第51話 運動という口実

本日の授業も無事終了。


クラスメイト達を上手いことまいてから、わざわざ待っててくれた水瀬さんに追いつくと一緒に帰路に着く。


自然な感じに合流して、一緒に帰れる空気を作れたので、水瀬さんも一緒に帰ることを考えていてくれたのだと思うと凄く嬉しくなるのだから我ながらかなりゲンキンな性格をしてると思う。


「蒼井くんは足が速いんですね」


今日の授業の話の流れで、そんな事を言う水瀬さん。


体育の時に見られていたのだろうけど、俺がちょくちょく送っていた視線には気づいてないようで少しホッとする。


変に思われるのもあれだしね。


「まあ、そこそこ運動はしてるからね」

「凄いですね……私は運動は凄く苦手なので、羨ましいです」


予想はしてたけど、あの女の子走りの萌え要素の塊は水瀬さんの全力だったらしい。


本当に運動が苦手なのか、その言葉には確かな気持ちが篭っていた。


「運動会でも、体育祭でもクラスの足を引っ張ってしまうので、もう少し上手くできるようにしたいんですけど、なかなか上手くいかないです」


どこか悲しそうにそんな事を言う水瀬さん。


そういえば、似たような悩みを持っていたクラスメイトに心当たりがあるなぁと思いながらも、彼ら彼女らと違って、『皆の前で出来ないのが恥ずかしい』という気持ちよりも、『皆の足を引っ張って申し訳ない』という気持ちが強めに感じるのだから、この子は根っからの優しい子なのだろうと更に俺は水瀬さんのことを意識する。


「そっか。なら、一緒に頑張って克服してこうか。ある程度なら俺も運動経験あるし、教えるのも慣れてるから、よければ付き合うよ。時間もあるしね」

「いいんですか?」


むしろこちらから願いたいくらいです。


そんな事を思いながらも、それを悟らせないように柔和に微笑むことは忘れないが……にしても、水瀬さん相手だと本当に自然と心からの笑みを引き出せるのだから不思議な女の子だとしみじみ思う。


「勿論。まあ、それでもダメなら……」

「だ、ダメなら……?」

「上手いこと俺が水瀬さんをフォローするから、信じて頼ってよ」


女子しか出られない種目とかは直接のフォローは難しいけど、チームメイトの女子たちに根回しする程度は雑作ないだろう。


「……本当に、蒼井くんは優しい人ですね」


俺が引かないことも分かるのか、そうして微笑む水瀬さんだけど、満更でもなさそうなのでそこは少し安心する。


今のところ、水瀬さんからの心象は悪くないだろうしもっともっと距離をゆっくりと縮めていって……俺のことを意識して貰えるように頑張ろう。


そんな下心満載な俺だったが、水瀬さんを助けたい気持ち、支えたい気持ちは本物なので自分でも少し驚くくらいに真っ直ぐに水瀬さんを想ってるので、これが本気の恋なのだろうと少し驚きつつもそれを楽しむように俺はその気持ちを胸に秘めて水瀬さんと楽しく帰宅するのであった。



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