは、雷光は最初に日本とアメリカに供給して2年間運用して不具合を解消後に彼らに販売することになっているからである。実のところ、尖閣事変以来重力エンジン機のアドバンテージが知れわたり、今では殆どの国から必死の雷光型の調達要請が来ている。


 だが、それにも増して加熱したのは、ミサイル防衛のみならず従来型のジェット機軍用機への絶対的な強さを証明した“宙”型の調達要請であった。

 とりわけアメリカ軍が従来の様子見の10機から一気に100機の調達を申し入れてきたほかに、各5機の調達を申し入れていたイギリス、フランス、ドイツ、オーストラリア、インドが調達数をそれぞれ倍増した。


 さらに、他にも22か国が4機から10機の申し入れをしているが、その中のC国、K国、ロシアはペンディングということにしているものの売るつもりはない。

 重力エンジンの加速度については、加速度を高めると指数的に電力消費が高まるために、宙型で2G、雷光型で3Gに抑えている。この点では、10Gに近い加速が可能な近代のジェット戦闘機に比べると、“鈍い”と言われても仕方がない。


 しかし、その加速を宙型では1時間、雷光型で30分続けられるうえに、空気抵抗が無いに等しい高高度に上昇することが可能である。だから、成層圏に昇れば宙型が70km/秒、雷光型が52km/秒までの速度が得られる。


 ただ、減速に同じ電力を用いるので実際は半分の速度が限界であるが、そもそも地球の脱出速度11km/秒を超えるような速度は必要ない。また逆に言えば、11km/秒の速度に上げればどちらも1時間で地球を一周できてしまうのだ。


 また、宙型はその居住性能から、予備の電池を積んでおけば月に行くことも容易である。そして、その価格が、武装無しの状態ではあるが、宙型で60億円、雷光型が30億円であるから、F35の調達価格が安くても150億円であることを考えれば、買わない理由はないのだ。


 現在完成しているプロトタイプの雷光、英語名サンダーライトは10機であり、現状ではレーダーは装備しているが、武装はしていない。機体の製作はK重工で、エンジンはRGエンジニアリングであり、K重工の横須賀工場で組み立てを行い、横田まではテストパイロットが飛ばしてきている。


 俺も、当然関係者として呼ばれている。後で憂鬱な会議があるが、とりあえずは試験飛行だ。そこには、プロトタイプの20m毎の列を作って1編隊4機が並んでいるが、幅3.2m高さが2.7mに長さ6mの機体は、大きさ的にそれほど目立たないし、鋼製の機体は艶がない灰色に塗られているので余計見栄えがしない。


 その4機には人が10人ずつほど群がっており、2つのハッチが開かれたコックピッドの横にに懸けられた梯子にも2人ずつが乗って中を覗き込んでいる。随分視察者に自由に機体を見せているが、この機体の胆は重力エンジンであり、それは流石に見せていない。


 俺が部下の松尾を連れてそちらに近づいていくと、加山2佐が目ざとく見つけて声をかけてくる。

「おー、三嶋さん、遅かったですね」

「加山さんか、遅くはないだろう。試験飛行まではまだ30分ある」


「まあ、そうですがね。殆どの連中は受けつけ開始と同時に来ていますよ」

「ああ、そうだろうな。殆どの連中にとっては、重力エンジン機は初めてだろうからね。俺達は飽きるほどみているけど。でもあっちに駐機しているF2に比べても貧相だね」 


「ええ、まだ改装の可能性が高いから、表面の艶出しも敢えてしていませんからね。ところで、米軍は、装備調達本部長、さらに空軍のNo.2も来ていますからね。彼等、後の会議に気合が入っていますよ。ちょっと航空幕僚長に挨拶をしてもらえますか?」

 

「へえ、鹿島さんも来ているの。今日、実際のところをぶちまけちゃうのはいいんだよね?」

「ええ、その後何にも言われてないのでいいのだと思います」


「まあ、変に隠してアメさんに不信感を持たれるよりいいかな。今のところ、C国との関係を考えると、連中とぎくしゃくするわけにはいかないのはよく解るからね」


 俺が言ったけど、確かにC国との関係はさらに悪化している。先日尖閣事変と名づけられた戦闘で、俺も加わってC国の最新鋭の戦闘機と攻撃機117機の機を落とし、さらに短距離弾道弾2発を落とした。


 これは、日本が公表したこともあって、C国としても隠しようもなかった。多分、彼等にとっては大きなショックで態度を決めかねたんだろうな、1日位は無反応だった。

 憲法違反を騒ぎ立てた日本の左巻きの連中の方が煩かった位だが、結局1日置いて3日間位はヒステリックに非難したが、アメリカは無論、欧州の連中もはっきりC国の自業自得と断じたことから、尻すぼまりになった。


 中で異様だったのはK国で、日本の左巻き連中と同じで「憲法違反」と騒ぎ立てた。また、この中で政府は宇宙でのイージスシステム構築をはっきり打ち出し、KT国、C国のミサイルあるいは航空攻撃に対して完全な防衛体制を構築することを公表した。


 実際にすでに実施したように、そのテクノロジーはあるわけだからね。誰もはったりとは思わないよ。そして、まもる1号、2号から50基を超えるミサイルを放った点については広報官がこのように答えた。


「はい、まもる1号が71発の迎撃ミサイルを発射し、2号が65発のミサイルを発射しました。これは、マジックバッグという、魔法の袋がありまして、その中にそれ以上の数のミサイルを入れて持って上がったわけです。

 つまり、それがそのように大量のミサイルを放つことができた理由です」


 聞いていた連中の顔の映像を見たが、呆れた顔をしていたな。でも、少しして質問した記者がいたよ。

「その魔法の袋で持って上がったと言われましたが、ミサイルはその袋の中から直接発射したのですか?」


「いえ、そのようなことはできません。袋からミサイルのランチャーに装填しました」

「装填した?どうやって、その魔法の袋から装填したのですか?魔法で?」


「そう、その通りです。魔法で、袋からランチャーにセットしたのです」

 もはや聴衆は薄笑っていたが、別の記者が言う。

「そんな、魔法のようなナンセンスなことを言わないで、本当のことを言って下さいよ」

「いや、私は本当のことを言っています。それじゃあ、他にどういう方法があるか言ってくださいよ」


 そのまま、防衛省の制服組の広報官は突っ張り、荒れた記者会見は終わった。その後、防衛大臣、首相も度々記者からこの件を聞かれたが、「制服組がそう言っているのだから、そうなんでしょう」と言うばかりであった。


 結局、日本人も世界の人々も、防衛機密だから発表できないのではぐらかせていると解釈している。防衛機密を開示することができないのは常識なので、さほど悪く取られることはなかった。


 しかし、それで収まらないのは野党の先生方で、国会の場でも追及して、同じ返事を繰り返す制服組を国会侮辱の廉で罰しようとしたが、「嘘ということを証明しろ」という政府の要求に黙ってしまった。


ただ、米軍相手ではそうはいかず、まもる1号のミサイルの発射記録を開示しているので、どこともなくミサイルが現れてランチャーにセットされ、発射を繰り返すのを確彼らは確認している。


 だから、彼らは自衛隊が言うことが正しいとしか解釈しようがないことは判っていた。しかし、彼らはその『技術』を是非とも使いたい。だから、どうやって使えるのか知りたがっているが、俺は言いたくない。


 その情報開示の要求はだんだん強まり、遂には大統領まで加わっての要求に、しょうがないということで、今日当事者を連れてきて協議しようということになったのだ。当事者と言えば俺しかいないものな。


 アメリカにも俺のRGエンジニアリングとの関係、それに例の日にまもる1号に乗っていったことはばれているようだ。幸い、マスコミにはばれていないのでまあいいけどな。


 俺は、加山2佐に連れられて、鹿島航空幕僚長が黒木空将補と話しているところに行った。

「おお、三嶋さん、今日はご苦労ですがよろしくお願いします」


 中背で頭の薄い空幕長は破顔して軽く頭を下げる。流石に背はぴしりと伸びて姿勢が良い。後ろで黒木空将補も軽く頭を下げている。

「はい、よろしくお願いします。洗いざらいしゃべっていいのですね?」


「ええ、魔法を使う実際のところは私どももはっきり理解しているわけではありませので、説明をお願いするしかありません。我々の理解している部分は米軍も把握してますんでね。ところで、例のマジックバッグは3つお売りになったとか聞いていますが?」


「ええ、強硬に要求されてね。会社から3つ販売しています。増幅装置込み、指導込みです」


 そう言った通り、マジックバッグについては、自衛隊も了承の上で1つ10億円で3つ売っており、そのままでは使えないので、それぞれに自衛隊に収めたのと同じ意力増幅装も含み、無論使い方も指導している。


 米軍は全体で10個購入を要求しているが、俺はそれを了承はしたものの1ヵ月に1個納入することで納得させている。一方で、すでに7億円で2個収めた自衛隊も同じ10個の購入を要請しており、これも月に1個納入している。


 ちなみに、マジックバッグの製作はマナの濃いハウリンガでしかできず、俺が一人で作っている。だから、会社の販売収入の半分を俺の作った㈱ハウリンガ通商に振り込ませている。


 ハウリンガ通商は、シーダルイ領の開発のために、地球から持ち込む資材の購入を目的として設立したものだ。今度は、シャイラの実家の開発が加わるので、人も入れようと思っているので、かなり出費が増えることになる。


 やがて、試験飛行が開始されるという日本語と英語のアナウンスがあって、機体に群がっていた人々が見学席に戻ってくる。日米それぞれの2人のパイロットが乗り込む。彼らは3次元バイザー付きのヘルメットはつけているが、最大加速3Gということで、Gスーツが必要ないので普通の繋ぎのユニフォームである。


 まず、アナウンスは4人のパイロットを紹介して、それぞれがコックピットの上で立って手を振る。無論、彼らは基本的な操作についてはすでに訓練されており、実機で飛行を経験してその操作は飲みこんでいるる。


「では、まずただいまご紹介したパイロットの皆さんが操縦して、1〜4号機の順で高度1000mまで鉛直上昇します。上昇は加速度2Gで約5秒の加速で秒速50mとして行います。では1号機ジョン・スチュワート操縦士の機から始めます」


 アナウンスと共に、1号機が最初はゆっくりだがどんどん速度を増して上昇していく。高度約127mで所定の速度に達し、今度は1Gの加速度に切り替え等速運動として上昇する。


 さらに高度1000mまで残り127mなった時点で加速を切り、地球加速度の1Gで減速して高度1000mで速度0となる。そして、上空で停止するためには落下に対対抗する加速1Gは駆けたままにする必要がある。


 つまり、秒速100mまでの加速は地球重力の1Gに対して2Gで約5秒間駆動して速度を50m/秒とする。この間の加速は地球重力を差し引くので実質1Gである。この時高度は127mであり、ここから重力に打ち勝つ1Gの加速により50m/秒の等速で上昇するが、高度約1000mで速度0にするために、残り127mで上向きの加速を切る。


 そうすると、地球重力によってちょうど1000mで速度0になる。ここで1Gの加速により上向きに加速すれば、重力と釣り合って停止することができるのだ。つまり、最大加速度にまだ余裕のある最大2Gの加速度を用いて、25秒間で高度1000mに達し停止することができる。


 このような機動はジェット機にはあり得ないし、ヘリコプターでもこの時間で所定の高度には昇れない。また、この場合は上空で停止するという機動を行っているが、どこかにめがけていく場合は、例えば100mほどに上昇して45度程度の角度で最大加速の3Gで飛び去って行けばよい。


 だから、飛行場としては10m四方あれば、問題なくこの機は運用できるということで、これが雷光型の最大のメリットの一つである。上昇時の動きはぎくしゃくしたところは全くなく、極めてスムーズであり、音に関しては、距離2mで50dbである重力エンジンの作動音は観客席では全く聞こえない。


 ただ、機体の最も大きい面から推進する形になる垂直上昇では、最大速度50m/秒に達した高度130m余でヒューンという機体の風切り音ははっきり聞こえる。ただ、それは音の質からしても騒音というものではなく苦情に繋がるようなものではない。


 同じ方法で4機が地上1000mで各々100mの間隔をおいて停止する。その後の飛行予定は2機ずつの編隊を組んで、2手に分かれて行う。まず1、2号機の米軍パイロットは高高度飛行試験を重点的に行う。


 彼らは最大加速で45度の角度で上昇して、高度10万mまで達し秒速4㎞、マッハ12の高速試験を行って、約1時間で帰ってくる。

 3、4号機の自衛隊パイロットによる試験は日本海側に向かってEEZ内で飛行して約1時間で帰ってくるという飛行を行うことにしている。この中で、高度1万m以下の最大速度試験である秒速510m、マッハ1.5の試験も行う予定である。


 その後は、購入が認められている10か国から各1人と、ジャーナリスト4名について、後部座席に乗せて30分の飛行を経験させる予定になっている。俺はこの公開試験飛行の前に既に乗っている。


 流石に本格的な戦闘機だけのことはあって、ハヤブサとは重厚さが違うなというのが最初の印象であった。また、機体重量もハヤブサの3トン以下に比べ、武装なしで20トンあってレベルが違うが、動きの軽やかさは似てはいるが、ハヤブサほどの小回りは効かない。


 加山2佐からも聞いたが、『操縦が車の運転並みに易しすぎて、苦労して資格を取ったパイロットとしては悲しい』ということであった。しかし、こうも行っていた。

 

「ジェット機に劣るのは加速だけで、小回りは遥かに効くし、最高速だって、限界は摩擦熱だけだから、海面高度でもマッハ3は出せるだろう。それに、訓練に金はかからんし、音がしないので場所を選ばないし、人だって運転免許を持った者だったらだれでも操縦できる。

 その上に調達費も運用費もはるかに安いときている。これで、ジェット機を選ぶ奴はおらんだろう」


 まあ、そうだろなとは俺も思うよ。ジェット戦闘機と重力エンジン機が戦った場合には、ドッグファイトだったら、加速の大きいジェットが有利な場合があるから勝負はわからないだろう。


 ただ、そんな戦いにそもそも付き合う必要が無いわけで、1分あればジェット機が追って来られない速度になる上に、亜宇宙に出たらジェット機は追ってこられない。亜宇宙に行けるというのは思ったより有利であり、俺達がやったように遥か高空から一方的に攻撃できるのだ。


 それに、段違いなのはコストだ。ジェットエンジンというのは、複雑で高温にさらされる部品が多く、メンテナンスには多大な手間と部品が必要で極めて高コストだ。

 比べて、重力エンジンは損耗する部品が少なく、点検頻度は2千運転時間毎程度で、交換部品は1万運転時間に10点程度なのでメンテナンス費は極めて少ない。


 また、バトラの情報では通常の場合寿命は30年と言われているらしいので、これまた優れている。多分重力エンジン機の1機当りの維持管理費はジェット機の1/10以下、寿命は3倍以上であろう。


 私の会社である㈱RGエンジニアリングはテントを張って、重力エンジンの技術資料とエンジンの見本を見せて質問に応じている。俺は実のところそのような露出に反対だったのだが、防衛省、特に制服組から頼まれて仕方なく出したものだ。


 そのテントには、視察に来ている各国の武官、技官は、さらにマスコミも大勢きており、当番の5人のスタッフは説明に大忙しだ。試験飛行は予定通り終わり、所定の性能が発揮されたことが確認された。


 その後招待者の試乗が始まった段階で、米軍のエリアの奥深くで、関係者以外はシャットアウトして日米の合同の会議が開かれた。

 米軍の最高位は装備調達本部長のケリ―・コスガン中将に同格の空軍のNo.2になるマイク・シャラン中将、さらに横田基地司令のジョナサン・ドナー少将と補佐官が4名出席している。


 日本側は、自衛隊が鹿島航空幕僚長と黒木空将補、横田基地の佐川空将補、さらに加山2佐と書記役の女性3尉で、RGエンジニアリングからは俺と香山常務に書記役の松尾である。


 お互いの出席者の紹介、今日のテスト飛行の結果についてのやり取りの後に、米軍側からマイク・シャラン中将が本題を切りだした。

「では、そろそろ、自衛隊が尖閣沖で繰り出した魔法について説明して貰いたい」


 無論英語であるが、俺も含めて日本側の出席者に会話には問題ない。これに対しては俺が答えることになっている。

「ええ、あれは魔法と言うか意力の使い方の一つです」俺の最初の答えだ。

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