第12話
それから1ヶ月後、幸生は品川ダンジョン6階層に来ていた。その幸生の腰には新しい武器が差されていた。
中澤や山根とあったあの日から、何回かの打ち合わせを重ねて出来上がったのがこの”念動力ブレード”だった。
携帯時は今のように柄の中に刀身部分を収めておくことができ、使用するときは念動力を使って刀身である、あの粘性鉱物を引き出す。真っ白な柄は30cm程で、太刀柄のように滑らかに反っている。仕上げに、これまた純白の絹糸のようなものが持ちやすいように巻き付けられている。
念動力を込めて柄から刀身を引き出すと、ヌルヌルと日本刀のような形の刀身が現れる。鈍く銀色の光を放つそれは、よく見ると微細に振動している。
(中澤さんによれば、刀身を俺の力で超振動させることができれば驚異的な切れ味を発揮できると言っていたな)
しかし今の幸生には刀身を今の形状に維持するので精一杯だった。
「けっこう難しいな」
形状を維持しておくには常時念動力を使用する必要があり、今の幸生には連続で10分くらいが限界だった。
「何はともあれ、性能を試してみよう」
幸生はそう言いながら、初めて6階層に足を踏み入れた。
6階層以下深層は新人ハンターは推奨されていていない。なぜなら5階層を境に生息する生物の危険度が上がるからだ。
幸生は今、その階層にいる。
幸生は周囲を警戒しつつ、慎重に歩を進める。
原生林が鬱蒼としげるフィールドが広がっていた。5階層よりもその密が濃い気がする。熱帯雨林のようで、湿度が高く、じめじめとしている。それに生物の気配が多く感じる。
気を引き締めながら進んでいると、急に背後でガサガサと草木が揺れる音がした。
幸生は驚いて振り返ると――そこにいたのはどう見てもカマキリのような生物だった。しかし……サイズが地上にいるそれと似て非なるものであった。おそらく体調2mはあるだろう。バカでかい両手の鎌をもたげ、幸生を睨みつけている。その化け物カマキリが少し上体を屈め、その後ろ脚に力が入る。
(やばい! くるっ!)
そう思った瞬間にはもう目の前まで迫っていた。
幸生は咄嗟に左手をその化け物に向け、念動力で動きを止める。
「ギギッ!?」
(くっ……! 力が、強い……)
(拘束している力を無理やり引き剥がされそうだ。早くとどめを刺したほうがいい)
幸生はその化け物カマキリを拘束している力をとかないよう、慎重に腰に手をやり、念動力ブレードを抜いた。
幸生はブレードを持った右手を振り上げると、そのまま思い切り化け物カマキリの脳天に叩きつけるように斬りつけた。
ズパッという音とともに、胴体から切り離された頭部は地面へと落ち、首からは緑の体液が噴き出している。
「――っつ!?」
(……なんだこの切れ味)
幸生は念動力ブレードの切れ味に驚きながらも、自分で思っていたよりあっさり倒せたことに安堵した。
その後も、幸生は襲ってくる凶悪な獣たちを次々と倒していった。
その中で一番苦戦したのは4階の大きな牙と爪を持った猿型の獣だった。
体長1メートル程の猿だが、身のこなしが素早く、攻撃もなかなか鋭いものだった。そして何よりも群れで襲いかかって来るため非常に戦いづらかった。しかしその中で同時に複数の相手の動きを止めることに成功した。
(俺……結構やれてるんじゃないか……?)
それは幸生の自惚ではなかった。客観的にみても新人のハンターが1ヶ月足らずで、しかもソロで浅層と言っても攻略していくのは非常に困難であった。しかし、幸生はある程度の余裕を持って攻略できていた。
念動力を使いこなせてきていることだけが理由ではなかった。
覚醒者となったことにより向上していた身体能力が、浅層とはいえほぼ毎日ダンジョンに潜っていたことにより、より一層、飛躍的に向上していてたのだ。
また新しく手に入れたこの念動力ブレード。幸生の
最初は少し手こずっていたが、だんだんと違和感なく使うことができるようになった。
「強くなってるよな、俺……」
幸生はその新しい武器を握りしめた右手を眺めながら、成長を実感していた。
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