とっしーの反撃!?

「ふぁぁ。」

俺は教授の『古文』という呪文を聞いて気持ち良く眠っていた。目を覚ますと、人を眠らせることができるという天才的な能力を持つ教授はブツブツと教科書を片手に話をしていた。

キーンコーンカーンコーン

…チャイムが鳴った。マジかよー。今日は頑張って最後の10分くらいは真面目に授業を受けようと思っていたのに…(いつになっても果たされない目標)。教授が黒板に大きく大きく丸をつけた。

「ここは完璧にしておくように。じゃあ終わり~。」

教授が音を立ててチョークを雑に置いた。

今日は朝から機嫌が悪い。舌打ちがたくさん聞こえる。そう、昨日の夕方に花奈に告白をして玉砕していた勇気と人気はある男、とっしーだ。さっきから「今日も花奈ちゃんと帰るつもりかよ!?」とか、「なんでおめぇみたいなクズが。」とか、ちょくちょく言ってくる。はぁ~、めんどくせー--!

「やっと家帰れるぅ!」

「終わった~!」

「家帰ったらLINEするわ。」

「寝よぉー------!」

みんなはめんどくさそうにボソボソ挨拶をし終えると、席を立って友達の席へ向かった。…ま、俺のとこにくる奴なんかいないけどな。俺はあくびをかみしめてから机の中にある教科書を鞄にしまった。すると。

「おい、話がある。ついて来いよ。」

…やっと家に帰れると思ったのに。俺は時計をチラリと見た。1時20分…。バイトは2時からだから時間はある。しょうがねぇ。俺はため息をついてから顔を上げた。とっしーだ。怒っているせいでカッコいい顔がクシャクシャになっている。俺と違って元からイケメンなくせにもったいねぇ。とっしーの後ろでは、男子がヤバいヤバいという顔をして突っ立っていた。とっしーの友人だろうか。とっしーはかなりキレているらしい。あぁ、めんどくさいなぁ。俺には山田教授との約束があるから演技の練習しなくちゃいけないのに。

「いいけど。荷物は持ってっていい?」

「勝手にしろよッ!!!」

…怒鳴られたんですけど。怖すぎないか!?怖い怖い怖い怖い。クラスの男子と女子が好奇心と憐みの視線を向けてくる。


…3日連続の体育館裏。

「てめぇ、今日もまた花奈ちゃんと昼飯食ったのかよ!!!」

「…そうですけど。」

今日のお昼もいつも通り、花奈と真央がヒトリボッチの俺を誘ってくれた。幼馴染だから優しくしてくれてるだけだと思うけど。結構可愛い花奈も真央も人気があるから、ねたまれることはあるけど。とっしーほど怖くはない。

「なんでお前なんかが!なんで俺を誘わねぇんだよ!!!」

「…知らないっす。」

とっしーの顔は真っ赤だ。そこまで怒ることなの?なんかここまでキレられると俺が混乱してくるんだけど。

「あの天然美少女の花奈様と!あのギャルあざといプリンセスの真央様と!なんで一緒に飯食えてんだよぉぉぉ!!!羨ましぃぃぃぃぃ!!!」

…花奈と真央、そんなニックネームあったの?まぁ分からなくもないけど。あと、とっしー最後心の声漏れてるよ。

「だから知らんて。」

「お前は調子に乗んなぁぁ!」

いや、乗ってないっすけど。俺はとっしーに胸ぐらをつかまれた。う、うわぁ!痛い!ッあぁ、殴られる!とっしーの熱い鼻息がかかった。ちょっと興奮しすぎなゴリラみたいで面白かったけど。そんなことは言ってられない!!!ぎゃああああ!!!

「空くん!!!」

…へ?殴られると思った瞬間、とっしーの手の力がスッと消えた。とっしーがチラリと見える。険しい顔で口をポカンと開けて、体育館裏の入口の方を見ていた。

…花奈だ。花奈が俺の名前を呼んで走ってきた。俺はとっしーの力から解放されて、その場に座り込んだ。

「花奈…?何でここにいるんだよ!」

「俊哉くんは空くんのことが嫌いだったみたいだから、今日空くんをここに連れてくるんじゃないかなって思ったの!ここは人も少ないし、空くんをいじめるならとっておきの場所でしょ!」

花奈はしゃがみこんで、座り込んでいる俺の目をしっかり見た。

「ハァハァハァ…。」

花奈の息があれている。

「大丈夫?ゴメンね花奈。」

「いいの!私より空くんの方が大丈夫!?蹴られてない?殴られてない?」

花奈が俺の肩に小さい手を乗せた。甘いコロンの香りがした。いつもは嫌いくどいこの匂いも、今日で好きになれた気がする。花奈が俺を助けてくれた、優しい甘さ。恋の匂い。

「空くん、制服の襟、ヨロヨロになっちゃったよぉ!」

花奈が俺の襟を丁寧にさわった。とっしーはそんな花奈と俺のことを呆然と見つめていた。

「花奈…ちゃん…。」

「俊哉くん、私君のこと嫌い。イライラしたからって私の幼馴染に当たらないでくれるかな?空くんも私も、迷惑なんだよね。サッサとこの場から消えてくれる?」

花奈はすごい怖い顔でとっしーを睨んだ。とっしーは後悔が溢れだしたような惨めな顔で走ってどこかへ走って行った。

「……花奈、ありがと。」

「ふふ、空くんならあのクソ男の言う事聞いちゃうかなぁって思ったの。良かった、空くんがボコボコになって泣いていなくて。アハハ!」

花奈は笑ってから、こう言った。俺は大好きな幼馴染の顔を見た。安心させるように俺の目をしっかり見つめて笑っている。

「一緒にか~えろっ!」

俺はホッとして涙腺が緩みそうになったのを何とか堪えて言った。

「おう!ありがとな!花奈!!!」

                   <第12話目おしまい>





















































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