第45話 お隣さん
「あー、この席いいなー」
ぼそりと後ろでそんな声がする。
水瀬さんの隣の席に浮かれていた俺だけど、後ろの席は岡田になったようで、俺の体に隠れるように廊下側に身を寄せてだらけていた。
「春斗がいい塩梅に壁になってくれそうで助かる」
「いや、教壇からは丸見えだぞ?」
恐らく、このクラスで最も背が高い(と思われる)俺の後ろの席とはいえ、教室の一番前のドア側の席だと、教壇からはさぞ見事に岡田が寝てる姿が見えることは明白なのだが、奴としては俺の後ろの席に何かしらのメリットを感じてるのかもしれない。
「岡田くん、自習の時間なので寝ないで勉強してください」
「へいへーい」
ダラける岡田に注意をしてから、早速数学の予習をする水瀬さん。
俺も勉強は嫌いではないので自習に望むが、隣の席の水瀬さんにバレないようにちょくちょく視線を向けてしまうのは仕方ないと思う。
その水瀬さんは、比較的真剣に数学の教科書を見て、問題を解いているけど、いまいち進みが遅い。
そういえば、理数系が苦手と言っていたなぁと、思いながら少し手助けしようか迷ってから、今は止めておこうと断腸の思いでそれを見送る。
せっかく隣になったのだし、手助けはしたいけど、頑張ってる水瀬さんに横槍を入れるのも何だし、それにクラスの大半がここぞとばかりに水瀬さんに気づかれないようにお喋りしたり、だらけたりする中で、一人頑張ってる水瀬さんを見ながら進める勉強も中々悪くなかったからだ。
「あっ……」
そんな風に水瀬さんによって俺の自習が捗っていると、不意に水瀬さんが消しゴムを落としてしまう。
転がってきた消しゴムが俺の方へと落ちるので、拾ってから俺は水瀬さんに優しく手渡す。
「はい、落ちたよ」
「あ、ありがとうございます……あっ……」
受け取った瞬間に手と手が僅かに触れて、少し顔を赤くしてしまう水瀬さん。
そんな可愛い様子に微笑みつつも、俺も手と手が触れたことに内心少しドキドキしたのだが……まさか手と手が触れただけでときめくような初さが俺にあったとは思わなかったので少し驚く。
水瀬さんだからかな?本気で好きな人に触れるのは心底幸せな気持ちになれるし、スキンシップが一日でも早く出来る間柄になりたいものだ。
そんな感じで、一時間目の自習は過ぎていくが、水瀬さんの近くでバレないように堂々と寝ている後ろの席の岡田の存在はある意味凄いと思った。
まあ、結局バレて、ついでに私語をしていた生徒も一緒に水瀬さんに叱られていたのだが、担任の山本先生よりもしっかりと生徒を注意してる点については、真面目な水瀬さんらしくて俺はかなり好きだった。
山本先生はある程度なら許容するだろうから、水瀬さんくらいの多少の厳しさは必要だろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます