第16話 自然な意思疎通

岡田が比較的早く来たのは予想外だったけど、早めに来る物好きはそこまで多くないもので、時間ギリギリか少し余裕のあるくらいに来るクラスメイトが多い印象ではあった。


そして、初日の岡田の時のように、早速着崩してくる生徒も居るわけで……


「立川さん!そのスカート丈は校則違反です!」

「えー、いいじゃんこれくらい。お堅いねー」

「ダメです!」


本日も朝から水瀬さんはそれを正そうと声を上げるので、俺がさり気なくサポートをしているけど、男子はともかく女子は俺が直す訳にもいかないので少し工夫が必要だ。


「あれ?立川さん、スカートに糸くずいついてるよ」

「え?どこどこ?」

「後ろの方。水瀬さん、取ってあげたらどうかな?」


相手によっては通用しない手口なので、人によって使い分けるけど、目の前の立川さんは鈍い部分があるように思えるのでそう言って、水瀬さんにスカート丈を直す大義名分を作っておく。


その俺の意図に気が付き、水瀬さんは嬉しそうな表情を浮かべてから、すぐに何とか戻して立川さんのスカート丈をいじる。


そして、その間立川さんの意識がそちらに向かないよう俺がトークで場を繋ぐのも忘れない。


そうしてトークをしているうちに、水瀬さんが直し終わったようでこちらに視線を向けてくるので、こっそりウインクして返すと顔を赤くさせてしまった。


幸い、クラスメイト達はその水瀬さんの様子に気がついてないようだけど……まさかただのウインクにそんな反応されるとは予想外でかなり驚いてしまう。


別に俺のウインクの需要がある訳では無いけど、そこそこ様にはなっていると評されたことはあったのだが、こうまでストレートに反応されたのは初めてと言えた。


その様子がまた俺の興味を水瀬さんに向けさせることになっていたが、この子は出会って数日でどれだけ俺を夢中にさせようというのだろうか?


「おーい、席につけー」


そうして、水瀬さんとのコンビネーションを誰にも気付かれずにしれっと発揮していると、いつの間に朝のホームルームの時間になったようで、山本先生がのんびりと教室に入ってくる。


それを見て、クラスメイト達は各々席に戻ったりするけど、最後に水瀬さんにもう一度ウインクするとまた可愛い反応が返ってきてついつい楽しくて止められなくなりそうになるけど、何とか踏ん張った。


あれだね、水瀬さんには中毒性があるのかもしれない。


こんな事、今までなかったしそうとしか思えないような魅力だよ。


そうして朝のホームルームの前にまた癒しを貰いつつ、この後も頑張ろうと俺は密かに思うのであった。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る