第7話 偶然という建前
「あ、蒼井くん」
ゆっくりと図書室に向かっていると、追いかけてきてくれたのか水瀬さんが駆け寄ってくる。
「やあ、水瀬さん。図書室に行くの?」
「はい。蒼井くんもですか?」
「うん、ここの蔵書数は中々のものだって聞いてたからね」
「私もです。楽しみですね」
ふむ、やはり自然に話せているので、コミュ障という訳ではなさそうだな。
会話さえ、きっかけさえあれば人の輪にも入れそうだし、その辺は覚えおこう。
「水瀬さんは読書好きなの?」
「はい。知識を身につけるのも良いのですが、紙の本を捲るだけで不思議とワクワクするんです」
「それはあるかもね」
電子書籍というのものが普及している昨今、紙で本を読む人が減ってはいるとは思うけど、俺も紙で読むのが好きなので気持ちは分かる。
確かに、電子書籍は便利だとは思うし、俺も持っているけど、好きな本は実本で持っておきたいという人はそこそこ居るとは思う。
タブレット一つで、色んな作品が読めて、少し暗い時間帯(電気を付けるか迷うレベル)の時も快適に読めるのは素晴らしいことだし、文明の利器は是非とも活用するに限るけど、古式ゆかしいやり方も良いものなのでケースバイケース、用途や気分によって使い分けるに限るね。
「蒼井くんはどんな本を読むのですか?」
「んー、その時によるかな」
基本的に、俺はジャンルに囚われずに気分によって巡り合ったものを選ぶ傾向が強い。
「最近読んだのは、一昔前に流行った携帯小説系の恋愛モノだったかな?」
「そういうものも読むんですね……」
「水瀬さんはそういうのは興味無いの?」
「そ、それは、その……学生の本分は勉強なので、私にはまだ早いというか……それに、ああいうのはその……ちゅ、ちゅーとかありますし……」
……うん、想像以上に初心なのは良く分かった。
というか、恐らくキスレベルで躓くのなら、その先の展開を匂わせるようなタイプを見たらショートしそうだな。
でも、不思議とその恥じらいの表情が可愛いと思えるので自分でも少し驚く。
「そっか。確かに学生のうちはスキルアップに勤しむのがいいのかもね」
「そ、その通りです!蒼井くんは分かってくれるんですね」
心底嬉しそうな表情を浮かべる水瀬さん。
あまり共感を得られなかったので、俺の肯定が嬉しく思えるのかもしれないね。
「まあ、若いうちの方が柔軟な思考をしてるし、覚えるのも早いからね。でも、学業の邪魔にならない程度には俺も清い交際はしてみたいかも」
「あう……そ、それはそうですね……私も、その……憧れない訳ではないので……で、でも!不純なのはダメだと思います」
「うんうん、そうだね」
何とも可愛いことを言う水瀬さん。
興味はあるようだし、これは彼女を追い詰めないように距離を詰めるべきかもしれないなぁと思いつつも、真面目で真っ直ぐなその様子がとても心地よく感じられるのであった。
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