第11話

 その後の1週間、幸生はダンジョンに潜り続けた。依頼は基本的に簡単な浅層での採取依頼のみにした。幸生は今の自分に深層に潜るほどの技量、装備が伴っていないと思ったからだ。


 ゲート付近で見かけるおそらく上位だろうハンターたちは皆雰囲気からして違う。歴戦の猛者のような雰囲気が漂っている。まだ駆け出しの幸生では相手にもならないだろう。


 また、ダンジョン内でモンスターを狩るより、比較的安全な薬草や鉱石などの採取でも充分な稼ぎになることも理由のひとつだった。


 そうこうしている内に、約束通り1週間後に例の物体に関する件でハンター連盟から電話がかかってきた。


 『品川ダンジョン職員の松浦と申します。実は今回の調査結果についてなんですが、研究所職員が直接お会いしてお話ししたい申しておりまして。日本ダンジョンハンター連盟本部へお越しいただくことは可能でしょうか』


 「え?直接ですか?」

 さすがに直接会うというのは予想外だったため、幸生は驚いた。メールか何かで届くものだと思っていた。


 『はい、そのように言付かっております。もしよろしければ早速明日にでもと』


 「あ、はい大丈夫です」

 特に予定もなかった幸生は、その研究所の職員と翌日会うことになった。


 

 ◇


 

 翌日、指定された時間に幸生はハンター連盟本部の建物に来ていた。

 受付の女性に案内され、応接室らしき部屋に通された。しばらくすると、ドアがノックされ、2人の中年の男性が入ってきた。


 「初めまして。私はダンジョン研究所の研究員で、今回の件を担当させていただきました山根といいます」

 細い体と、頬がげっそりと痩せこけ、大丈夫かと心配になる見た目の男だ。


 「私は東国精機工業の中澤と申します。今日はよろしくお願いします」

 もう1人の体格のいい、いかにも営業マンといった風貌の男が挨拶をした。


 「こ、こちらこそよろしくお願いします」

 (東国精機工業と言ったら日本のハンター向け製品の超大手メーカーじゃないか!)


 「早速なのですが、例の窪田さんが発見されたものは新種の鉱物であると結論づけました」

 挨拶もそこそこに山根が切り出した。


 「し、新種ですか。しかも鉱石なんですか? このドゥルドゥルしたのが?」


 「ええ、このドゥルドゥルしたのが、です。極度に融点の低い、粘性の高い鉱物のようなものです。まぁ、ダンジョンでの新種の発見はそこまで珍しいことでもありません。何せ私どもの研究所には毎日、毎日、次から次に、よく分からないものが運ばれてきますからね」

 山根がうんざりしたようにいった。


 「それでですね、たまたまこの謎の鉱物が発見されたことを耳にしまして、是非弊社の方で窪田さんにあった製品の試作を担当させていただけないかと思いまして」

 中澤が身を乗り出しながら言ってきた。

 「もちろん費用は全額、うちが負担させていただきますので」


 「ええっ! いいんですか? 私みたいな無名の新人ハンターなんかのために」

 幸生は突然の申し出に驚きながら言った。


 「もちろんです! なんたって日本で2人目の、そして今では唯一の念動力者ですから。もちろん使用感などのレヴューはいただきたいのですが」

 中澤が興奮気味に言った。


 「え……なぜ私が念動力者だと知っているんですか?」


 「ライセンス登録されたハンターの情報は全てハンターシップサイトで確認できるんですよ」


 (そうだった。忘れていた……)

 幸生はライセンス登録する際にハンターシップで個人情報を晒していたことを思い出した。


 「まぁ、唾つけられてるってことですよ。こいつらは金になりそうなハンターを見つけるとすぐに飛びつくんです」

 山根が中澤を親指でさしながら、呆れたように言った。

 

 「失礼な奴だな。すみませんね、こいつとは大学院の研究室が一緒で」

 中澤は苦笑いを浮かべて謝った。


 「それにしても窪田さんはまだ、どこのハンター事務所からもスカウトされてないんで?」

 中澤が急に顔を近づけて聞いてきた。


 「は、はい……」

 幸生は思わず上体をそらして答えた。


 「それは勿体無いなぁ。ただ、おそらくもう注目している事務所もあると思いますよ。なぁ? 山根」


 「知らんよ、俺は。そっち方面には興味ないんでね」


 「またお前はそんなこと言って。大体な、お前が研究している貴重な――」

 と言い争いを始めた2人の様子を幸生は黙って小一時間見続けることになった。

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