第33話 思い出の曲

「ど、どうでしたか?」


歌い終わって、上目遣いに尋ねてくる水瀬さん。


その様子だけで1億点ですと即答しそうになるけど、何とか堪えて笑みを浮かべて頷く。


「うん、良かったよ。水瀬さんも歌上手いね」

「あ、ありがとうございます……えへへ……」


褒めちぎってダメにしたいような可愛さもある水瀬さんに微笑みつつ、結局俺も水瀬さんの歌に夢中で曲を選べてなかったので端末を手に取って次の曲を選ぶ。


そうして、お互いにお互いの曲の間に次の曲が選べないので、普通に考えて非効率的な時間の使い方をしているのだけど、不思議とお互いそれが悪くなくて、今までで一番楽しいカラオケを俺は満喫する。


そして――水瀬さんが選んだある曲で俺は一瞬固まってしまう。


それは、昔何度も聞かされた女の子向けアニメのオープニング。


比較的すぐに打ち切られたほどに人気がなく、ほとんどの人が忘れてしまっていそうなその曲は……


『ほら、お兄ちゃん、歌上手いんだから歌えるようにもっと聞いてよ!』


脳内に浮かぶ妹の姿。


あの時、もっとちゃんと聞いてあげてても良かったのになぁ……そんな後悔と息苦しさを感じていると、水瀬さんが言った。


「なんだか、昔からこの曲を聞くと凄く前向きになれる気がするんです」


『この歌はね、凄く明るくて前向きになれるんだよ』


……重なったのは一瞬だけど、まさか似たような感想を彼女が持っていたとは。


「そうだね、俺も――好きだよ、この曲」


ずっと、妹が亡くなってから聞かなくなっていたそのメロディーは意外と覚えていたようで脳内にくっきりと歌詞が浮かぶほどであった。


そして――何よりも、歌う水瀬さんが俺にはめちゃくちゃエモく感じられた。


過去の古傷にさえ感じられていたのに、水瀬さんが歌った瞬間、あの頃の純粋な気持ちが蘇ってくる。


妹の笑顔も、言葉も、全てが俺には重い重いドロドロした気持ちに蓋をするために無意識に目を逸らしていたそれを、すくい上げるような水瀬さんの歌声は、まるで俺を無意識に救おうとでもするような優しさに満ちていた。


無論、水瀬さんは俺の過去なんて知れないだろうし、そんなつもりはないのだろうとは分かっている。


ただ……水瀬さんの優しさに満ちた歌声で、少しだけ前を向く力を貰えたのは確かだった。


きっと、これこそが『人を動かす音楽』というものなのだろう。


(はぁ……これはもう、確定的かもなぁ……)


これまでも自覚はしていたけど、水瀬さんに惹かれる気持ちに確信が持てたのは恐らくこの時。


前から気になっていたし、今更感があるけど……無意識にでも、心の闇を溶かすようなそれこそが、俺が求めてやまなかった『愛』なのだろうと、柄でもないことも思うのだが、何にしても水瀬さんが凄く好きで、もっと仲良くなりたいと思ったのは言うまでもないだろう。











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