第34話 カラオケの後は
水瀬さんに惚れ直したことを自覚してから、更に水瀬さんとカラオケを楽しむことしばらく。
お昼をそこそこ過ぎたくらいに、俺たちは会計を済ませてお店を出ていた。
「お昼過ぎてるね」
「凄く楽しかったので、忘れてました」
「俺もだよ」
思わず二人で笑い合う。
「水瀬さん、まだ時間ある?」
「えっと、大丈夫ですけど……」
「じゃあ、お昼食べてからもう少しだけ遊んで行かない?」
「いいんですか?」
「うん、もっと色々水瀬さんと周りたいなぁって思ってさ」
思い切ったその誘いに、水瀬さんは嬉しそうにパァと表情を明るくしてから、慌ててクールな表情を作ろうとする。
……でも、隠しきれない嬉しさが滲み出るクールさは、さながらポンコツクール系と言えばいいのかな?
嫌な意味ではなく、愛嬌というか可愛さのあるそれが俺に新しい世界を見せてくれそうだけど、ひとまずそれらを抑えて微笑む。
「良かった。じゃあ、どこかでお昼を……」
そう言ったところで、少し言葉を切ってしまう。
先程のカラオケ店のフリータイムが変な時間帯の設定だったので、昼時をすぎておやつが近いかもしれないくらいなので普通にお昼を食べるかは少し迷う。
「あ、でも夕飯にも響くから軽食の方がいいかな?」
「そうですね。私も少しで大丈夫ですので」
「じゃあ、喫茶店でも行こうか。前に友人に聞いたオススメのお店があるらしいし」
「分かりました」
すんなりと頷いてくれる水瀬さん。
すぐに頷いてくれるのは嬉しいけど……俺以外にそんなに簡単に頷いちゃダメよ?と、遠回しに言おうか迷ってから、軽くにおわせる程度にしておくことにする。
そういうのはもっと仲良くなってからの方が効果はあるし、ここで俺の独占欲丸出しな言葉は引かれる可能性もあるので、自重したのだけど、ニコニコしながら隣を歩く水瀬さんを見てると、その自重もいつまで持つか少し不安にもなる。
我ながら、かなり重い愛を水瀬さんには向けるかもなぁ……なにせ、普段は人に拘ることなんて全くないので、俺は多分、家族以外で初めて執着しているのだろうと冷静に分析もしてみる。
重い男、面倒くさい男はモテないだろうけど、水瀬さんに受け入れられるなら何でもいいかもしれない。
「水瀬さん」
「何ですか?」
「……いや、カラオケどうだった?」
「凄く楽しかったです」
「なら、また来ようか」
心から嬉しそうな水瀬さんの笑みに思わず俺も笑みを浮かべてしまう。
何にしても、人生で初めてかもしれないな。
カラオケが楽しかったのは。
それだけでも大きな収穫だけど……まだまだ今日は時間あるのだし、水瀬さんをもっと知ろうとゆっくりとした心地よい水瀬さんの歩幅で喫茶店へと二人で向かうのであった。
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