なぜ俺を巻き込むのですか…?!

「そうだったのね。あゆりん、辛かったわね…」

真央が優しく林さんのことを抱き締めた。途中でなぜか俺が睨まれた気がするんだが?なぜだ?林さんが真央と花奈に話をした。大輔はぼーっと空を眺め、俺はうつむき、真央は必死に林さんを慰め、花奈は共感して泣いていた。真央のことが好きなはずの大輔は、たまに真央を見るものの、めんどくさそうに突っ立っているだけだった。

「大輔くん、もう何年も私の彼氏だったの。なのに、なのにいきなり…」

途中からは涙が出るばかりで声が出ず、少し落ち着くと大輔のことを睨んでいた。

「大輔先輩ひどい!あゆりん、どれだけ先輩のこと好きだったと思ってるんすかぁぁぁ!」

花奈がボタボタと溢れて止まらない涙を手で押さえながら、叫んだ。林さんが、一生懸命怒ってくれる花奈の頭を撫でた。

「ちょっと!空くんのせいでもあるんだからねっ!」

おいおい、なんだよそれ…。花奈が俺のことを指差した。関係のない俺にいきなり矛先が向けられた。真央はまた始まったと言わんばかりに肩をすくめ、林さんは目を見開いて花奈を見た。


「あの時はどうなるかと思ったよ。」

真央が甘い紅茶を飲みながら苦笑した。花奈が突発的な行動をすることはよくあるけれど、あんなところでとは思ってもいなかった。おかしくなってしまった花奈を落ち着かせるため、花奈と真央と大輔と林さんは俺んちに来た(なぜ俺ん家…)。林さんはやっと落ち着き、気まずそうに大輔と反対側の椅子に座って俯いている。花奈はまだ目が赤いけれど、大好きなスナック菓子の誘惑には負けてしまったようだ。不機嫌そうにポテチを頬張る。可愛い。

「花奈ちゃん、真央ちゃん。私のために怒ってくれてありがとう」

林さんが小さい声でそう言った。花奈がうちにあった箱ティッシュを手にとって鼻をかんだ。真央は複雑な表情で大丈夫、と繰り返している。真央は久しぶりの俺の家に戸惑っていて、一刻も早くこの気まずい空気から逃げ出したいようだ。

「大輔先輩、そんな風に軽々しく人を振るのって良くないと思うんです私は!」

…花奈が大輔を睨む。大輔は片手で、持っていたティーカップをガシャンと音を立てて置いた。お願いだから俺の家のもの、壊さないでくれよ…。静かになった暗い室内に大輔のイラついた声が響いた。

「ギャーギャーギャーギャーうるせぇなぁ!愛由が俺に真央さんの良いところを話したのがいけないんだろ?『病気になった幼馴染みに優しくできるなんて、王子様みたい』って、『誰にでも優しい真央ちゃんカッコいいー』って言ったんじゃないかっ!」

空気が固まった。すべてを人のせいにする大輔に呆れ返って、諦めだした…わけではない。

「…えーっと、どした?」

4人とも、なにかに気付いてしまったかのように険しい顔をしている。大輔がごめん、と小さな声で謝った。人のせいにして、自分の罪をなくなったことにするようなこいつが、だ。え、どういうこと?俺だけが分からない内容。今の間になんかおかしいことでもあったか?

「???」

…ってちょっと待った!今大輔なんて言った!?

って…何の話?」

俺は数秒前と比べて明らかに顔色が悪くなった真央を見た。真央の幼馴染みって、俺と花奈しかいねーだろ?俺も花奈も元気だし…なに言ってんの?

「か、勘違いじゃない?みんな元気だし。だ、誰と間違えてんの(笑)?」

花奈が裏返った声で無理矢理笑みを浮かべた。

「そっか」

俺はいかにも納得しましたーっみたいな顔をして、大きくうなずいた。空気が少し柔らかくなる。…残念だけど俺は気付いちゃったよ。俺にだけ話せない理由を持った人物が、病気になっているってことに。



オレンジがかった日が暮れ始めた綺麗な空。美味しいものをたらふく食べた花奈は、満面の笑みで俺の家を出た。大輔と林さんは…なんと、手を繋いでいる。真央は苦笑いしながら俺の隣に並んだ。

「単純な野郎たちが多いと大変ね」

サラッと毒を吐く真央は、地獄のような花奈の一喜一憂モードからやっと解放され、ホッとしたような表情を浮かべている。でも、真央の気持ちが分からなくもない。散々喚き散らし、人の家にまで上がってきたくせに、結局は大丈夫でしたーなんて言ってみんな帰っていくのだ。俺の疲れも知らずに。

「大輔くん、これからはずーっと一緒にいようね」

「ん。愛由、つらい思いをさせてごめんな」

2人は幸せそうに手を繋いで微笑み合っている。


実はさっき、林さんがみんなの前でどれだけ大輔のことを愛しているか、長々と説明してきたのだ。大輔みたいなチョロいバカは、やっぱり好きかもーっとか呑気なことを言いやがって、林さんに告白をしたんだ。2人はまたやり直すことにしたらしい。


「花奈も、お菓子食べすぎだろ」

花奈に至っては2人の恋のリスタートに感動して泣きながら、バリバリとお菓子を食べていた。途中お菓子がなくなったけれど、花奈が母さんに上目使いでおかわりを頼んだせいでお菓子の量は2倍になった。俺のお金で買った夜食べる用のチョコレートまで食べられた。よし、これは今度花奈の家まで行って元を取ってやらなくちゃな!

「ってか、1人でほぼ全部食べちゃったじゃん。…少しは遠慮しろこの天然小娘め」

真央は近くにいた花奈の頭をグリグリと押さえつけた。

「痛い痛い痛い!真央ぉぉぉぉぉ」

 俺たちは大声で笑いながら小さな町をのんびりと歩いた。近所の家から香るカレーの匂いを嗅ぎながら、今日1日を振り返る。なにか、大切なことを忘れてしまったという違和感を抱えながら…。

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俺の気持ちは本物だから、、、 夢色ガラス @yume_t

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