第14話 ちょっとしたアドバイス
「でも、皆には正しいことは窮屈なんでしょうね」
安堵したような笑みを浮かべてから、更に心を開くようにそんな事を言う水瀬さん。
「正しくあろうとすると、皆から弾かれやすくなります」
何も間違ったことは言ってないのにそうなる事に、水瀬さんとしても思うところがあるのかもしれない。
あまりそれを口に出すような娘じゃないだろうし、俺だから話してくれてるレベルだったら、嬉しい限りだ。
とはいえ、水瀬さんの悲しげな顔は……あまり見たいとは思わなかった。
笑顔の方が似合ってると思うしね。
「まあね。正しいって簡単じゃないから」
一見、なんて事ないようなことでも、人によっては大変だったりするし、個性というものを考えるとどうしても人によってその辺の境界線は変わってくる。
人を作るのは周囲の環境と人……とか、誰かが言ってたかな?
ルールを守る人がいれば、それを煩わしく思う人もいる。
それ自体はどうしようもないし、楽な方へと大半の人が流れたくなるのも仕方ないことでもあった。
「水瀬さんは正しい。それは誰がなんと言うおうと俺が保証するよ」
「蒼井くん……」
うるっとした瞳を向けてくる水瀬さん。
そんな彼女に俺はだからこそ、必要なことを言うことにする。
「だから、そんな水瀬さんの正しさを皆に分かりやすく伝えるのが俺の役目かもね」
「分かりやすく……?」
「うん。水瀬さんが正しくありたいのを、皆は上手く理解出来てないんだよ」
例えば、辛党と甘党の二人が居たとする。
辛いものと甘いもの、どちらが至高かを議論する上で、両者に理解がないとそれぞれに魅力は伝わらない。
相互理解、コミュニケーション……色んな言い方はあるけど、水瀬さんは人に伝える時にそれを上手く言うのが難しい。
全て正論だし、正しいのだけど、逃げ場のないそれを理解できないと処理する生徒が多いのだろうと短い付き合いの俺でも分かった。
正しいからこそ、それを守れない側が気持ちを理解出来なくなっているという矛盾。
上手くクラスメイトと話せない水瀬さんに必要なのは、その繋がりとそこに入るクッションだろう。
つまりは俺だ。
「水瀬さんはそのままで大丈夫だよ。俺がそれを皆に上手く伝えるから。だから、水瀬さんは自分の信じる道を進んでよ。これからは俺が隣で水瀬さんを支えるから」
「ふぇ!?あ、そ、それって……あぅ……」
顔を赤くしてどもってしまう水瀬さん。
ん?何か変なこと……って、ああ、『これからは隣で支える』の部分かな。
なるほど、確かに思わせぶりだなぁと思いつつも、否定しないで優しく微笑むと更に赤くなる水瀬さん。
それを見守りつつ、朝の掃除などは速やかに終わり、教室はピカピカになったのだけど……この朝のやり取りは俺たち二人の秘密なのは言うまでもないだろう。
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