第10話
次の日、幸生はダンジョンに行くため興奮していたからか、はたまた社畜時代の習慣が抜けないのか、朝6時に目が覚めた。いつものようにシャワーを浴びて、歯を磨き、顔を洗ってさっぱりすると、朝食の準備を始めた。
と言っても、昨日の夕食の残りと冷凍食品で済ませるのだが……。
なんとなくテレビをつけ、ニュースのチャンネルに切り替えると、なんと昨日行った渋谷ダンジョンがニュースになっていた。
『昨日、日本大手ハンター事務所のハンタースが、渋谷ダンジョンにて浅階層にいるはずのない、凶暴なダンジョン生物が1階層で発見されたことを発表しました。原因は不明ですが、ハンターの皆様は充分にお気をつけください』
(昨日のオドルハイエナのことか……やっぱり原因は分からなかったのか)
中層から深層に潜る慣れたハンターたちであれば難なく対処できるだろうが、幸生のような新人ハンターにとっては危険なことに違いない。
(この前は1匹だったからなんとか殺せたが……これからも慎重に行こう)
ダンジョンハンターは体が資本、怪我をしては潜れず稼ぎがなくなるし、そもそも死んでしまっては元も子もない。
そう思いながらテレビを見ていると、突然画面が変わった。
どうやら速報が入ったらしい。
『たった今、日本ダンジョンハンター連盟から緊急発表がありました。その内容は、長野県軽井沢町にて新たなダンジョンが発見されたとのことです。新たに発見されたダンジョンについては日本ダンジョンハンター連盟のみが立ち入りを許可することとなります。尚、許可された者は連盟が発行する、特別許可証を所持しなければなりません』
日本において新たにダンジョンが発見された場合は、その未知数さから、ある程度攻略され、その危険度などが判明するまでは新人ハンターたちの無謀な入場を制限するため、許可制にしていた。
(いつか俺も発見されたばかりのダンジョンの攻略部隊に選ばれたりしてみたいな)
そんなことを考えながら、朝食を終え支度をして家を出た。
◇
幸生は品川ダンジョンに来ていた。ここにはまだ最下層まで到達できていないダンジョンで、ハンタース事務所のチームが最近未踏の47階層まで到達し、まだ深層があることを発見したとして世間を賑わせていた。
そのせいか、最下層まで攻略されている渋谷ダンジョンより、人で賑わっていた。ゲートの近くにはハンター向けの売店や素材の換金所、武器ショップなどが立ち並んでいる。
(ほえ〜、賑わってるなあ)
ゲートの守衛にライセンスを提示して、ゲート内へと入っていく。
ゴツゴツとした岩が転がっており、足場が悪い。洞窟を抜けるとそこには原生林が生い茂っていた。
「これは……すごいな」思わず声に出してしまうほどだった。
地上では見られないような色とりどりの花や木の実があり、自然と心が躍る。
幸生は新鮮な景色を楽しみながら、1時間ほどであっさりと3階層まで辿り着いた。
スマートフォンを取り出すと連盟の公式アプリを立ち上げ、マップを開いた。マップには最近攻略された47階層までのかくフロアの結構詳細なマップが載っていた。今回依頼を受けた鉱石は3階層と4階層の間にある洞窟で採れるらしいのだが――。
「えーっと……これか」
マップ上に目的の場所はすぐに見つかった。幸生はたくましく生い茂る草木を掻き分けながら下層へ続く道を探しながら歩いて行った。
「あった……!」
下層への入り口を見つけたのは、それからしばらく経ってからだった。
その洞窟は、高さが2メートルほどの穴で、入り口には枯れた蔓や枝などが散乱していた。
だが幸いなことに、中はそれほど暗くない。おそらく、この穴自体が発光しているか、あるいは外から入ってくる光のおかげだろう。入り口付近に生えている植物も、よく見ると光っているようだった。
「これなら、作業しやすそうだ」幸生はほっとして言った。それに浅層だからかこれまで危険な生物とは遭遇していない。しかし、油断はできない。何しろここは未知の領域なのだ。いつ、どんな危険に遭遇するかもわからない。
そこは鍾乳洞のようなジメジメした洞窟だった。幸生は念の為手持ちの懐中電灯も照らしながら進んでいくと、目の端にチカっと懐中電灯の光に反射するものが見えた。近づいてみると虹色の鉱石だった。依頼の写真と類似している。おそらくこの鉱石だろう。
幸生はレンタルしたハンマーで鉱石を思いっきり叩くと、意外にすぐ砕けた。砕けた鉱石を次々に背負っていたバックパックに放り込んでいく。
(なんか楽しいな。しかもこれがお金に変わるってんだからな)
その後も小一時間ほど採掘を続けた。
「ふうっ、こんなもんか。依頼のあった量は既に超えているはずだ。んっ!?」
目の端に急に地面を這うように動くものが懐中電灯の光に反射したのだ。
恐る恐る懐中電灯を向けると何やらグネグネとうごめく銀色の何かがみえた。
「なんだあれ……」
溶けた鉛のような光沢を放つそれは、まるでそれ自体が意志を持つ生物のように動いている。
幸生は念動力でその物体に干渉してみた。特に抵抗もなくその物体はフワフワと浮かんでいる。幸生は持ってきていたプラスチックの箱にその物体を入れてみた。めちゃくちゃ重たい。
「なんだこれ……まさかスライム……じゃないよな?」
幸生はこの物体について調べたかったこともあり、一旦地上へ戻ることにした。
幸生は依頼達成報告と、鉱石を提出するために換金所へ向かった。
「すみません、依頼の鉱石を提出したいんですが」
「はい、こちらですね……はい、依頼数を超えておりますので依頼達成となります。今回の報酬についてはこちらの明細に記載しております。本日中には窪田様のハンター銀行口座へ送金完了しているかと思います」
「ありがとうございます。あと……ちなみにこんなもの拾ったんですが、これってなんでしょう」
幸生はバックパックから先の不思議な物体を入れた透明の箱を取り出すとその女性職員に見せた。
「これは……見たことがないですね。少々お待ちください。調べてみます」
受付の女性職員がカタカタとパソコンで調べ始めたが、すぐにうーんと唸り、首を傾げている。
「何か、おかしなことでも?」
「いえ……あのハンターネットで調べてみたんですが、類似するものが検索に引っかからないんですよね。私もみたことありませんし」
「ええっ! じゃあ新種の物体ってことですか……?」
「そうかもしれません……もしよろしければ研究所に送って調査してもらいますか?」
「絶対に調べてもらわないといけないわけではないんですか?」
「ええ、ダンジョン内で見つけたものはその発見者に所有権がありますので。ですが、送ったとしても個人で所持するのが相当危険なものだったりしない限り返却されますのでご安心ください。あと今でも新種のものが続々と発見され続けてますので、特に珍しいことではございません」
「そうなんだ……では研究所で調べてもらえますか?」
もし危険なものだったら、と考えて怖くなった幸生は研究所で調べてもらうことにした。
「承知しました。結果についてはおそらく1週間程度でご連絡せさていただきますので」
「わかりました。ありがとうございます」
受付の女性職員と別れると幸生は自宅に戻った。
「はぁ、疲れた……」
自宅に着くなり幸生は部屋のベットに倒れこんだ。
特に危険な目には合わなかったが、初めてのソロダンジョンということもあり、ずっと気を張り詰めていたのだ。
自宅に着くとドッと安心感と共に疲労感が押し寄せてきた。しかし、それは社畜時代に感じていたそれとは違い、心地よい疲労感だった。
それに――
今日だけでも結構な額を稼ぐことができた。
あの後、渡された明細を見たがたった1回の依頼の報酬が12万円だった。
(毎日潜っていたら結構な額稼げそうだな)
そう思いながら幸生はそのまま眠りについた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます