第18話
あれから2週間後、幸生は奥多摩にあるダンジョンに来ていた。
ここは既に踏破されたダンジョンで、資源も取りつくされていたため、あえて潜ろうとするハンターもほとんどいない。
退院の日、誰にも会いたくなかった幸生は、雫にも連絡をせず、人目をはばかるように病院を抜け出してきた。
入院中、あの日からも雫は、仕事の合間を縫って病院に来てくれた。
殻に閉じこもるように塞ぎ込んでいた幸生を、何かにつけて元気づけようと、いろいろと話しかけてくれたが、幸生は「ああ」とか「うん」とか、挙句の果てには無視さえした。
雫はそんな幸生を責めたりはしなかった。ただ黙って側にいてくれるだけだった。
しかし、その優しさが今の幸生には辛かった。
心の中で、なんて情けないんだと自責の念ばかりが募り、雫の顔を見ることさえできなかった。
だから、誰にも何も告げず、このダンジョンに来た。
誰にも会いたくない、かと言って家にも帰りたくない、自然と足が向いたのがこのダンジョンだった。
今でこそ落ち着いたが、あの日のことはニュースで連日報道されていた。3級ハンターだった志月雛乃が、未確認のダンジョン生物に殺されたことでネットでも話題となっていた。しかし、幸生が釘光たちに話した詳細な内容はなぜか伏せられ、ハンター連盟やハンタース事務所の会見では、目下調査中であると濁すだけで具体的な情報は発表されなかった。
そのせいか、世間では連盟や事務所に対する非難の声が上がり、ダンジョン環境保護活動者たちがここぞとばかりに息を巻き、ネットニュースのコメント欄には、事務所への誹謗中傷で溢れかえっていた。
幸生はそんなニュースやコメントを見るたびに、ぎゅっと心臓のあたりが締め付けられるように感じた。
「……さすがに、全然人がいないな」
ダンジョンゲートの周りは閑散としており、守衛は眠そうにあくびをしている。
幸生は、人気がないのを確認すると、奥多摩ダンジョンの中に入っていった。
入り口のじめじめとした洞窟を歩きながら、今更ながらに後悔していた。
どうしてあのとき、雫にあんな態度をとってしまったんだろう……。
病院を出てからここに来るまでにも、雫から何度も電話が来ていたが、一切出ずに、とうとうスマホの電源を切ってしまった。
本当は誰かに話を聞いてほしいのに、それなのに全く逆のことをしてしまう。
30歳にもなって何を意固地になっているのか。
いや、歳をとったからこそ、下手なプライドが邪魔をして引き返せなくなっているのか。
そんな幸生をさらに追い詰めるような事が起きた。
幸生は、資源が取り尽くされ、荒涼とした奥多摩ダンジョンをふらふらと歩いていた。
手持ち無沙汰だった幸生は、なんとなく念動力で小石を浮かせようとした。
しかし、小石は微動だにしない。
「……え?」
もう一度浮かせようと試してみると、今度は小石が砕け散ってしまった。
焦る幸生はその後、何度も何度も試したが一度もイメージ通りにいかない。
幸生は念動力をコントロールできなくなっていた。
「なんだよこれ……」
追い討ちをかけるかのようなその事実に、絶望的な気持ちになった幸生は、全身から力が抜けていくような感覚に襲われた。
能力のコントロールもできずに、これからどうやってハンターとして生きていくのか。
「……どうすりゃいいってんだよ」
途方に暮れた幸生は、半ば自暴自棄になり地上に戻ろうとはしなかった。
そして、ふらふらとダンジョンを彷徨うように歩き始めた。
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