第35話 喫茶店
人通りの少し少ない、わりかし地味な立地にある喫茶店。
中学の友人の中に、そういう隠れた名店を探すのが趣味の人がおり、話には聞いていたそこに俺たちは来ていた。
店内も比較的落ち着いた感じで、現在は俺たち以外に人も居ないので、意図せず貸し切り状態になれたのは有難い。
「なんだか大人な雰囲気のお店ですね」
「落ち着いてるし確かに良いお店だね」
そんな俺たちの会話に渋いこの店のマスターが微笑を浮かべる。
凄いな、ここまでTheマスターみたいな見た目の渋い人がやってる喫茶店があったとは……たまには交友関係を手広く持つことに意味を見いだせるよ。
「さて、何を頼もうか」
「色々ありますね」
メニューもシンプルながら良い趣味をしており、更に感心しながら二人で何を頼もうか考える。
「そういえば、水瀬さんは苦手な食べ物とかってあるの?」
メニューを見ながら、何となく尋ねると、水瀬さんは少し考えてから恥ずかしそうに答えた。
「辛いものが少し苦手かもしれません。カレーも甘口じゃないと少し厳しくて……子供っぽいですよね」
「そんな事ないよ。食べ物の好みは人それぞれだからね」
俺の場合は辛いものでも普通に食べられるけど、どちらかと言えばそこまで好きな訳でもないので、その辺はあいそうで嬉しくもなる。
「蒼井くんは優しいですね」
「そんな事ないと思うよ。普通だよ」
「いえ、優しいですよ。出会ってからそうでしたけど……中学の時に、林間学校で甘口のカレーを作ったら男子にからかわれたので、高校ではこの事は話せないと思ってました」
あー、なるほどなぁ……まあ、男子なんてアホなのが多いから仕方ないけど、にしても食べ物一つで大人っぽくなれると思う思考は相変わらずよく分からない。
俺の場合も、コーヒーをブラックで普通に飲んだだけで「大人っぽい!」とか大はしゃぎしてた友達が居たけど、正直あんまり共感は出来なかったなぁ。
大人っぽさは人生経験の積み重ねで出るものだと俺は思ってるので、一応話はあわせるけど、心の中ではあまり同調できてない部分が多かったのだが、まあ、その辺は大人に憧れる子供ということで微笑ましく見守るのが吉なのかもしれない。
「そっか、俺はそういうのは気にしないし、水瀬さんの事もっと知りたいかな」
そう微笑むと、水瀬さんは少し顔を赤くしてから、メニューで顔を隠してしまう。
きっと、読めてないであろうそれを見ながら俺ものんびりと何を頼もうか考えつつ水瀬さんの観察を続けるけど……にしても、本当に水瀬さんを見てると心から楽しく思えるから不思議だ。
心から水瀬さんに興味があるのと、好きな人の一挙手一投が気になる気持ちもあるのかもしれないけど、見てて幸せになるのでもっと水瀬さんを知らないとな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます