大輔とスポーツショップ
「母さん、行ってくる。」
「はーい、気を付けてね~。」
母さんの朗らかな声と掃除機の音が俺を送り出した。俺は、最近流行りの走りやすいスニーカーをはいて紐を縛った。母さんが早歩きで玄関までお見送りに来てくれる。掃除機を止めて、長い髪をゴムで縛りながら立っている。
「じゃ。」
「はい、気を付けてね。大輔くんがしっかりしてるから大丈夫だと思うけど、危ない所には行かないようにしなさいね。遅くても夜の7時半には帰ってきなさい。いい?」
俺はテキトウに首を縦に振った。母さんは心配性だから、放っておくと長い話を聞かなくちゃいけなくなるのだ。俺は最後にもう1度、行ってきますと言ってからドアを開けた。
「よぉ空斗。」
『風間』という表札の前で約束していた相手、大輔がポケットに手を突っ込んで立っていた。
「おはよ、大輔。」
大輔は手に持っていた大きい鞄を大きく回した。
「早く行こーぜ!空斗が遅かったから電車遅れるわバカ。」
そう。実は今日、俺と大輔で電車に乗って、新しくできたスポーツ用品店に行くんだ。理由は…まぁ、恥ずかしいし、大輔も知らないようなことだから今日のところは…ヒミツだ。
サッカークラブにも入り続けている、将来の夢がサッカー選手でもある大輔。スポーツなんて未経験の俺がサッカーをやりたいと言ったもんだから、大輔は驚きながらも張り切ってお店を紹介くれたんだ!今日は、今日オープンの大きなスポーツ用品店で大輔がおすすめするサッカー用品を買おうと思っている。電車に乗らないと着かないような遠い所だけど、頑張ろう!!!
―電車の中で―
「大輔、お前林さんとは最近どうなの?」
俺は電車の席に座ると、隣に腰かけた大輔にそう問いかけた。大学生にもなって恥ずかしいけど…恋バナだ。林さんっていうのは、大輔のカノジョである林愛由さんのこと。(バイト先の店に来てラブラブしていた2人のことは、後日LINEで聞きました。一応許した。)
「ハハッ( ̄∇ ̄;)!お前、興味ねぇフリして恋愛に興味津々だよな。まだ付き合っていた人いないくせに。」
…クッソォ!痛い所と図星をつかれた!
「…ちげーよ。」
「ハハハ。」
バカにしたようなウザい笑い方。こいつめぇ!
「で?林さんとはどうなの?」
「ん?林さんって…、愛由のこと?」
俺はうなずく。大輔は思い出したようにポリポリと頭を掻いた。
「愛由なぁ…、もしかして空斗。愛由のこと好きになった?」
違うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!突っ込みどころが多すぎる。そういうことじゃねぇ。
「違うわッ!!!」
「そう?今愛由フリーだよ。彼氏いないから。」
!?!?林さんって大輔の彼氏だよな!?
「あれ、空斗には言ってなかったっけ?俺この前愛由と別れた。」
「はぁぁァァァァァ!?」
大きい声を出しすぎた。近くに座っていたおばあさんが俺を睨んだ。ひょぇ!
「どういう事ぉぉぉ!?」
「愛由以外に好きな人が出来たから振った。」
……2年近く付き合って、いきなり振っちゃった…?おいおいおい!
「好きな人って誰だよ?!ってか、なんでそんなことで振っちまったんだよ!」
「ん?愛由とデートした時に『別れよー』って言ったら泣きながらどっか行ったんだよね。別に止められなかったし、いっかーみたいな?」
おいおいおい!そんな簡単に人を振るなぁぁぁ!俺でも恋人にサラッと振られたら泣いて走り去るわッ!
「…大輔、バカじゃねぇの?」
「は?優等生の空斗からしたら俺っていうのはそりゃあ『アホバカクソクズゴミ人間』だろーな。」
サラッと大輔が自分にひどいこと言ったよな、今…。俺そこまで言ってないし、思ってないですけど。平然と言われましても。
「俺、真央さんの事が好きになったんだ~♪」
は!?真央って言った!?言ったよな!?
「あと、自分の好きな人の事を普通に人に話せるヤツっていないと思うんだわ、大輔ってすげぇな。」
俺は皮肉を込めて驚いていることを隠して言った。
「どーも。」
俺は大輔がバカだったことを忘れていた。鼻をホジりながら俺に言う大輔に俺は呆れた。俺と大輔の下らない会話は電車が目的地に着くまで続いた。
-スポーツショップにてー
「大輔、いつもここに来てんのかよ!」
大輔に連れてこられたスポーツショップはとんでもなく広かった。よく分かんないシューズやらボールやらが棚にたっぷり詰め込まれていた。近くの野球用バットをもってみると、軽いヤツから重いヤツまであって、値段の差もあった。
「今日オープンしたんだから来たのは今日がはじめてだ、バーカ。」
俺は当たり前の事を大輔なんかに言われて顔が赤くなりそうだった。
「う、うるせぇ。」
大輔がフッとバカにしたように笑ってから水泳のゴーグルのコーナーに向かって歩きだしたので、イラっとして俺は一人でボールコーナーに行った。途中から大輔も結局俺のボールを探しに来てくれた。
「空斗はまだ小さいボールでいいな。えーと、どっちにする?」
俺は差し出された特に違いの分からないボールを見つめた。
「ごめん、どっちも分からん。」
大輔がニヤリと笑う。
「空斗の好きな花奈さんならどっちがいいっていうか考えてみろ。」
…下らねぇ。俺が花奈のこと好きだって大輔にバレてたこと知らなかったし。
「花奈に聞け。じゃ、俺はこっちにする。」
俺は照れていることを隠しながら平静を装って右を指差した。青くてかっこいいと思ったからだ。
「ついでに俺も買って帰ろうかな、真央さんの趣味サッカーらしいし。」
大輔が嬉しそうに笑った。その噂はデマだと伝えるか迷っているうちに彼は買うことにしてしまった。
「真央、彼氏いるよ。」
「知っとるわバカ。でも諦めきれないから真央さんをオトスつもり。俺、真央さんとバイト同じなん。チャンスはいくらでもある。」
大輔が唐突に言った。そうか、だから真央との接点があったのか。俺は冷静に考えてからスルーした。真央をオトスとなると、相当バカな告白しないと実らないと思うよ?真央は告白に刺激を求めるアホだからさ。
今日は大輔のおかげで良い1日になったと思う。帰りの林さんと会ってしまったことを除いて。(次のお話で詳しく)
〈第13話目おしまい〉
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