第36話 理想の姿は

水瀬さんを愛でつつ、ゆっくりとメニューを選ぶ。


そうしてちょっと時間をかかったけど、俺はホットドッグとコーヒーを、水瀬さんはパンケーキと紅茶を選んでいた。


「水瀬さん、紅茶好きなの?」

「そうですね、割とよく飲みます」


母親が好きなので、家でも飲んでるうちに自分でも淹れられるくらきには上手くなったらしい。


凄いな、そこまで出来るのは。


「そっか、確かに水瀬さんが紅茶を飲む姿は絵になりそうだね」

「そ、そんな事はないと思いますけど……あ、あの、蒼井くんはコーヒー飲めるんですね」


照れつつも、何とかそうやって話を逸らす……いや、気になったことを聞いてくる水瀬さん。


「まあね、俺も飲む機会が多かったから、自然と慣れて美味しく飲めるようになったのかもね」


そうは言いつつも、割と早くからコーヒーが美味しいと思っていたのだが、流石にそれは強がりのようにも聞こえるし、自然な回答にしておく。


「凄いですね、私はコーヒーはお砂糖とミルクがないと飲めないので羨ましいです」

「最初は皆そんなものだよ。でも、砂糖とかミルクを入れて少し甘くしたコーヒーも良いよね」

「ほんのりとした甘さと苦さのバランスは良いですよね」


こうして、水瀬さんと話していると、いつもの取り繕った自分がほとんど出てこないから不思議だ。


比較的素に近い自分で話せているし、これこそ気が合うというのかもしれない。


「あ、蒼井くん、凄いですよ」

「ホントだね」


ふと、水瀬さんの視線の先を追うと、豆からコーヒーを挽いているマスターの姿が。


そんな俺たちにニヒルな笑みを向けつつ、迷いのない仕事をするマスターは確かに渋くてカッコイイ大人の男という感じだ。


「俺もああいう歳の重ね方をしたいものだよ」

「私は今の蒼井くんが良いと思いますけど……」

「ん?」

「あ……」


思わず言葉が出てしまったのか、慌てたように動揺する水瀬さん。


水瀬さんとしては、今の俺をそこそこ気に入ってくれてるのだろうか?


お世辞にしてはこの慌てようは演技には見えないし、水瀬さんの場合本音と考えるのが自然かな。


にしても、嬉しいことを言ってくれるなぁ。


「そっか。ありがとう、水瀬さん」

「あ、いや、あの……はぅ……」


否定することも出来ずに、しどろもどろになってから更に顔を赤くして視線を逸らしてしまう水瀬さん。


そんな可愛い水瀬さんを見ながら、心地よい静かな空間を楽しむ。


水瀬さんとなら、こういう落ち着いたお店で雰囲気を、楽しむのも良いよね。


そう自然に思えるのだから、水瀬さんはやはり凄いな。












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