第28話

 幸生達はその後、特に問題もなく無事に地上へ戻ってこれた。

 その後、新人達3人をダンジョンハンター連盟職員に預け、状況報告も終わり、帰ろうとしていた頃、


 「あ、あの!」

 背後から幸生たちを呼ぶ声がした。


 振り返ると、幸生の腕を治した星宮が駆け寄ってきた。

 星宮春音ほしみやはるね、22歳と若く、肩まで伸びた印象的な栗色の髪がふわふわと揺れている。

 星宮は幼さの残る顔立ちをしているが、はたから見ればかなりの美人だ。


 「今日は、本当にありがとうございました!」

 幸生たちのもとへ駆け寄るなり、勢いよく頭を下げた。


 「いや、そんな。こちらこそありがとう」

 幸生は少し慌てた様子で、星宮につられて、頭を下げる。

 「それにしてもすごい能力だね」


 「いえ、そんな。それに私の能力も、ダンジョン外ではかすり傷を治せる程度で……なのであの時は正直、自信がなかったんですけど」

 星宮が照れたように頬をかいた。


 「また、どこかでお会いできたら嬉しいです」

 星宮はニコッと微笑むと、それでは、と言ってもう一度ぺこりと頭を下げ走り去って行った。


 走り去っていく星宮を見ながら、幸生は星宮のさっきの笑顔に、胸がキュンとなるのを感じていた。

 (か……可愛いな)


 となりにいる雫が、横目でじーっと幸生を見ている。


 「……焼き肉食べに行きますよ。先輩の奢りです」


 「なんでおれなんだよ!」




 ◇


 


 「今、日本ではダンジョン開発に対する反対派がいるのは知っているな?」

 荒川が、幸生が皿によそってあげた肉をもう一度網に置き、これでもかと言うほど焼き直している。


 幸生たちは、目黒ダンジョンの救出劇の後、雫の望み通り焼肉屋に来ていた。


 「まぁ、ニュースでも取り上げられていますから少しは。ダンジョン環境保護団体とかですよね」

 幸生がその肉を哀れむような目で見ながら言った。


 「奴らが反対している理由は?」


 「えーと……ダンジョンの環境を守るため……じゃないんですか?」


 「まぁ、初めはそうだったろうよ。崇高な理念を掲げていた団体もいたみたいだが。だが今は違う」


 「今じゃ活動を支援する企業からの寄付金を目当てに、世界各地でテロまがいのデモをしている奴らだ」

 荒川が吐き捨てるように言った。


 「でも、どこの企業がそんな団体を援助しているんですか」

 幸生が雫を横目に見ながらきいた。

 雫は石焼ビビンバをはふはふ言いながら食べている。


 「いいか、ダンジョンは資源の宝庫だ。かつて地上で覇権を握っていた資源メジャーの企業の中には、ダンジョン開発に出遅れた奴らもいたわけだ。今ではもういくつかの企業に独占されているからな。奴ら、地上資源に見向きもされなくなったら困るってわけさ」

 特に既得権益に長らく安穏と浸ってきた大企業なんかはそうだと荒川は続けた。

 急に現れた怪しげな資源なんてと、高を括っていたというわけだ。


 「なんですかそれ……」

 幸生は呆れて物が言えなかった。


 「つまり、反対派が渋谷ダンジョンの件を利用して、連盟やハンター事務所を目の敵にしているわけですね」

 雫が口をモゴモゴさせながら割り込んできた。


 「そういうことだ。そして、俺はそいつらが渋谷の事件に絡んでいると見ている。最悪の場合、件の覚醒者はそこの活動者かもしれん」


 荒川の言葉に、幸生と雫の表情が変わった。

 「証拠はあるんですか?」


 「ない。情報屋をあたってはいるが、正直まだまだ情報が足りん」


 「そうですか……これからどうしますかね……」


 「とりあえずは引き続き今回のような浅層での中層以深生物の目撃例を探ろう」

 それが唯一の手がかりだった。あの化け物が現れた時の現象が起きているダンジョンをしらみ潰しに調査するしかない。


 「それと、お前ら。2週間後にあるダンジョンハンターの5級試験を受けてこい」

 荒川は人差し指をびしっと幸生たちの方に向けながら言った。


 「ええ!? なんで今なんですか。この件が終わってからでも」


 「その調査に必要になるかもしれん。5級以上でないと入れないダンジョンもあるからな。今のうちに取っておいた方がいい」


 「それに、5級のライセンスを持っていればモテるぞ。報酬額も桁違いに上がるからな」


 「ぐっ……雫、受けるぞ!」

 幸生はあっさりと陥落した。


 「そんなだからモテないんですよ」

 雫はやれやれという顔をしながら承諾した。


 「よし、決まりだな。ま、無理せず頑張ってくれ」

 荒川は半分焦げた肉を食いながら他人事のように言った。

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